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臨床心理士 上河邉力さんに学ぶ「代替行動支援」の考え方

2022年10月28日(金)の夜、オンライントークイベント「代替行動支援と子どもの向き合い方」に参加してまいりました。主催は「ゆるつな」(twitterのオンラインコミュニティ)のみなさま、モデレーターはもとさん(産業カウンセラー・「ゆるつな」発起人)、ゲストスピーカーは『代替行動の臨床実践ガイド』の著者 上河邉力さん(臨床心理士・公認心理師)。大変貴重なお話を聴くことができましたので、そこで得た学び・気付きを整理させていただければ幸いです。

代替行動支援とは?

例えば、飲酒、リストカット、子どもの困った行動など、誰かの「やめさせたい行動」があるとき。それらをやめさせるために、何らかの制限をかけるという対処が一般的である。「やめなさい」と叱ったり、「○○なので、やめましょうよ」と説得したり。あるいはその行動を起こさないように、物を遠ざけたり本人の行動を制限したりすることなどが考えられる。

ここで、「代替行動」とは、シンプルに定義すると「代わりとなる行動」。代替行動を増やすことで、「やめさせたい行動」を相対的に減らす、という対処方法が「代替行動支援」であるという。以下、上河邉さんの言葉を引用させていただく。

「走る」をやめさせたかったら、「歩く」を増やす。走れない環境にするのではなく、歩く環境を整える。前向きな考え方であるということを伝えたかった。

どんな困った行動にも意図がある。そうならざるを得なかったストーリーがある。その背景を無視して制限をかけるのではなく。他にとれる方法があるのであれば、そうしたいよね、と。

「やめさせたい行動」に蓋をしたり、遠ざけようとするのではなく、そうならざるを得なかったプロセスをまず理解し、受け止める。

手元のメモに、「代替行動支援が目指すゴール」「習慣」とある。代替行動を積み重ねることで、習慣を上書きすることが支援のゴールということだろう。

一歩踏み出す勇気

もとさんによると、事前アンケートでは「一歩踏み出す勇気が出ない」という声が多かったそうだ。以下、上河邉さんの回答である。

自分のハードルを見直す。ゴール設定はどうなってる?自分に課しているハードルが高すぎるのでは?長期目標としてはそこを目指してもいい。「こうなったらいい」というもの。ただし、達成には時間がかかる。エネルギーが不足しているときには難しく感じる。そこで、目標を細分化する。小さな行動の積み重ねでそこに到達する。スモールステップの考え方。

「エネルギーが不足しているときには難しく感じる」という部分にとても共感。そういうときは、大きな目標(長期目標)を思い描けないし、すでに大きな目標を立てていたら、それをプレッシャーに感じるものだ。一歩踏み出す勇気が出ないときは、まずは「目標の細分化」を行うこと。

エネルギーが下がっているとき

ここで、もとさんから深掘り質問「カウンセリングの世界での最初の一歩ってどんなもの?」。以下、上河邉さんの回答。

どんなことでもなり得る。「一日中布団から出られない」という状態の人が「本当ならバリバリ働きたい」と望むなら、それは長期目標。まずは「カーテンを開ける」「朝は起き上がって、一杯水を飲む」、そのくらいのことから。代替行動で大事な考え方は、行動を起こした本人がメリットを感じられること。自分に対してプラスのフィードバックを感じることができるかどうか。

本来であれば、内発的動機付けに基づいて行動を起こせたらいいが、エネルギーが下がっている状態のときは、外部からの客観的な正(プラス)のフィードバックをもらう。

フィードバックをする側の立場として、どんな声かけの仕方がいいのか?(もとさん)

これを言えばいい、という正解はない。結局のところ、受け手がどう感じるかをよく観察して声掛けを行う必要がある。相手がどう受け止めて、次の結果に通じるか。結果が上手くいっていなくても、プロセスを褒める。シンプルに「嬉しいよ」「ありがとう」。小さい子には「格好いいね」「すごいじゃん」「えらいね」でもいいけど。

代替行動支援と子どもの向き合い方

親が、子どものある行動を変えたいと思っているときにも、代替行動支援の考え方は役に立つ。事前アンケートでは、「子どものスマホ、動画視聴がなかなかやめられなくて困っている」という意見が多かったという。

子どもは、自分で選択できる部分が少ない。また、忍耐力も大人が培ってきたものに比べたら低い。子どもの方が周囲の環境が果たす役割が大きくなる。親、学校の先生が果たす役割の重要度が大きい。(上河邉さん)

