重錘形圧力天びん(重錘型圧力計)の概要
1.重錘形圧力天びん(重錘型圧力計)
圧力計には、標準器として使用されるものから、現場計測に汎用的に利用されるものまで、さまざまな種類があります。これらは、測定原理に基づき、液柱形圧力計、重錘形圧力天びん、デジタル圧力計、機械式圧力計の4種類に大きく分類されます。
計測器には、他の物理量から組み立てることで、同じ種類の量を測定する他の計測器による校正が不要な絶対測定が可能なものと、単独では絶対測定できず、他の計測器による校正が必要なものがあります。圧力計では、液柱形圧力計と重錘形圧力天びんが前者に該当し、デジタル圧力計と機械式圧力計が後者に該当します。
液柱形圧力計と重錘形圧力天びんは、測定精度が高く、長期安定性と信頼性に優れています。しかし、取り扱いが難しく、重量があり、コストが高いという欠点があります。正確な圧力測定には、設置場所の重力加速度や周囲の温度など、環境に応じた補正が必要です。これに対して、デジタル圧力計や機械式圧力計は信頼性で劣るものの、取り扱いが簡単で、軽量かつコストも低いです。
液柱形圧力計と重錘形圧力天びんは、標準器として使用され、デジタル圧力計や機械式圧力計は現場計測で広く利用されています。標準器のうち、液柱形圧力計は圧力範囲が狭く、主に大気圧付近で使用されます。一般的な計量標準機関では、高圧を含む広い圧力範囲に対して、重錘形圧力天びんを標準器として利用しています。
今回のシリーズでは重錘形圧力天びんの取扱方法を中心に解説します。
2.動作原理
重錘形圧力天びんは、ピストンとシリンダ、重錘によって構成されます。ピストンがシリンダ内で適切な位置に浮上し回転することで、ピストンと重錘の質量による下向きの力と、加圧した圧力媒体による上向きの圧力が釣り合い、安定した圧力を発生します。このピストンが浮いた状態で、ピストンを手動または自動(内蔵されたモーターなど)にシリンダ内部で回転させることで、ピストンとシリンダの接触により力が奪われることを防いでいます。
重錘形圧力天びんの原理図を下図に示します。
この重錘形圧力天びんは、圧力P[Pa=N/m²]=力F[N](=Mg質量×重力加速度)/面積A[m²]という定義通りに圧力の発生を実現させる装置とも言えます。
この動作原理からわかるように重錘形圧力天びんの校正とはピストン・シリンダの有効断面積を評価することが主目的となります。重錘形圧力天びんの機能あるいは性能については、「OIML R110 Pressure Balance」および「JIS B 7610 重錘形圧力天びん」に定められています。
3.名称
「重錘型圧力計」という名称は計量法における基準器検査制度に係わるもので、「重錘形圧力天びん」という名称は計量法における計量法トレーサビリティ制度(JCSS)に係わるものです。今回のシリーズでは「重錘形圧力天びん」という名称に統一します。
4.種類
重錘形圧力天びんは、使用する圧力媒体によって液体式(油圧)と気体式に大別されます。ピストン・シリンダ部の構造と重錘の負荷形式の組合せによって、さらに細分化されます。
また、測定圧力の種類、使用圧力の範囲及び精度等級などによっても区分されることもあります。精度等級等の詳細については、「JIS B 7610 重錘形圧力天びん」をご確認ください。
1)圧力媒体
圧力媒体としては、液体と気体があります。
気体は流動性に優れているが圧縮率が大きく、漏れたときの危険が大きいので高圧での使用には注意が必要となります。気体の圧力媒体には、窒素や乾燥空気などが多く用いられますが、一般的には窒素が用いられています。
液体は圧縮率が小さく、高圧での取扱いが気体に比べても容易なため、高圧での圧力標準の実現に使用されています。圧力媒体には高圧でも流動性を維持し、固化しないものを選ぶ必要があります。一般的には合成潤滑油のセバケイト(セバシン酸ジオクチル)が広く用いられています。
2)ピストン・シリンダ部の構造
ピストン・シリンダには用途や圧力範囲に応じて、いくつかの種類があり、その種類に応じて有効断面積の評価方法も異なります。代表的な例としては、以下の3タイプがあります。
単純型(シンプルタイプ)
内包型(リエントラントタイプ)
隙間制御型(コントロールドクリアランスタイプ)
単純型(シンプルタイプ)
・有効断面積の圧力依存性が線形です(数百MPaを超える高圧力範囲では変形量が大きくなり、線形性が成り立たなくなる可能性があります)。
内包型(リエントラントタイプ)
・圧力依存性は単純型と同様に線形ですが、圧力変形係数が負の値をとります。
隙間制御型(コントロールドクリアランスタイプ)
・は測定圧力とは独立な圧力(制御圧力)をシリンダの外周面に作用させ、ピストンとシリンダの隙間を能動的に制御することができます。
3)重錘の積載構造
重錘形圧力天びんの重錘で、最も簡単な構造は積載式に示します。通常、人が手軽に積み下ろしできる質量である5kgほどの重錘が10個のセットになっていて、人の手によってピストンの皿のうえに積み下ろされます。
重錘が大きくかつ複数ある場合には機械的にもまた精度的にも安定性を確保するため、重錘をドーナツ形状にし、機器の重心をピストンの高さより低い位置にするような構造となります。このような構造はベル式と呼ばれ、主に高精度の重錘形圧力天びんに採用されています。
高圧用のものでは懸垂式が採用されており、重錘質量~200kgの円盤を10個程度、鎖状の結合で組み合わせたもので、超高圧標準として採用されています。ただし、可搬性が良くない為、作業用の標準器としては向かない構造です。
5.参考文献
JIS B 7610 重錘形圧力天びん
JIS B 7616 重錘形圧力天びんの使用方法及び校正方法
産業技術総合研究所計量標準研究部門:気体高圧力標準に関する調査研究, 計測と制御, 第53巻, 第8号 (2014年8月)
産業技術総合研究所計量標準総合センター:液体高圧力標準に関する調査研究, 産総研計量標準報告, 第6巻, 第2号(2007年5月)