【ミュージカル】《前編》『キンキーブーツ』を映画館で楽しむ-ネタバレギリギリの楽しみ方tips
待ちに待った『キンキーブーツ』を観てきました。
ブロードウェイ版が来た時に、諸々の事情で観劇が叶わず、観られないのをずっと悔やんでいたら、実は前後して上演されていたジャパンキャストも良かったと知った2年前。
そして、その素晴らしかったジャパンキャストの再演を待っていたら‥
この先、ジャパンキャストで再演があっても、オリジナルキャストでは観られなくなってしまった。
2年前に知っていたとしても、時期的に多分観られなかったと思うけれど、悔やんでも悔やみきれない、後悔先に立たずです。
そんなこんなですが、WE版が映画になってやってきました。映像だけど、やっとやっと観られる。日本ではヒットしなかったけど『ビリーエリオット』のムービーを、あのクオリティで作ったWEの仕事です。これは期待できる。
ちなみに、音源は観劇が叶わなかった2年前から予習済みです(実は音源予習済みの作品はなん十タイトルもあるのですが。。。w)
WE版は、本番の録音で臨場感もたっぷり。スタジオ録音のBW版もいいのですが、個人的には完成度より臨場感派なので、WE版推しです。
ちなみに、WE版は、今回のムービーのKillianとMattのコンビで、2016年に録音されたもの。
まさか、実物が観られるとは!
もう、観る前からニコニコしちゃう。
さぁ、いざ、映画館へ。
KillianとMatt、はじめまして
youtubeでは何度も見ていたこのコンビ。
スクリーンの第一印象は、「思ったよりもおじさん」でした。
2015年にコンビを組んだ時の様子がこちら。
2人とも若々しい(笑
ストーリー的に、チャーリーが結婚適齢期で、仕事の選択に迷ってるところから話がスタートするので、少なくともチャーリーは20代の設定。なのに、ムービー版のおふたりは、かなり中年感が漂っていて。舞台で見たら気にはならないのかもだけど、映像では、やや混乱しました。おっさん、いい歳して、自分探しですか?と。
それもそのはず、この公演は収録用に、一旦降板していたオリジナルキャストの2人がカムバックして収録されたものなのです。
評価の厳しいロンドンの観客が、客席で両手を挙げて大盛り上がりしているのは、それも理由かもしれません。
収録されたのは2018年の年末だそうですが、実は、お二人とも歌も台詞回しも、2016年録音の音源より、格段に上手かった。もはや別人。
たった数年なのに、その間にお二人が積み重ねきたものを想像するだけで、鳥肌が立ちました。
また、特にKillianに関しては、舞台の演技にしては、細かい表情を使った表現を多用しているなという印象で、それも収録用の配慮なのかしら、と。
やはり、舞台の映像化に関してはWEには1日の長を感じます。
コロナ禍のやっつけ仕事じゃないから出せるクオリティなのです。
それはそうと、一旦降板した役者さんを呼び戻して、映像用に再演する。
ロングラン公演で、劇場が使えるから可能なのでしょうが、日本でこんな事まずやらないし、できない。
やはりカルチャーとしての成熟度、アート作品に対する社会的なリスペクトが違うなあと、ため息が出ます。頑張れ日本!
ちなみに、お二人ともキンキー出演以前のキャリアは、ほんっとにキラッキラの役者さんです。
Killianは、アラジン、『レミゼ』のアンジョルラス、『ウエストサイド』のトニーなどイケメンキャラを経て、『ビリーエリオット』のトニーで、荒れる頭の硬いヒールも経験してからの、キンキー。
甘ちゃんから見事に成長をとげるCharlie boyを演じるのには、十分なキャリアです。
一方、Mattは歌手としてのキャリアがメインの俳優さんですが、若い時にライオンキングのシンバの代役のオーディションを受けた事があるとか。
えぇーーー?!?!
シンバと言えば、泣く子も黙るキンキンの高音が見せ場の役。
日本では、なかなかあれをやれる役者さんがいないのですが、Matt、あの声でるの?聴いてみたい。
でも、シンバよりもっとソウルフルに歌う役が似合うと思う。ショービズの世界で生きるローラにはぴったりの俳優さんです。シンバじゃ。。。ない(笑
とにかく忙しい芝居です
以前、何かの取材で、ジャパンキャストでチャーリーを演じた小池徹平さんが、
わりとあちこち動き回っていて、食べても食べても体重が落ちてしまう。大変な役です。
みたいな事をお話しされていたのですが、とにかくチャーリー出ずっぱり。
喋りっぱなしの歌いっぱなし。
ローレンのソロナンバーの時ですら、舞台上にいる。
完全にまるまる一曲引っ込んでいるのは、ボクシングのシーンと、ローラのHold Me in Your Heartくらいじゃないだろか。
それでいて、ひっこむたびに、地味に着替えてる。
いや、ほんと、水一杯飲む暇無さそうです。
ローラは、女装→男装→じわじわ女装→がっつり女装と、お色直しが多いので、実は引っ込んでいる時間が長い。もちろん舞台裏は戦争だと思います。
その間、チャーリーが表で頑張る。
プライスアンドサンの社長とデザイナーの役割が、そのまま舞台上に現れているみたいで、なんだか笑えました。
アンサンブルの人たちも、これまた忙しそう。
地味に役を変えながら、おそらく1人3-4役以上はこなしていそう。
比較的平和なのはエンジェルスたちかな。
でも、出演シーンの全てで、あのヒールでガンガン踊るのだから、途中休憩ないとしんどいよ。。ね。
さらに、忙しさは他のところにもあらわれます。場転に際して暗転がほぼない演出なのです。
