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『化け猫あんずちゃん』田舎の日常と和風ファンタジーが掛け合わさった傑作アニメ

異質な存在のはずなのに、すでに日常に溶け込んでいる上でその生活を描いているアニメーション作品というのは多く存在する。
『ドラえもん』『しろくまカフェ』『イカ娘』などなど、『化け猫あんずちゃん』もそんなジャンルの作品の一つといえる。

森山未來さんが声優をしているということで、気になって見に行ったが、めちゃめちゃ面白かった。

寺の和尚さんが河原で保護して育てた猫が30年も生き続ける。
猫の寿命からは考えられない長生きだが、その猫はただの猫ではなく化け猫だった。
その化け猫の名があんず

人型サイズにまで縦にも横にも成長し、人語を話し、二足歩行で歩くどころか原付も乗りこなすあんずちゃんはそこに住む田舎町ではほとんど人間(中年)と認知されるようになり、寺の手伝いをしながら整体マッサージをしたり、住民の便利屋としてお小遣い稼ぎをしている。
本作品は、そんな化け猫が当たり前に住む町に訪れた小学生の主人公かりんちゃんと化け猫あんずちゃんの交流を描いた作品である。

気軽に楽しめるコメディハートフルな話であり、個人的にギャグのセンスがめちゃくちゃ刺さった。

あんずちゃんは人型猫の形をして、動かなければ可愛いと感じるものの、言動は中年のおじさんそのもので、そのギャップが凄くいい。

屁は平気でこくし、立ちションをするし、パチンコだって行く。もしアニメでもなく、化け猫でもなく、実写の中年おじさんがやっていたら不快感MAXの作品だったよ。

また、この作品の特徴としてはアニメーションを作る上でロトスコープを取り入れている。
ロトスコープとは作画をする前に、役者にカメラの前で演じてもらって、実写映像をフレームごとにトレースして作画していく方法だ。
森山未來さんは声優だけでなくあんずちゃんの動きもしている。
そのメイキング映像は衝撃的なので見て欲しい。

役者の動きを基にアニメが作られているため、アニメの直線的でデフォルメされた動きではなく、より人間の動きに近い繊細な表現、これは誉め言葉として言うが、余計な挙動までアニメに取り入れられており、キャラクターが普通のアニメでは見られない動きをしている。

昔流行ったショートアニメ『ピーピングライフ』とかも日常×ロトスコープがうまくかみ合って独特のゆるさがあった。
憶えている人いるだろうか……?

シーン1つ1つの解像度が異常に高くて、その切り取り方も絶妙、シュール系の作品になっており、ロトスコープが上手に活用されている作品だと感じた。

例えば、あんずちゃんが何かに座っていて誰かに呼ばれてから立ち上がるシーン、普通のアニメ表現だったら手を膝に置いてピンと立ち上がる、という感じになると思うがこのアニメでは誰かに呼ばれ、気だるそうに反応した後、下を向いてのっそりと立ち上がり、肩を落としたまま歩き始める。

特に面白かったのが、あんずちゃんが乗っている自転車が駐輪していたパチンコ屋で盗まれるシーンだ。
田舎のパチンコ屋で自転車が盗まれるというシーンがアニメで描かれること自体がもう面白いが、あんずちゃんの反応がとにかくリアル。

自転車置き場に停めていたはずの場所に自転車がない!とまず驚くものの、一度冷静になって他の場所に停めたんじゃないかとあたりをキョロキョロする。
それでもなく本格的に焦りはじめ、盗まれた事実を受け入れるしかなくなる。遠くに盗まれてはいないという一縷の望みを抱きながら駐輪場やそのあたりに停めてある自転車を一台一台注視する。
家でみてたら腹がちぎれるくらい笑ってた。

