その時、チャーチルは65歳だった
画面には、山高帽を被り、葉巻をくわえた恰幅の良い男が映っている。
<男の顔は履歴書>というプロンプトに従いAIが画像生成したら多分こうなるんだろな、の眼差しは眼光鋭く、しわのひとつひとつが闘争の歴史を物語っている。
彼の名は、ウィンストン・チャーチル。
NHK「映像の世紀 チャーチルとヒトラー」のなかで、チャーチルがイギリスの首相に就任したことを伝えるナレーションに、ぶったまげた。
これだ。
「その時、チャーチルは65歳だった」
なに?!ろくじゅうご!あの顔で!あの貫禄で!
俺とあんま変わんないじゃ。
小津安二郎「東京物語」で、尾道から上京する年老いた父親を演じた笠智衆は、細身の身体に悲壮感だけをまとった、孤独な老人そのものだった。
その姿にこんなナレーションが添えられると、これまたぶったまげる。
「その時、笠智衆は49歳だった」
なに?!よんじゅうきゅう?あの髪で!あの哀愁で?
俺より若いじゃん。
「太陽にほえろ」の七曲署のベテラン刑事・長さん(下川辰平)のあの角刈り頭の佇まいは、定年まもない古参の刑事だと思っていた。
でも。
「その時、長さん(下川辰平)は44歳だった」
なにぃ!
ひょっとして昔の時間は、今とはまったく異なる速度で流れていたんじゃないかと思うほど、みんな老けている。
でもおかしいな。
倍速だとか時短だとか効率性だとか、今ほどせわしなく、隙間なく時間を埋めた日常を送っている時代はなく、このスピード感だったら、老け速度はもっと加速されてていいのに。
なんだか自分の顔の履歴書は空欄だらけのような気がしてぞっとする。