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こどもをイノベーション人材に育てる6つの方法

法政大学アントレプレナーシップ教育研究所所長の姜理惠(かんりえ・デザイン工学部・大学院教授)と申します。
変化の激しいこの時代、お子さまをイノベーション思考と起業家精神に富むイノベーション人材に育てることに皆様ご関心あることと存じます。

今日はご家庭や教育の場などで、親や教育者が子どもをイノベーション人材に育てる方法についてまとめました。すでに判明している科学的な根拠から、すべての親と教師がイノベーションについて知っておくべきことと、子どものイノベーション人材成長プロセスを支援するために何ができるかについて整理します。こどもの教育に携わる大人の方々の、教育方法の研究や勉強に参考になればと思い、投稿いたします。


好奇心を育む


子どもたちはいつも新しいことに興味を持ち、探求するのが好きですよね。この好奇心を奨励し、開発することが、イノベーションへの最初期である「多くのことを学ぼう」とする態度、マインドを育てます。
具体的には子どもに聞こえるように、声に出して「どうやって?」「なぜ?」「じゃあ私たちは...?」と、周囲の大人が自身の思考を問いかけながら暮らすのが良いと思われます。
また、お子さんたちの「なぜなぜ」攻撃!
これは時々大変ですが、「好奇心の源泉」。とことん付き合う必要があります!
すべての疑問を書き留めるように促すのも良い方法です。
好奇心はイノベーションを生む第一歩です。

研究によると、幼児期の好奇心は学習意欲と認知発達に強い相関があります(Engel, 2011)。「どうして?」「なぜ?」という質問は、科学的思考の基礎となります。Jirout and Klahr(2012)の研究では、子供の質問を奨励する環境が、科学的探究スキルの発達を促進することが示されています。

References:

リスクを取ることを奨励する

親や教育者は子どもたちにある程度のリスクを取ることを勧めるべきです。
リスクを恐れ、失敗を避けていては、どんな成長も上達もありえないからです。

適度なリスクに挑戦することを促し、将来必ず直面する困難を乗り越える力を育むことが必要です。創造性やイノベーションは、リスクを恐れず、失敗を恐れない姿勢があってこそ、です。
ですから、お子さんが健全なリスクに挑戦できる環境づくりを心がけましょう。もしお子さんがリスクを取ることをためらっているなら、と励ましてあげてください。。

Dweckの成長的マインドセット理論(2006)によれば、失敗を学びの機会として捉える環境は、子供の学習意欲と創造性を高めます。Blackwell, Trzesniewski and  Dweck (2007)の研究では、このアプローチが学業成績の向上にも寄与することが実証されています。


Dweck, C. S. (2006). Mindset: The new psychology of success. Random House. https://doi.org/10.1037/0003-066X.41.10.1040
Blackwell, L. S., Trzesniewski, K. H., & Dweck, C. S. (2007). Implicit theories of intelligence predict achievement across an adolescent transition: A longitudinal study and an intervention. Child Development, 78(1), 246-263. https://doi.org/10.1111/j.1467-8624.2007.00995.x

子どもに選択して決めさせる


子どもは自分の決定が、どんな結果を生み、その結果に対処する方法を経験的に学ぶことが重要で、このプロセスが子どもを創造的かつ革新的に育てることがわかっています。ですから親が教育者が、子どもに代わって選択したり決定したりすべきではありません。
たとえば、おもちゃ、生活用品、文房具などをどのように使うかは、使い方を教えずに渡し、まず新しいものを使うかを、自分で発見させてください。案外自分でさまざまなやり方を思いついて、自由に使い始めます。
人に教わったやり方ではなく、自分で新しいやり方を見つける能力は、イノベーションの基盤で、これは極めて重要なトレーニングです。

自己決定理論(Ryan & Deci, 2000)に基づけば、子どもに適切な選択の自由を与えることで、内発的動機付けと創造性が促進されます。創造性研究の有名研究であるAmabile and Gitomer(1984)も、選択の自由が創造的成果を向上させることを示しています。

