SONIC MANIA 2022 見たライブの雑感と諸々
SONIC MANIA(以下ソニマニ)~SUMMER SONIC(以下サマソニ)を8/19深夜から8/21夜まで満喫しました。折角の機会ですので感想を文章にまとめておきます。
サマソニに参加したのは初めてでした。2018年に行こうとした際はその前々々日に行われたELLEGARENの復活ライブに当たったため断念、2019年は受験のため行けず。そんな受験中に見ていたのがサマソニのYouTube配信で、2020年こそは…と意気込んでいたのですが諸々の悪条件が重なり通常開催は3年ぶりで、自ずと私の初参加も3年越しとなりました。
幕張メッセという場所は初めてライブを見た場所であり、初めて好きなアイドルと対面した場所なので海浜幕張駅に着いた時は「やっと来たぞ!」というよりも「ただいま…」という胸中でした。リストバンドを交換して、入場。
21:30~ KASABIAN MOUNTAIN STAGE
フロントマン・トムが脱退して以降の初来日となったステージはアナウンスされていた通り元The Music・ ロブ・ハーヴェイをギターに迎えた編成。今年発売された新譜は1stアルバム時点でのKASABIANが持っていた不敵さとデジタルビートの音圧の強さの延長線上にある作品で、目新しさは無いものの現在の彼らの「過去と対峙しながら過去を肯定できている」良いムードを感じ取れた。
だからこそ最新曲中心のセットリストで臨むのだと思っていたらまさかの「Club Foot」始まりで度肝を抜かれた。太すぎるベースの音が幕張メッセ特有の低音が回る空間に異様に溶け込み、サマソニ3日間の期間内における最高風速と呼べるほどの高揚が会場内に拡がり、完全にフロントマンの風格を備えたサージの舞台を縦横無尽に駆け回るステージングと合わせて「いよいよ始まったな…」という感慨を得た。
他のアクトとのベン図を考えると「バンドサウンド×ダンスミュージック」という言葉が中心の重なりになるのだろうが、インダストリアルで硬い音が人間の織りなすグルーブに鎧として纏わりつく音像は「強さ」という基準でいうとダントツでした。コーネリアスをいい場所で見たかったので3曲目あたりで抜けましたが、大満足でした。
22:20~ Cornelius SONIC STAGE
フジロックにおいて久しぶりの復活となったCorneliusの復帰後2度目のステージ。フジロック同様の真っ白なスクリーンがステージを覆っており、また、フジロック同様(おそらく)開演5分前くらいで青いポータルのようなVJがスクリーンに投影されていた。フジロックと異なる点はgt等を担当している堀江博久が体調不良のため欠席し、3人編成でのステージングであった点だ。
お馴染み「MIC CHECK」から始まるステージは全体的に非常に奇妙であった。VJと完璧に揃ったパフォーマンスは明らかにマニュピレートされたものであり、プログラミング通りに動く機械や偶然性を排除したDAWの画面のように思えても仕方ないはずだ。しかしギターソロや意表をつくタイミングで慣らされるキックの音の端端には人間の生み出す情念のようなものが溢れている。ただやはり指揮者のように演奏を司る小山田氏はおそらくその「情念」さえも予め想定されたものとして組み込んでおり、我々観客はその手のひらの上でしか無いのだろう。
個人的ハイライトのひとつが「Another View Point」だ。世界中の民俗楽器の演奏シーンやミーム的動画がニコニコ動画のMAD動画、あるいはリズム天国のように演奏に合わせて小気味よく映される。うねるベースラインと四つ打ちを基調としたリズムも合わせてセットリストの中でも特に観客と演者の距離感が近いステージングだったが、圧巻なのは後半のVJである。The Cure、The Smith、Joy Division、Stone Roses、Nirvana、そしてPrimal Screamと意外なほどベタな80's〜90'sにかけてのロックミュージシャンを素材に一種悪趣味とも言えるVJを構築していた。皮肉にもリスペクトにも取れる映像ではあるが単純に好きなアーティストばかりが取り上げられているので単純に嬉しかった。
その後の「COUNT FIVE OR SIX」「I HATE HATE」で3人編成だからこそのミニマムなダンスミュージックとして完璧な流れを作ったり、「Surfing on Mind wave pt.2」では手元のカオスパッドを操りVJの波の映像に合わせSeefeelを思わせるアンビエントシューゲイザーを即興で作り出したりとフェスのいちアクトとは思えない空間掌握能力を発揮し続けていた。
アルバム「Sensuous」からの3曲の後に披露された「環境と心理」のカバーはフジロックで聞いていたから驚きは無かったものの、そのメロディアスさと少し喉を震わせながら歌う様に少し感涙。「STAR FRUITS SURF RIDER」のアンセムとしての強度、「あなたがいるなら」の音楽への純粋な希求は拍手さえ忘れる美しさで、まさに有終の美であった。
完全に統制された演奏から徐々に小山田圭吾自体の素が立ち現れていく構成は見事としか言いようがない。勿論騒動前から愛聴していたアーティストではあったが、改めてこの一年間で聴き直していたため「MIC CHECK」からずっと半泣きだった。とはいえエモーショナルに回収されるだけではなくここまで書いた通りの圧倒的なステージングにただひれ伏していた時間でもあった。