セットを動かして、あるいは、暗転幕の代わりの店の外観が描かれた背景幕などを使って、店の中と外を出入りする演出などを駆使して、シーンを繋げたまま場転するのです。
見ている方は途切れなくていいけど、やってる役者さんはめちゃ忙しいやつです。
特にチャーリーは、悩んだり、落ち込んだり、喜んだり、怒ったり、シーンによって、感情の起伏が大きい役なのに、シーンは繋がっていて、暗転なき場転のほんの1-2秒で、気持ちを切り替えて演じています。
これは、しんどい。
もともと細い小池徹平さんが、さらに痩せるわけだ。
ちなみに、映画版は、幕間がないので、ますます息つく暇もない。見ている方も体力勝負でした。
アートと色へのこだわり
全編を通して目を奪われるのが、美術、照明、衣装のアートチームの仕事。
統括するアートディレクターはいない作品なのですが、玩具箱をひっくり返したようなセンスでありながら、作品としての一体感もあるアートたちは、ほんとに見事だなぁと思います。
プライスアンドサンのシーンひとつとっても、同じセットなのに、紳士靴を作っている旧態依然の工場時代、リストラの話をしてる暗黒時代、イマイチなブーツを作り始めた頃、キンキーブーツの試作で盛り上がるシーン、を、照明や小道具の色使いで、見事に表現しています。
ローラが、redにこだわったように、キンキーブーツのアートチームも、本当に色を上手く使っているなという印象です。
エンジェルスの衣装も、ショーの時の個性的な色使いと普段着想定の衣装でもキラっと光るキラキラな衣装。どちらも派手派手なのに品があって、セクシーで。
というか、もはやエンジェルスの存在そのものがアートです。
トップモデル顔負けのスタイルの良さ。男女の見た目の違いって、何の意味があるんだろうと思わせる美しいビジュアル。
柔軟性と男性ダンサーのパワーを備えたダンスと、研究し尽くされたセクシーな動き。
特に、肩、膝、肘の使い方が秀逸で、美しさにため息がでました。
よく、女装をした男性がやりがちな、腰の使い方だけで女らしい動きをしようとすると、ただ下品なだけになりがちですが、肩、膝、肘をうまく使えると、美しい動きになるんだなぁと。
身体のいろんな場所を同時に連動して使えるのは、ダンサーならでは、でしょうか。
どんなレッスンをしてたのか、メイキングを見てみたいです。
また、ローラは常になにかしら原色に近いパンチのある色を身につけています。
ドラァグクイーンとしての彼女にとって、強い色は鎧のようなもの。
女装、キンキーブーツ、原色、といった鎧を纏う事で、内面にかかえる父親に認めてもらえないというコンプレックスを隠して生きているように思えます。
その鎧を纏わずに男性の格好で歌う Not My Father's Son 。
自信なさげな悲しい独白の歌ですが、衣装の色の雰囲気が歌の歌詞ともリンクしてて、あぁ、いいセンスだなぁと見惚れてしまいました。
また、父親のいる施設の慰問では、白いドレスを着るローラ。原色の鎧を脱いで、純粋な自分を表現しています。本当に色使いが上手いアートチームです。
なかなか全てをディテールまで見切れなかったから、また次のチャンスにはそのあたりをガン見したいと思います。
そういう、アートスタッフの仕事が細かいところまで観られるのが、映像化の醍醐味なので。
ただ、この映画版キンキーに関しては、寄りの画角が多めで、舞台の全体像はやや見にくい編集になっていた印象。
そこが、ちょっと残念ポイントかな。
その分、カメラを動かしての動的な映像が多く、舞台の息遣いを上手く映し出していたとは思いますが。
最強の演出家
『キンキーブーツ』のひとつの大きな特徴は、振り付けと演出を同じ人がやっているという事です。
アメリカのミュージカルでは、たまにこういう作品があります。
大事な事なので、もう一度言いますが、振り付けと演出が同じ人、なのです。
そういう演出ができる人は、最強だと思います。
その本領が発揮されているナンバーがオープニングナンバーをはじめとする、いわゆる「全員ナンバー」の数々。舞台の広さの割に、キャストの多いキンキーブーツですが、無駄な人がひとりもいない見事なステージングで、大迫力です。
オープニングナンバーは、それぞれのキャストが、自分の置かれた立場をちょっとずつ説明していきますが、その繋がりも、舞台上のどこで何が起こるかも、セットや人の動かし方も見事で、このミュージカルのクオリティの高さを見せつけてくれます。
「なんか、すごいもん、観に来ちゃった」感が半端ない。
エンジェルスが出てくると、ステージがものすごく狭く感じる。
みんなデカイんですよね。デカイのにさらにヒールなので、さらにデカイ(笑
そのデカさをセクシーさと迫力に昇華させているのが、クルクル変わるステージングだと思います。
みんな、普通に歌いながら踊ってるけど(録音の可能性も高いけどそこは気にしない事にします)、結構な消耗かと。
エンジェルスが、ガンガン踊るのは4曲かな。
それにWhat a woman wantsを加えた5曲は、振り付けとステージングが、本当にユニークだし、最高です。
ほとんどのシーンが、プライスアンドサンの工場内のセットだし、セットの数も少ないわりに、それを感じさせないのは、あの大迫力のステージングのおかげかと。
これは、やっぱり生でステージ全体を観てみたい。
映像では、ステージングの素晴らしさは伝わりにくいんだなと、今回改めて思いました。
長くなってきたので、続きは《後編》で。
《後編》では、楽曲について語り尽くしたいと思います。