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さまざまな言語が教えられている
日本の学校で教えられている外国語はほとんどが英語です。他の言語を教える学校がないわけではありませんがその数はわずかです。小学校で導入された外国語活動も「外国語」と言いながら扱われているのは英語です
オーストラリアの外国語教育は日本とは違って多様な言語が教えられています。公用語が英語のオーストラリアですから英語を外国語として教えるのは不自然です。では何語を教えるのでしょう。国内にはさまざまな言語を話す人がいます。ある人にとっては外国語でも、その言語を母語とする人にとっては外国語ではありません。だからなのか分かりませんが、外国語(foreign languages)と言わずに英語以外の言語(Languages Other Than English、LOTE)と言っています。そしてLOTEで扱われる何語たくさんあります。
LOTE教育の歴史
LOTE教育の歴史を概観してみます。オーストラリアは多文化主義政策のもとで言語教育にも力を入れてきました。移民の言語は権利として保持されるべきで、社会の貴重な資源としても活用すべきだという認識から、連邦政府の主導でLOTE教育が始まったのが1970年代。当初は、アラビア語、フランス語、イタリア語、スペイン語、ドイツ語、ギリシャ語、インドネシア・マレー語、中国語、日本語の9言語が学習優先言語とされました。中でも日本語の人気は高く1980年代には学習者が急増し、「TSUNAMI(津波)」と呼ばれるほどでした。その後、オーストラリアはアジアの一員としての存在感を高め、LOTE教育の重点もアジアの言語に置かれるようになり日本語、中国語、韓国語、インドネシア語が優先言語となります。その後はグローバル化の中で英語の重要性が高まり、移民の言語に対する人々の認識も変容しLOTEを学習する生徒の数は徐々に減少していきます。
学校でのLOTE教育
とはいえ、オーストラリアのLOTE教育は今も多くの学校で実施されています。公立学校の9割でLOTEが教えられ、生徒の7割以上が学んでいる。下の表はビクトリア州の公立学校で教えられている言語プログラムを多い順に示したものです。すべての学校を合わせると20種類近い言語が教えられています。最も多いのが中国語で、日本語、インドネシア語、イタリア語、フランス語と続きます。興味深いのは手話(オーストラリア手話)や先住民の言語が含まれていることです。
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何語を教えるかは各学校が決めます。地域のニーズや生徒の実態、学校コミュニティの意見などを参考にして決めますが、教師の確保など条件が整わず希望通りに実施できないこともあります。
教えられる言語は時代の流れによって変わることがあります。世界情勢や社会の変化、オーストラリアの外交姿勢や政治的思惑など様々な要素が学校教育に影響を及ぼすことがLOTEというひとつの教科を見てもわかります。
上位言語の2014年から2020年の履修者数の変化↓
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2014年から2020年に上位言語を教えていた小学校↓
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学校外でのLOTE教育
LOTE教育は言語学校や民族学校でも行われています。言語学校は州が運営し、州立学校の教室や公共施設を利用して放課後や土曜日に授業が行われます。たとえば1935年に開校したビクトリア州の言語学校(Victorian School of Languages )はイタリア語と日本語でスタートしました。州内40か所以上の公立中等学校に設置され、50以上の言語が教えられています。公立私立いずれの生徒も受講でき、自分の学校では学習できない言語を学ぶこともできます。オンラインクラスもあり、2万人近くの生徒が学んでいます。
Victorian School of Languagesのホームページ↓
民族学校プログラムはNPOなどが運営し、集会施設などを使ってコミュニティ言語(地域で話されている言語)や母語を学習します。たとえば、ビクトリア州では州内に180校近く設置されており、50近い言語が学習されています。ニューサウスウェールズ州でも同様に行われており、中国語、ベトナム語、アラビア語、タミル語などが多いです。
ビクトリア州の情報↓
ニューサウスウェールズ州の情報↓
いずれにしても、LOTE教育は連邦政府の言語教育政策により推進されてきたという経緯があり、外国語教育、母語教育、コミュニティ言語教育としての要素を兼ね備えています。学習を通して異文化理解と異文化を尊重する態度の育まれ、将来の就業やキャリア形成にも役立つのではないかと思います。