重錘形圧力天びん(重錘型圧力計)の校正方法
1.概要
重錘形圧力天びんの校正はピストン・シリンダの有効断面積を評価することが主要な目的であることは、今までの解説シリーズでご理解いただけたと思います。今回は、標準器(事前に校正された重錘形圧力天びんが用います)との比較校正で未知の重錘形圧力天びんの発生圧力や有効断面積を評価する方法を紹介します。
校正方法は、「ピストンの降下速度を観測する降下速度法」、「発生圧力差を差圧計で観測する差圧計比較法」および「高精度圧力計を比較器とした置換比較法」の3つの方法が一般的です。両重錘形圧力天びんの発生圧力が平衡状態にあるかどうかを判断する方法が異なっているだけで、いずれの方法も、標準器と被校正器の2台の重錘形圧力天びんをつなげて配管し、発生圧力を比較する方法となります。
2.校正装置
今回は、簡単に実現可能な「高精度圧力計を比較器とした置換比較法」を紹介します(詳細は参考文献を掲載していますので、ご参照ください)。2つの重錘形圧力天びん、2つのバルブ、2つの圧力調整器および1つの高精度圧力計を準備し、これらをつなげて配管します。なお、配管構成等を工夫することで圧力源などを1つとすることも可能です。
3.測定手順
基本的な重錘形圧力天びんの使い方は以下の内容を考慮してください。
①校正点とする目標の圧力を装置全体に加圧するため、各ピストン・シリンダの公称有効断面積を使用して算出された重錘(質量)を重錘形圧力天びんへ積載します。
②2つの圧力調整器を使用して、2つの重錘形圧力天びんを含む校正装置全体を加圧します。
③微小分銅を使用しない場合、各重錘形圧力天びんが発生する圧力には若干の差があります。そこで、圧力調整器Aを用いて重錘形圧力天びんAのピストンを浮かせた後、バルブBを閉じ、ストロークの中心付近でピストン位置を保持します。
④その後、圧力調整器Bを用いて重錘形圧力天びんBのピストンを浮かせた後、ストロークの中心付近でピストン位置を保持します。
⑤校正装置の圧力変動が安定するのを待ってから、重錘形圧力天びんAで発生した圧力を高精度圧力計で測定します。測定は10秒ごとに6回サンプリングし、測定で得られた6つの値から平均値を測定値IA1とします。
⑥バルブAを閉じ、バルブBを開きます。先ほど同様に重錘形圧力天びんBで発生した圧力を高精度圧力計で測定します。こちらも同様に測定は10秒ごとに6回サンプリングし、測定で得られた6つの値から平均値を測定値IB1とします。
⑦再度、バルブBを閉じ、バルブAを開きます。校正装置の圧力変動が安定するのを待ってから、重錘形圧力天びんAで発生した圧力を高精度圧力計で測定します。測定は10秒ごとに6回サンプリングし、測定で得られた6つの値から平均値を測定値IA2とします。
この操作を任意の校正点ごとに繰り返し行って、比較校正を行います。
4.測定結果
測定中の発生圧力は、各ピストンの温度や周囲圧力、ヘッド差などの環境要因によって刻々と変化します。しかし、この変化量が一定と仮定できる状態ならば、測定値IA1とIA2を用いることで、重錘形圧力天びんAと重錘形圧力天びんBの発生圧力差DP次のようになります。
この方法は等量比較法(置換ひょう量法)と呼び、測定値を表示しない分銅や抵抗器などの校正に用いられます。必要な精度に応じて、ABAやABABAなど測定回数を増やします。
発生圧力差から重錘形圧力天びんBの発生圧力は次のようになります。
重錘形圧力天びんAが事前に校正された重錘形圧力天びんの場合、その校正結果などから発生圧力を算出可能ですので、重錘形圧力天びんBの発生圧力や有効断面積を評価することが可能となります(評価方法については下の記事を参考にしてください)。
5.メリット
発生圧力差を正確に求めるために、高精度圧力計と2つのバルブを用いた測定方法を紹介しました。この方法では、簡単に発生圧力差を求めることができ、測定間隔を均等に管理することで使用する高精度圧力計のドリフト成分の影響を概ね除去できます。また、この方法以外の校正方法と比較すると短時間で安定して、各圧力における重錘形圧力天びんの発生圧力や有効断面積を定量的に評価できます。
6.参考文献
JIS B 7610 重錘形圧力天びん
JIS B 7616 重錘形圧力天びんの使用方法及び校正方法
産業技術総合研究所計量標準研究部門:気体高圧力標準に関する調査研究, 計測と制御, 第53巻, 第8号 (2014年8月)
産業技術総合研究所計量標準総合センター:液体高圧力標準に関する調査研究, 産総研計量標準報告, 第6巻, 第2号(2007年5月)
1994 OIML regulation R110, edition 1994(E) Pressure Balances