これに対し、「サポートの程度が難しい。子どもの教育って、どこまで子どもの主体性を尊重しながら関わっていったらいいかというジレンマがある」と、もとさん。もとさんも悩んでいると分かり、心強く感じたのは私だけではないはず。

まずは代替行動の考え方にのっとって、他の行動に置き換えることはできないか?という考え方を持つことが重要。そこからさらに、それを促していくには、家族間のコミュニケーションが重要。取り組むべきは親子間の関係に温かみがあること。(上河邉さん)

そもそも親子の関係性がよくないのに、いきなり他の行動を薦められても、「何でそんなこと言われなきゃいけないんだよ」と反発が起こるだけ。普段からコミュニケーションが取れていることを前提として、代替行動支援が成り立つ。

そして、子どもが行動を変えたときには、「決めた時間にやめてくれてありがとう。これで一緒にごはん食べられるね」と正のフィードバックすることが重要だという。「(その言葉は)お父さんには難しいかなあ(笑)」と、もとさん。思わず「わが家だったらどうだろう?」と考えたw 声かけには正解がないので、そうやって相手の受け取り方を想像しながら親が試行錯誤していくことが大切なのだろう。

どんな行動も自然に身に付くわけではなく、正のフィードバックを受けて身に付いていく。ゲームを制限したいわけではなく、ルールを守れる人になってほしい。(上河邉さん)

親は、ゲームをやめる代わりにやってほしいことがあると思う(増やしたい行動)。親は減らしたい行動があるときに、減らしたい行動に集中しがち。意外と増やしたい行動をしているときはスルーしちゃったりする。増やしたい行動をしているときこそ、そこに意識を向けて声かけをする。(上河邉さん)

「当たり前に思ってはいけないということですね」ともとさん。「やめた」ときはもちろん、「できた」ときも正のフィードバックを行う。これが意外とスルーしがちだというお話にハッとした。

他には、どの程度のタイミングでやめさせる判断を下したらいいかという問題もある。

病的なサインを一つ基準とする。「寝食を忘れて行う」など。また、「暴力行動」なども。(上河邉さん)

親自身のケア

最後に、「親が相談できる場が少ない」というお話に。たしかに、それはそうかも。子どもが生まれると、子どもについての行政からのサポートは何やかんやある。体重を測ってもらったり、手足の動きをチェックしてもらったり。自分でもできないことではないけど、産後の精神状態の中で、第三者にチェックをしてもらえることは心強かった。子どもの発育チェックが、母親自身の心の安定にも繋がっていた。だから、ああいう場はとても有難いのだけれど、母親(あるいは父親)の精神支援をしてくれる場がもっと身近にあったらいいなあと思う。

実は私自身がそういう場を求めていた。爆発したのは2019年7月。ある朝、ちょっとした出来事が引き金となって気持ちが抑えきれなくなった。ちょうどその頃、2人目の子どもの3歳児健診の時期と重なっていたので、保健センターに提出するアンケートに自分自身の子育ての悩みを書いて提出した。健診当日、「スルーされるかな、気付いてもらえるかな」と半々の気持ちで参加したところ、最後に呼び止められ、保健師の方に話を聴いてもらえた。あのときの保健師さんには本当に感謝している。もっと早く相談に来ればよかった、とも思った。そんなふうにして自分は行政のサポートを利用して精神支援を受けることができたけれど、その行動がとれたのは当時、対人支援の資格取得後だったことも関係していると思っている。そうでなければ、なかなか家族以外の人に自分の子育てについての悩みを打ち明けるなんてできなかたったと思う。

子育てに限った話ではないかもしれないけど、もっと気軽に第三者に相談できる場があったらいい。会社、学校、コミュニティの中で。

まとめ

最後に上河邉さんからこんなメッセージが。

もっと自分に優しくなってもいいんじゃない?自分に正のフィードバックを与える。新しい行動を身につけて維持させていくためには、自分に優しくなることが必要。

今回、代替行動支援の考え方を学ばせてもらったが、ベースとなる考え方は「自分に優しくあること」にあるのだろう。この「自分に優しく」の形も、人ぞれぞれ。その人が置かれたステージによっては、ストイックな課題を課すことが「優しさ」になるのかもしれない。私たちが活用する場合には、先の上河邉さんの発言にもあった通り、「相手がどう受け止めて、次の結果に通じるか」が意識すべきポイントになるだろう。

最後に、素敵な機会にお声がけくださり、安心安全なファシリテーションで進行してくださったもとさん、大変貴重なお話を聴かせてくださった上河邉さん、温かく迎えてくださったゆるゆなのみなさま、本当にありがとうございました。


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