昔ゲーセンで友達の自転車が盗まれてしまった時、友達がしていた反応と動きがまったく一緒だったものだから、たぶん自転車を盗まれた人は全員あの反応をするんだと思う。

あと、貧乏神がかりんちゃんに憑こうとして、あんずちゃんはそれを必死で止めようと貧乏神に飛び蹴りをかますシーンがあり、あんずちゃんの図体相当の重力が感じられてgoodだった。
いちいち動きが面白いんだよね、本当に。

小学生のかりんちゃんがあんずちゃんと出会い、地獄へ行くという怪異を体験して成長していくのも見どころだ。
後半はファンタジー要素が強くなり、かりんちゃんのひと夏の冒険が描かれている。

全世代に刺さりやすいジブリ映画のような和風ファンタジーストーリー。

かりんちゃんは母親を亡くし、父親と2人暮らし。しかし、父親は借金をしているため、夏の間父親が仕事に専念するために祖父が運営している寺に預けられることになった。

そこでかりんちゃんはあんずちゃんを目撃する。
人の形をした猫が自分が住む寺にいるという事実に絶句するが、驚くのはそれだけではなかった。
あんずちゃんは首にかけている携帯から電話を受けて言葉を喋り、誰かに呼ばれたようで、原付で走り出す。

かりんちゃんは化け猫が何者なのか調べるために聞き込みを始める。
しかし、町の人にとっては既にあんずちゃんは町の住民として受け入れられているため誰かに聞いても「ああ、寺に住んでいる化け猫のあんずちゃんね」という反応しかない、怪異現象がすでにこの町では怪異として機能していないのである。

それから、あんずちゃんはかりんちゃんの保護者として一緒に生活することになる。

つまらないダジャレをかまし、屁をこいては「ニャッハー!」と笑い、町の洞穴に棲んでいるカエルやキノコみたいな妖怪とよなよな宴会をする。
かりんちゃんは母親の死という悲しみを消せないものの、気丈に振る舞い、良い子であると思わせるのが得意だった。
しかし、平凡な田舎町と同居化け猫との生活に嫌気が指し、ふてくされていく。

あんずちゃんは母親を失った悲しみを隠そうとするかりんちゃんの本性に最初から気が付いていたようで、彼女を「うそつき」呼ばわりするが、なるべく一人にさせないと構うところが優しかった。

そんな頃、かりんちゃんは母親の命日に都内に戻って墓参りをしたいと言い、あんずちゃんと2人で都会へ戻ることになる。
そこで貧乏神と出会い、貧乏神に亡くなった母親がいるであろう地獄に案内してもらう。

地獄は『千と千尋の神隠し』の油屋のような舞台で、ホテルのようなシックな雰囲気があるものの、それはあくまで地獄を支配している鬼をもてなすもので死者はしっかりと罰を受けており、血なまぐさい専用の部屋がある。

かりんちゃんが大叫喚地獄にうっかり入室した時に、罰を受けている死者を見てドン引きしている姿がホラーではあったがちょっと面白い。

かりんちゃんは地獄で母親と再会することができる、かりんちゃんは再会を喜び、母親と共に現世へ逃げ出すが、閻魔大王とその子分鬼が現世まで追ってきて、めちゃくちゃな終盤が繰り広げられる。

物語のボスである閻魔大王様と子分の鬼たちの出番はあまりないものの、すごく印象的。
ヤクザの頭みたいなキャラで、地獄から足抜けしようとする死者を絶対に許さないと、狡猾に追い詰めていくが、非常に落ち着いており、部下には妙に優しい。
反対に、鬼たちは人間を虐めるのが大好き、地獄から脱走したかりんちゃんと母親を「ガハハ!!」と楽しそうに追い詰めている。

田舎町で生活する日常パートも良いが、閻魔大王や鬼が棲む地獄の世界観がも良い、ただ地獄パートはあっという間だったのでもっと見たかった。

ごく普通の子供が異世界や非日常を通して成長していくというアニメはいくつになっても面白いと感じる。

これから毎年夏になったら絶対に見たくなる作品だ夏は化け猫あんずちゃん!!




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