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【020】ぼーっとしてたら、外部刺激に反応するだけで一生が終わってしまうかもよ「終末のフール/伊坂幸太郎」

私の大好きな「終末のフール」by 伊坂幸太郎の感想です。
「終末のフール」を読んでいない人にも、なんなら読んでいる人にも意味不明だと思いますが、ただの私的解釈による読書感想文です。好き勝手に書きます。

ストーリーを超ざっくりまとめると、地球に小惑星が衝突するので8年後には人類滅亡するよ、ってことが判明してからの人間模様の物語です。

小節に分かれていて、いろいろなタイプの人間物語が描かれています。期限付きの命の受け止め方やそれまでの人生で抱えてきたトラウマによって、いろいろなタイプの反応が展開します。一編一編が、人生や命に対する示唆があってとても面白い。…だけでなく、それぞれの小節に仕込まれた伏線と、その伏線が複数の小節をまたいで回収されていくのが痛快なので、短編集として小分けで読むより、通しで一気読みしたほうが楽しいと思います。

個人的に、このストーリーの中で最も印象深いキャラクターは、いくつかの小節にまたがって登場する脇役のインド人ベテラン俳優です。

彼は、小惑星が衝突するぞ!という報道とパニックが起こる前に映画界を引退して、電波も届かない田舎に隠居して、のんびり自給自足の生活を送ります。ある時その奥地を訪ねたキャスターに、内心「こんなところまで追いかけてきて迷惑だな」と塩対応しながらも、マイクを向けられて「地球が終わるまであと2年半ですがどんな心境ですか?」と聞かれた答えが可笑しい。
「え?嘘?小惑星?マジで?」

地球上では、未来の悲劇によって思考を支配されて生きる人たちが、恐怖と不安に占拠された不幸な心理状態にあって、暴動や略奪のために小惑星以前に命を落としてしまう人も、自ら命を絶つ人もいるなかですよ。このリアクション、一人で笑っちゃいました。個人的には、ここがこの本のクライマックス。

外部の刺激に対して反応的に生きるか、それらと自分を切り離して生きるか、対照的だなあと。物理的に情報遮断された状態と、情報に反応的にならないことは実際には異なるけれど、今ここに意識を集中して生きるというマインドフルな生き方のデフォルメ見本のようにも見える。

実際には、小惑星の衝突はなくても、私たちの周りにはSNSをはじめとする承認欲求を煽る仕掛けや、脳の報酬系を操作したり危機感を煽ることで、行動をコントロールするサービスが溢れています。ぼーっと生きてたらその手のものに脊髄反射している間に人生が終わるんじゃ無いかと感じることさえあります。

田舎にこもって、情報遮断することはしないとしても、情報との付き合い方を身につけてマインドフルに生きていこうと、脇役のインド人俳優から教えてもらった気がします笑。

きっといろんなところに感動のツボがある作品です。人によって感想は違うと思うので、自分の読み方をしたら楽しいと思います。おすすめの一冊です。

写真=京都の天龍寺で撮影した達磨。マインドフルの象徴として。まだ当時はとても空いていて快適でした(2022年2月撮影byじぶん)


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