References:

  • Ryan, R. M., & Deci, E. L. (2000). Self-determination theory and the facilitation of intrinsic motivation, social development, and well-being. American Psychologist, 55(1), 68-78. https://doi.org/10.1037/0003-066X.55.1.68

  • Amabile, T. M., & Gitomer, J. (1984). Children's artistic creativity: Effects of choice in task materials. Personality and Social Psychology Bulletin, 10(2), 209-215. https://doi.org/10.1177/0146167284102006

問題を解決する経験を積む


問題解決に取り組み、その解決方法を考えたり、、解決するのに何かを作った経験もイノベーション能力を高めます。イノベーションに関する能力は、明確な目的が見えているときに、刺激され、強化されるということがわかっています。
Problem-Based Learning(PBL)の研究(Hmelo-Silver, 2004)では、実世界の問題解決に取り組むことが、批判的思考と創造的問題解決能力を育むことが示されています。
それで日本の学校でもPBL学習が盛んなんですね。
Reference:

子供たちにもっと遊ぶように促す


子どもは遊ぶのが仕事で勉強です。自分の好きなキャラクターになりきると、創造性が育ちます。遊ぶことで成長し、思考力がつき、積極性と想像力を育みます。この遊びは、構造化されていない、従来の外遊びのようなものの方が良さそうです。ですので、スマホやタブレットを置いて、外で遊ぶように促してください。

Whitebread, Basilio, Kuvalja and Verma(2012)の研究によると、自由な遊びは行動力と創造的思考の発達に重要な役割を果たします。特に、構造化されていない遊びは、問題解決能力とイノベーション能力の向上に寄与します。

Reference:

  • Whitebread, D., Basilio, M., Kuvalja, M., & Verma, M. (2012). The importance of play: A report on the value of children's play with a series of policy recommendations. Toys Industries for Europe. https://doi.org/10.5281/zenodo.321624

子どもの努力を評価する


子どもが何か新しいことに挑戦したり、宿題に一生懸命取り組んだり、新しいことに挑戦したりるときは、とにかく褒めてください。ただし、その結果ではなく努力したことをです。研究によると、子どもたちは自分のスキルが認められたときよりも、自分の努力が認められたときに最も創造的な成長を発揮します。

Mueller and Dweck(1998)の研究では、努力を褒めることが、能力を褒めるよりも学習意欲と粘り強さを高めることが示されています。
Vygotsky(1978)の最近接発達領域理論に基づき、適切な足場かけ(scaffolding)を提供することで、子供の創造的能力を引き出すことができます。
足場かけ(scaffolding)は発達心理学と教育学の重要な概念です。
足場かけとは、学習者が新しいスキルや概念を習得する際に、教師や保護者が提供する一時的な支援のことです。建築現場の足場のように、必要な時期に支援を提供し、学習者が自立できるようになったら徐々に支援を減らしていくことで、自転車の補助輪外し練習に似たイメージです。Wood, Bruner and Ross (1976)は、足場かけを「子どもだけでは解決できない問題を解決し、目標を達成することを可能にする大人の支援プロセス」と定義しています。

References:

Mueller, C. M., & Dweck, C. S. (1998). Praise for intelligence can undermine children's motivation and performance. Journal of Personality and Social Psychology, 75(1), 33-52. https://doi.org/10.1037/0022-3514.75.1.33
Vygotsky, L. S. (1978). Mind in society: The development of higher psychological processes. Harvard University Press.

以上学術的根拠のある、イノベーション人材に育てる6つの方法をご紹介しました。イノベーションとクリエイティビティは、重要なライフスキルであり、これらの資質をこどもたちに教えることは大人の責任だと考えています。
適切な時期に必要な励ましと学びを用意することで、将来のイノベーターや起業家になる力を与えることが重要です。

私たち大人が力を合わせて、次世代のイノベーションへの旅を支援していけたら、未来はもっと素晴らしいもになると信じます。

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