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ポーニョポニョとズンドコ節に支配されて、またそれも良し

我が偏愛する翻訳家・岸本佐知子さんのエッセイに「ホッホグルグル問題」(「ねにもつタイプ」より)というのがあります。
何も考えずにぼんやりしているときに頭のなかを支配する<声>と<音楽>について書いています。

                                      
岸本さんの脳内を支配するのはまず、「ホッホグルグル」というつぶやき。

「ホッホグルグル」?

いったいなんのこっちゃ?

いや、しかし、たしかにある。正体不明のつぶやきに脳内が支配されてしまうことが。

岸本さんは、さらに厄介な脳内支配音楽についても語っています。

「スンズンズンズンズンズンドコ」

それは「プリティ・ウーマン」の前奏です。

「ズンズンズンズンズンズンドコ」と聞こえるその前奏が、エンドレスで流れてくるときがあると嘆いている。


「ズンズンズンズンズンズンドコ」
その悪霊は、家を飛び出し逃げ出してもついてくる。

足を速めれば速めるほど「ズンズンズンズンズンズンドコ」も苛烈さを増す。

悪霊「ズンズンズンズンズンズンドコ」を払うためにはどうすればいいのか。
そう、悪をもって悪を制す。

岸本さんは大胆にも「ズンズンズンズンズンズンドコ」に「チュチュチュチュチュ、チェリーボム!」をぶつける手に出た。

「チュチュチュチュチュ、チェリーボム!」

それは、かつてランナウェイズという女性バンドが歌っていた「チェリー・ボム」という曲のサビ。

「ズンズンズンズンズンズンドコ」VS「チュチュチュチュチュ、チェリーボム!」

音楽対音楽の対決で相討ちとなり両方消え失せれば良し、しかし、どちらが生き残り、相手のパワーを吸い取り、威力を増すこともあるから恐ろしい。


わたしもかつてある曲に脳内が支配されたことがあった。2008年夏。

それは

「ポーニョポニョポニョ さかなのこ」

気を抜くと危ない!
ほら、「ポーニョポーニョ」が、「ズンズンズンズンズンズンドコ」のように、脳内を駆けずり回っていることに気づく。

会議でアイデアが煮詰まって誰かがため息をついたあと、脳内に「ポーニョポーニョ」が突然あらわれる。

信号待ちで立ち尽くしているとき、「とおりゃんせ」のメロディがなめらかに「ポーニョポーニョ」に変わっていく。

混んだ銀行の順番待ちで番号札を見つめながら「あと7人か」と思った瞬間、「ポーニョポーニョ」は脳内で励まし始める。


古くは「およげたいやきくん」「だんご3兄弟」なんて言うメロディも日本中を駆け巡っていた。
しかし個人的にそのどちらにもわたしは支配されなかった。
ところがどっこい「ポーニョポーニョ」は強烈だ。
コロナウイルス並に免疫のない心身に深く染み入ってくる。


歩けば「ポーニョポーニョ」笑えば「ポーニョポーニョ」ベッドに入れば「ポーニョポーニョ」シャワーを浴びれば「ポーニョポーニョ」

一日中「ポーニョポーニョ」に追い回されている。
でも、そんなに嫌じゃない。楽しくなってくるからいい。

「ポーニョポーニョ」さえ頭のなかにあれば、人は人を憎めないのではないだろうか。
「ポーニョポーニョ」を脳内に響かせたまま、ナイフを手にするのは似合わない。そうだろ。

いかんいかん、今もまた「ポーニョポーニョ」が鳴り響いている。
「ポーニョポーニョ」だけでなく、「ズンズンズンズンズンズンドコ」もやってきた。

「ズンズンズンズンズンズンドコ」の場合、「プリティ・ウーマン」だけではない。
厄介なことに「ドリフのズンドコ節」もある。二重苦だ。

さらに、「ズンドコ節」の場合、音楽だけでなく、ビジュアルも浮かぶから困ったもんだ。
今、脳内では「ポーニョポーニョ」と「ズンズンズンズンズンズンドコ」×2が入れ替わり立ち代わり鳴り響くなか、ドリフのメンバーが祭りの衣装を身にまとい踊っている。



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