マガジンのカバー画像

山の記

7
山に関するエッセイとか、フィクションとか
運営しているクリエイター

#蛇

私はなぜ山へ行くのだろう?

私はなぜ山へ行くのだろう?

 なにか欲があるとすれば、私の感性を揺さぶりその震えを肉体にも伝えてくるものが欲しい。美術や音楽の鑑賞では、肉体的な揺れを感じることは稀だけれど、脳の中で起こっている波紋の広がりは確かだ。その波紋はいずれ、過去や未来を行き来しながら言語や形あるものへ作用する。

 山へ登るときは目的がないときもあるが、私が本質的に求めていることは、肉体的な揺さぶりだと思う。見たかった対象があろうがなかろうが、やり

もっとみる
いくつかの死骸

いくつかの死骸

その朝は違和感があった。忘れ物はないか部屋をふりかえり、家に鍵を閉めて車に乗りこむ。目的地へ向かう途中、いくつかある信号機がことごとく青だった。寄る予定だったコンビニを通り過ぎてしまったが、流れを止めたくなかった。コンビニでは食べ物を少し買う予定だったが、なくても支障はない。走り慣れた道は信号機のない自動車専用道路に入った。

薄く霧がかかる中をしばらく走っていたが、先行車も対向車も見当たらない。

もっとみる