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ビッグイシュー講談部、結成1周年。販売者のクラブ活動がもたらすもの。

「もっともっと上達するように頑張りたいと思ってるんですわ」。出番を控えた玉玉亭播秀さん(たまたまてい・ばんしゅう ※ 、販売場所=大阪・梅田新道交差点付近)は、そう言ってクリっとした目を三日月ばりに細めた。声のトーンは高い、明るい。なんなら、透き通っている。ああ、播秀さんは本当に講談が楽しくなってきているんだなあと、こちらまでうれしくなった。――ビッグイシュー販売者から成る「ビッグイシュー講談部」が立ち上がってから早1年になる。

※講談部の部員の “芸名”は、玉田玉秀斎さんがつけてくださった。「玉田」から“玉”を、「玉秀斎」から”玉”と”秀”を、そして部員それぞれの故郷にちなんだ漢字を入れている。

そういえば1年よりもっと前、私は播秀さんとそれほどお話をしたことはなかったかもしれない。ビッグイシュー大阪事務所で顔を合わせた時も、「こんにちは」「暑いですね」と簡単な挨拶をするぐらいだったように思う。播秀さんも「こんにちは」とやんわり挨拶を返してくれていたぐらいだったはず。だから、播秀さんは落ち着いた、おっとりした方だという印象だった(その頃は…、笑)。

それが今では、「こんにちは」と挨拶すると、「こんにちは。あ、そやそや、あのね、今度のお稽古はね……!」と身振り手振りとともに息つく暇もないぐらいのスピードで言葉があふれ出て、表情もクルクルと変わる。もはや私はなかなか口を挟ませてもらえない。この1年で――つまり講談部の活動が始まってから、播秀さんは笑って話すことが増えて、無駄話や世間話をしてくれることも本当に多くなった。

さて、「ビッグイシュー講談会」。講談師の玉田玉秀斎さんが2019年1月から月1回開いてくださっているもので、この7月で17回目を迎えた。会場は、大阪市中央区にある素敵なカフェ「周(あまね)」さん。

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第17回は7月30日に開催されたが、今回も玉秀斎さんのお弟子さんである玉田玉山さんの「玉田玉山物語」で幕を開けた。モスバーガーでLサイズのアイスコーヒーを頼んだ玉山さん……なんと……! 勢いのある語り口。その渦に体ごと巻き込まれるような感覚で講談の世界に引き込まれた。むっちゃ面白かったです。

続いて、玉田玉秀斎さんがご登場。玉秀斎さんの声は、小学校時代の信頼できる担任の先生のような、安定していて安心感がある声だ。一言一言に温かなお人柄も滲み出て、このビッグイシュー講談会なるものを思い立ち、継続してくださっているのも、玉秀斎さんだからこそだと改めて思う。今回は初めてお越しになったお客さまも多かったので、冒頭で雑誌ビッグイシューについての説明も丁寧にしてくださった。

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このビッグイシュー講談会では、昨年12月からビッグイシュー講談部も出番をいただき、日ごろの練習の成果を発表させてもらっている。今回は、まずは播秀さんが、7月15日号(表紙:少女時代ユナ)の誌面紹介を講談で(↓)。台本は播秀さんが本誌を読み、自分で作っている。

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続いて、玉玉亭壱秀さん(たまたまてい・いっしゅう/販売場所=淀屋橋)が、7月1日号についての1分講談。画像は、スパイク・リー監督のインタビューについて講談の節回しで説明しているところ(↓)。壱秀さんも台本は自分で考え、組み立てている。

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玉秀斎さんは当初から、「販売者さんたちにも芸能を楽しんでいただけたら」とビッグイシュー販売者さんをこの講談会に無料ご招待してくださっている。そうして講談会を毎回観に来ていた販売者さんから「僕も講談をやってみたい」という声が上がったのは、5回目(2019年5月)の講談会を終えたあたりのことだった。

ビッグイシュー販売者やホームレス当事者を多角的にサポートする「認定NPO法人 ビッグイシュー基金」は、文化スポーツ活動を積極的に応援している。当事者のなかから何かに取り組みたいという声が上がった場合は、3人以上希望者が集まればクラブ活動として認定し、その活動費の一部を補助するという規約がある。(すでにサッカー部や野球部、パソコン部、英語部などがある)

そこで、「講談やりたい人!」と募ったところ、なんと4人が集まった。まさかの「ビッグイシュー講談部」の誕生だった。さらに、玉秀斎さんも「それではお稽古いたしましょう!」と二つ返事でご指導を引き受けてくださったのだ。それから1年。お稽古は基本的に月2回。玉秀斎さんと玉山さんが多忙な中で時間を縫って、ビッグイシュー講談部の面々にご指導してくださるという何とも贅沢なクラブ活動になっている。感謝しかない。

ホームレス状態の人に限らず、誰にとっても、小さくても何か目標がある毎日のほうが、表情が豊かになる。他の誰かと一緒に活動し、話し、学び、笑う時間が人の心に与える影響は大きいと、講談部の活動を近くで見させてもらって実感するばかり。

7月30日の講談会では誌面紹介のほか、播秀さんが「私の趣味」、壱秀さんが「小学校の頃の思い出」というテーマでそれぞれに新しい創作講談を披露。こちらも台本はそれぞれ自分で作り、玉秀斎さんにお稽古をしていただき、当日はお客さんの前で高座に上がらせていただいた。

そして、講談会の〆は、玉秀斎さんによる「ビッグイシュー講談」。ホームレス状態を経験したビッグイシュー販売者さんにヒアリングし、その波乱万丈の半生を続き読みで語り続けてくださっている。そこにはビッグイシュースタッフでさえ初めて知る、販売者さんのさまざまなエピソードが盛り込まれていて、玉秀斎さんの取材力にはいつも唸らされる。

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すべての演目が終わり、お客さまをお見送りし終えた21時頃、私も帰路に着く。帰りの電車の中で見たスマホに、玉秀斎さんのお師匠、旭堂南陵さんのご逝去の報。この日の午前に旅立たれたとのことだった。講談会では、玉秀斎さんも玉山さんもそのことはおくびにも出さず、いつも通り明るく丁寧に会を務めてくださった。南陵さんがいて、玉秀斎さんがいたからこそ、ビッグイシュー講談会、ビッグイシュー講談部があり、誰かの人生に小さくても明りが灯り、笑いとともに様々なテーマをわかちあえる場をいただいている。改めて感謝の思いが湧いた。合掌。

ビッグイシュー講談会2

次回のビッグイシュー講談会は、8月31日(月)の夜に。カフェ「周」さんにて。感染予防対策をして小規模で行います(要予約)。

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