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『燕は戻ってこない』長田育恵さんに会いにいって来た
「私、物語マニアなんです。脚本を書いている時も、小説、映画、漫画、ゲーム、ありとあらゆるジャンルから物語を摂取しないと眠れなくて」
朝ドラ『らんまん』、ドラマ10『燕は戻ってこない』の脚本を手掛けた長田育恵さんの言葉だ。
長田さんは、人間のあらゆる感情を言葉で表現できる「物語」の世界に憧れ、「物語を書いて生きていきたい」と、早稲田大学第一文学部に入学。ミュージカル研究会のサークルを訪れたことから舞台作家としての道が始まった。
◆演劇台本とドラマ脚本。
舞台では言葉が見えないのに、役者の演技から、感じている気持ちを観客が受け取り、役者と観客が感情を共有できる面白さがある。
テレビドラマの脚本も、舞台の台本も、書きたいことは同じ。
◆ 板垣麻衣子さんとの出会い
プロデューサーの板垣麻衣子さんとは、朝ドラ『らんまん』以来のタッグ。板垣さん曰く、『燦々』や『すぐ死ぬんだから』など、長田さんの書くドラマは、どれも面白いと感じていた。
それに、朝ドラは、ある種、演劇的。あまり場面が変わらず、登場人物が集って話を進めていく。
朝ドラでも、きっと、面白いものを作るだろうと思っていた。
連続ドラマで5話までしか聞いたことがない長田さんが130話の朝ドラを書くことに。でも、板垣さんも長田さんも不安はなかった。
演出家のマックス・ウェブスターさんと共に、三島由紀夫の『豊饒の海』四部作を一本の戯曲として手がける時になった時も、『登場人物同士の関係性の変化』を書けば良いのだ、と思って書き切ったから。
◆長田さんの脚本のスゴいところ
「脚本を書く時、私はこの人は主役、この人は悪役、と役割を決めて人を描かない」と長田さん。
「役割を固定せず、一人一人、誰にでもいいところ、悪いところがあって、それが人間だよね、と思っている」
だから、長田さんの書くドラマには、意地悪を言うだけの人、正しいだけの人は出てこない。それぞれが狡さも弱さも抱えた深みと魅力に溢れている。
◆井上ひさしさんの言葉
長田さんの師匠である井上さんは長田さんに『人生で一回しか言わないセリフを書き込みなさい』と教えてくれたという。
『らんまん』で言えば、神木隆之介さん演じる万太郎が最終回で言った『愛しちゅう』。これは神木さんからのリクエストだった。それまで面と向かって言ったことがないからこそ、すえちゃんの最期に是非とも言いたい、と。
このリクエストを受けて脚本家としてやったのは、神木さんの『愛しちゅう』のセリフが、感情のストロークの頂点にくるよう、物語の構成を組み立て直すこと。
もともと、言葉がなくとも伝わるようにはしてあるが、最後のセリフが劇的に生きるようにシーンを積み重ねていき、寿恵子が「私がいなくなったら、草花に会いにいってね」と伝えると、堪えきれず、全ての気持ちを凝縮して「愛しちゅう」と言うようにする。
脚本家の工夫、勝負どころでもあった。
◆ 『燕は戻ってこない』の企画意図
プロデューサーの板垣さんが桐野夏生さん原作『燕は戻ってこない』をドラマ化したかった理由。
まずは、何より板垣さんご自身が原作を読んで面白い、と惚れ込んだから。
人物が魅力的で、生殖医療という、社会的で今日的テーマを扱っている。
代理母という選択肢の是非は白黒つけ難い。
SNSでは、何かと白黒つけたがり、批判し合うが、そんなに簡単なものではないと感じていた。
人間を白黒わけず、丸ごと愛そうよ、という思いもあった。
◆『燕は戻ってこない』の魅力あれこれ。
ディスカッションドラマであること。
テンポの良さやリズムで10分半ほど人物が対話し合う長尺の場面でも、力あるワンシーンになっている。
原作には「仔犬を買ってマチューと名付けた」
とある。
脚本家である長田さんは、この一文から人物たちの関係や感情に思いを馳せ、イメージを広げていく。
試みたのは、基と悠子の対比。
犬を飼う=長かった不妊治療の終わりの象徴。お金で手に入れる幸せ。
悠子は大丈夫、子どもは授からなかったけど、犬を迎えて新しい家族の形を作ろうと決意している。基は、それに対して、悠子がそれで満足するなら買っていい、でももう一回だけ試そうと言う。悠子は自分の意図が伝わっていないと感じる。
悠子は『不育症』(=胎動があっても、子どもが体内で育たない)だった。
これを映像では、
『引き出しにしまった3冊の母子手帳』で表現した。胎動があると、母子手帳はもらえるが、もらったまま使うことがない。
悠子が三度の絶望を味わった痛みをこんなふうにリアリティと共に伝えていく。
【後編】へ続く(近日公開)
※新宿紀伊國屋で行われたNHKドラマ10「燕は戻ってこない」板垣麻衣子プロデューサー×脚本家 長田育恵さんトークイベントでのメモをもとに執筆しています。
※日経クロスウーマンアンバサダーblogより転載