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Winterがagainで。

 また冬だ。気付いたら冬が来ていた。昨今は仕事が妙に忙しい。大して儲かってもないくせに、毎日毎日一体何なんだ。そんな悪態を心の中で吐く。ほどなく吐いた悪態は心を出発し、体中を駆け巡っていく。重苦しさを喉の奥いっぱいに集めた悪態は、最後に溜息と混ざるのだ。
 吐いた息と共に、世に出て行ったそいつは、瞬く間に白く染まった。鬱々した気持ちに似つかわしくない純な白色は、いつも私を置いて消えていく。

 嗚呼、冬だ。気付いたらまた冬が来ていた。


 相変わらずの毎日を過ごしているのだが、最近はめっきり寒くなった。なんなら有り得ないほど急に寒くなった、と声に出して文句を言いたいところだが、生来の暑がり故に今年の11月中旬はギリギリ夏であるという非常に大らかな判断を下していたため、恐らく初冬に乗り遅れていたのではないだろうか。というのが今のところの私の見解である。皆様と足並みを揃えるために一旦は黙っていようと思う。

 しかし、だ。基本的に主観でしか物事を判断できない種族に属しているため、種族的な個体差で現在どの程度冬に乗り遅れているかはイマイチわかっていない。今着ているパーカーの下はまだ半袖Tシャツ一枚だ。そして、ここのところ数日、その状態で腕が肌寒くなっている。ついに、そう、ついに、eventually。だからこれはもう冬と判断していいのではないか。いいよね??冬だね。やっと会えたね。そう思って今に至る。この気持ちを文章にしたい。エッセイ、いや、私から冬へのラブレターのようなものかもしれない。


 夏は好きだがいかんせん過ごし辛い。裸一貫から脱ぐことが出来ないのもなんとなくマイナスポイントだし、汗を掻いて洗濯物が増えがちなのも萎える、昨今は日光の下に居るだけで危険な暑さ。何だそれ。
 その点冬はどうだろうか、着れば着るほど温かいではないか。洗濯物が乾きにくい、関節が痛みやすい、なんだかお腹が冷える、という点を除けばかなりの高得点と言っても差し支えない。寒さを理由に、気になるあの人と手だって繋ぎやすいのだ。
 で、あらゆる面を比較し、公正な判断の結果、ここ30年くらい秋が総合優勝を果たし続けている。夏だの冬だの言ってても結局秋。マイナスポイントが短いこと以外に見つからないのだから。秋最高。


 秋を讃えるあまりに話が逸れた。

 えーっと、なんだっけ。あぁ、そう、寒いのだ。
 インナー半袖人間というステータスのデバフ状態をなんとかしたい。冒険に出るにはあまりに貧弱な装備なのだ。
 そのために一般人の味方である長袖インナー、俗に言うヒートテックというものを準備したいのだが、現在は家の中で行方不明となっている。伝わらないだろうが、あの狭い家のどこに消えるというのだろうか。半年以上前に集団疎開を行った結果、神隠しにあったらしい。私は帰りを待っているし、昨年よりも好待遇で迎えるつもりだ。今どこにいるのだ、昔のように仲良くしようじゃないか。


 さて、それはそうとして現状居ない者を嘆いても仕方がない。服に思いを馳せる前に、現実を見る方が先だ。毎日、朝一番の事務所がやたらと寒いこともあり、インナー半袖人間的には出社した後の室内でも通勤時との温感にあまり変化がないままなのだ。エアコンが効くまで、この時間が少し辛い。
 と言うわけで、個人的に最近はウォーターサーバーが活躍している。ウォーターサーバー、あなたはご存知だろうか。ウォーターサーバーというのはあれだ、端的に言うとウォーターをサーブする機械だ。機械がウォーターをサーブしてくれると文明のレベルが数段上がった気がする。手動だけど。
 弊社のウォーターサーバーは赤と青の注ぎ口があり、それぞれお湯と冷水が出る。火を使わなくても、出会って1秒でお湯。それを四六時中使えるというのはなかなかアツい。お湯だけに。今までみんなには秘密にしていたけど、なんと温かい飲み物を作って飲むことが出来るのだ。非常にカルチャーを感じる。
 私の体は温かい飲み物を飲んだらすぐ暑さを感じがちで、いわゆる冬が本番になるまでは冷たい飲み物とズブズブの関係だ。しかし冬は不思議なことに温かい飲み物が心地良く、暑くならない程度に温まる。汗を掻かない素晴らしい季節。故に私は冬にウォーターサーバーの赤い注ぎ口を解禁する。
 わかっている、そろそろ自分でも何について語りたかったのかを見失い始めている。


 主観的な話に戻るが、種族的な個体差で相変わらず冬に乗り遅れてそうな私は、冬の始まりを正しく認知できていない気がする。言ってしまえば同じように冬の終わりもよくわかっていない。もちろん季節は誰にとってもグラデーションで、画一的な思考に当て嵌まらない。なので、「あなたの冬はどこから?私は氷点から」みたいな暴論も唱えることが出来ると言えば出来るわけだが、これだけ大仰に文章を書いている割にはそこまで大袈裟な気持ちでもない。
 寒いと呟いた私を見て、後輩が「ああ、ここから冬本番なんですね」と言ってきたことに対する、私の声なきアンサー(文章)だ。中身の無い気持ちを通勤時間にせっせとしたためているのだ。


 弊社ではほうじ茶派とブラックコーヒー派の二大派閥がウォーターサーバーで温かさを日々享受している。お湯が美味しい飲み物へと変わる魔法のようなパックやら粉末やらは、会社としてどこまでが経費で落とせるのか、私はあまりよくわかっていない。しかし、私はみんなの笑顔が見たいので、なんだか安そうなお茶とコーヒーをそれはそれは大量に買ったのだ。会社のお金で買ったのだ。なんて素敵な慈愛の心だろう。


 決済権の一部を持つ私はみんなの笑顔を遠巻きに見ながら、今日もそっとVAN HOUTENのミルクココアを飲んでいる。会社のお金で飲んでいる。なんて素敵な自愛の心だろう。𝑩𝑰𝑮𝑳𝑶𝑽𝑬__。


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