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私のカルチェラタン:新任教師のパリ研修 11

8月13日(土)~15日(月)

13日から3日間ソルボンヌ主催のバス旅行に参加した。モン・サン・ミッシェルとロワール川の古城をめぐる旅だ。各国の学生50人が一台のバスに乗り3日間寝食を共にする。それぞれの国民性を知る上でもよい機会だと思い参加した。引率はソルボンヌの女性講師マドモワゼル(当時はマダムとマドモワゼルが使い分けられていた)シャノンだ。エネルギッシュで明るい女性。知識も豊富で、ユーモアのセンスが抜群で的を射た冗談が言える知的な女性だ。歴史が専門らしく、歴史の話を始めると止まらない。細かなところまで懇切丁寧に説明してくれる。ただフランス語なので私はすべて理解することができずとても残念だった。
 
一日目。はてしなく続くノルマンディーの平原を6時間近く走ると見えてきたのがモン・サン・ミッシェル。四方を海で囲まれた島で、島全体が岩山の要塞のようになっている。山の上には修道院があり、要塞のほか監獄として使われたこともあるという。かつて『ラストコンサート』という映画で見たことがありずっと訪ねたいと思っていた。

過去には潮の干満により島に渡れない時間もあったそうだが、私が行った時は潮の干満に関係なく島に渡れる道路が作られており、対岸から歩いて渡った。その後に道路が壊され橋が造られたそうだ。

島の上にある僧院は1000年以上の歴史を持ち、時代ごとの異なる建築様式が混在している。年月を感じさせる石造りの建物の中にいると過去の人たちの祈りの声が聞こえてくるようだった。

2日目と3日目はロワールの城を精力的に巡った。ブロワ・シャンボール・アンボワーズ、シノン、最後はシュノンソー。あまりにたくさんの城を見学したのでいささか混乱してしまった。でもどの城も長い歴史の中を生き抜いてきた重々しさを感じさせた。特にシュノンソーでは夜のライトアップをたっぷり楽しんだ。帰ったらそれぞれの城の歴史を復習しようと思う。
 
2日目の晩にハプニングが起こった。その日は3つのホテルに分宿する予定だったのだが、私のグループの予約がなされていなかったのだ。到着して初めてわかったのだが、その時はすでに予約がいっぱいで私たちの泊まる余地はなかった。だがシャノン嬢の対応は早かった。町にあるホテル数件に掛け合って14人分の宿泊場所を確保したのだ。小さな田舎町なので全員が泊まれる大きさのホテルはない。3つのホテルに分宿して泊まった。私が止まったホテルは老婦人が一人でやっている古いホテルで、床は歩くとギシギシ音がし、ドアも開けにくい部屋だったが、バスで寝ることもを覚悟していた私にはベッドで寝られるだけ有難かった。貴重な宿泊体験となった。それにしてもシャノン先生の行動の早さには驚いた。

8月16日(火)

「愛のコリーダ」ノーカット版

Wさんに映画に誘われた。Wさんは大の映画好き。フランスに来てからもちょくちょく映画を見に行っている。彼女が誘ってきたのは大島渚監督の『愛のコリーダ』。日仏合作のこの映画はフランスでは”L’Empire des Sens” というタイトルで上映されている、日本語に訳すと『官能の帝国』となる。1976年に公開されたが日本では修正版でしか見られない。でもフランスでは無修正で上映されている。ハードコアポルノの映画を無修正で見る。日本では体験できないことだ。ちょっと興味をそそられたが、ストーリーが私には刺激的過ぎるので見に行くのは遠慮した。
 
フランスでは性表現がとてもオープンだ。雑誌などを見ても無修正の写真がたくさん掲載されている。むしろ修正してある方が不自然な感じに思える。日本との大きな違いを感じる。

8月17日(水)

ロダン美術館でロダンの彫刻を見学した。それまで彫刻にはあまり興味がなかったのだが、この日は「これは!」と思える作品にたくさん出会えた。彫刻の良さが少しわかった気がする。『接吻』など強烈な印象の作品もあり、ロダンに少し興味が湧いてきた。

8月18日(木)

イヨネスコの不条理劇

ユシェット座でイヨネスコの『授業』を見た。ユシェット座はよほど気を付けていなければ見過ごしてしまうほどの小さくて古い芝居小屋だ。座席は30ほどしかない。入口もわかりにくい。カルチェラタンにあり、ソルボンヌからも歩いて行ける。芝居好きの人の間では有名なところで座席はいつも埋まっているという。

イヨネスコ(Eugene Ionesco)は1909年にルーマニアで生まれた。父はルーマニア人、母はフランス人で子供時代をパリで過ごし、学生時代はルーマニアで過ごしたが1939年以降はパリに住み、劇作家としての生活を送った。彼の作品は不条理劇として知られるが、ユシェット座では彼の最初の2作品『禿の女歌手』(La Cantatrice chauve)と『授業』(La Lecon)だけを50年以上にわたって上演し続けているというからすごい。

『授業』の登場人物は3人だけ。3人ともセリフの言い回しも動作も実に見事でいつしか芝居に引き込まれていた。そう言えば渋谷の「ジアンジアン」で中村伸郎がこの作品を何十年も演じているという話を聞いたことがある。日本に帰ったら一度見に行こうと思った。











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