0:05~ 電気グルーヴ SONIC STAGE
日が変わり観客はどんどん増えているような気配があり、徐々に治安に暗雲が立ち込めつつもなんとか「音楽に乗ろう」という統制が取れているような状態で始まったのが電気グルーヴ。フジロックのグリーンステージ常連である彼らにしては小さいように思えるがVJスクリーンも完備されているため規模感に不満は無い。
ギター・吉田サトシとサブDJとして牛尾憲輔を招いた編成であり、電気グルーヴのストイックなビートに対して乗ったギターのカッティングの揺れがクラブではない、ライブ空間としての「SONIC MANIA」感を醸し出していた。「人間大統領」「シャングリラ」を序盤で繰り出す横綱相撲っぷり。
瀧のおふざけやドラッギーなVJはあくまで彼らの魅力を押し上げるだけであり、根っこにあるデペッシュモードやNew Orderを思わせるインダストリアルサウンド、ケミカルブラザーズやアンダーワールドといったビッグビートの快楽…等ルーツや同時代意識をストレートに反映したストイックなダンスミュージックとしての気持ち良さを十二分に味わえました。
2:00~ TESTSET SONIC STAGE
ソニマニの一夜で最も楽しみにしていたのがTESTSETだった。昨年のフジロックでの高橋幸宏と小山田圭吾の出演キャンセルを受けてのMETAFIVE特別編成、そして改めてTESTSETとして始動しEPを発表、これらを経ての今回のライブ…と明らかに徐々に「仕上がっている」ことを伺わせる経緯であったが、まさにバンドとして「完成」しつつあることが証明された。
限定発表の「METAATEM」の収録曲も含めMETAFIVE時代の曲と「EP1」からの曲が混ざったセットリストであったが、やはり最新作からの楽曲が最もステージ映えしていた。砂原良徳氏の組むミニマムなビートと白根賢一のドラミングの掛け合いだったり、タイトなリズムキープを破壊していくような歪んだギターの音色であったりと、相反した要素が融け合い肉体的な快楽として伝わってくる感覚はここまでの「SONIC MANIA」の流れとしてスッと腑に落ちるものだった。
またVJもキレキレで、レーザーとデジタルな文字列が幾何学的な図形を描くゾーン、野鳥の群生、都市や自然の情景が交互に映し出されるゾーン…とやはり相反する要素が互いに歪さを引き立てるような構成になっていた。
この歪さはデジタルとアナログを掛け合わせた、あるいは洗練と過剰を組み合わせたインダストリアルミュージックという呼び名に相応しいものだろう。引き合いとしてNine Inch Nails、ブライアン・イーノと組んだDavid Bowieといった名前を出したくなるが、その理由は音楽性だけではない。LEO今井のフロントマンとしての立ち姿が先ほど並べたフロントマンらを彷彿とさせるのだ。「Carrion」でのシャウトがバンドを背負う、という宣言のように響いていた。
03:50~ THE SPELLBOUND PACIFIC STAGE
腹ごしらえを済ましてトリのTHE SPELLBOUNDへ向かう。ここまでも書いた通りソニマニで見たアーティストはギターの音とダンスビートを掛け合わせ、クラブのようなストイックな空間とバンドのライブ的熱狂を同時に作り出す方向で一致しており、THE SPELLBOUNDもその流れに位置しているといえる。
THE SPELLBOUNDのライブには独特の神聖な空気が漂っている。それは中野氏がBOOM BOOM SATELIGHTSにおける喪失を乗り越えて音を鳴らしているという事実、あるいはTHE NOVEMBERS小林氏が故・川島氏に重なるプレイや歌唱を随所で行っている景色といったエモーショナルが喚起したものであり、同時に、重厚なシンセサイザーの音とダブルドラムとシューゲイザーと呼んで差し支えないギターの音が作る特異な音響空間が成したものでもあろう。
とにかく外を見ないと朝なのか夜なのか判別できないような時間帯に聞くTHE SPELLBOUNDは以上のような神聖さに加えいささか出過ぎていた低音の出音もあり、脳が破壊されるような快楽物質に満ちていた。 THE NOVEMBERS、BOOM BOOM SATELIGHTSのカバーも彼らの歩みを肯定しながらTHE SPELBOUNDを行うというスタンスを象徴しているようで両バンドのファンとして嬉しい。最後の「KICK IT OUT」はイントロの時点で全員が飛び跳ねていて、それはそれは美しい光景だった。
07:00~ 湯の郷ほのか 蘇我店
ソニマニが大満足の中終わり、朝焼けに包まれる幕張メッセから海浜幕張への通路を抜け、駅にたどり着き、東京方面の電車を尻目に蘇我方面へと向かった。目的地はスーパー銭湯である。蘇我駅から徒歩20分ほどの距離が苦にならなかったのは目的地への期待感からだろう。アリオに吸収された郊外都市を歩いて辿り着いた温泉施設はオアシス以外の何物でもなかった。昨晩の充実とこれからの2日間を思い入るサウナに勝る存在があるわけもなく…。2時間ほどの仮眠を行い英気が満ちた。ソニマニ終了。
ダンスフロアとギターロックのライブの折衷みたいな空間がまさに理想的な素晴らしい一夜でした。また来年も行きたい!!!!