
「お痛み」に感じる不自然な敬語
週刊誌の見出し広告で「お痛み」という言葉を目にしました。「えっ、お痛み?」 ある「高貴な方」に対する敬語として使っているようですが、私には驚きでした。でも調べてみると病院などで使われていることがあることがわかりました。「お痛み」や「おかゆみ」のほかに「ご」をつける「ご予約さま」「ご患者様」などということばも使われているようです。
丁寧に言おうとしておかしな日本語になってしまったり、見られ方を気にして過剰な敬語を使ったりする表現を「盛りすぎ敬語」と呼ぶ人もいるようです。
コピーライターの橋口幸雄氏は「卑屈語」と名付け以下のように書いています
日本語の敬語には「尊敬語」「謙譲語」「丁寧語」の3種類がある。しかし最近、4種類目の新しい敬語が世間にはびこっていることをご存じだろうか。たとえば、こんな文章だ。「ご相談させていただけないでしょうか」「お打ち合わせのおまとめをお送りいたします」「ご確認いただければ幸いと存じますがいかがでしょうか」……などなど。日々、遠回しで意味不明な内容のメールに、イライラしている方も多いと思う。
円滑なやりとり阻害する「卑屈語」の罠
こうした言葉を、僕は「卑屈語」と呼んでいる。「卑屈語」が使われる意図は、「丁寧」でも「謙譲」でもなく、ましてや「尊敬」では決してない。「保身」だ。嫌われたくない。責任を取りたくない。こうした「保身」が日本語を歪め、卑屈にしているのだ。「卑屈語」が使われるのは、ビジネス・シーンに限らない。テレビをつければ芸能人が、「私事でありますが結婚させていただいたことをご報告させていただきます」なんて言っている。ソーシャルメディアに目をやれば「担当させていただいた案件で、ニース広告祭のグランプリを受賞させていただきました!」みたいな、意識高い系ビジネスパーソンのドヤりが繰り広げられている。「卑屈語」が蔓延してしまった理由は、ただひとつ。「嫌われないことを」を最優先する人が増えたからだ。筆者はふだん、コピーライターとして働いている。商品を売ったりブランドの好感度を高めたり、さまざまなコピーを書いているが、目的は顧客を満足させることだ。他のどんな仕事であれ、これは変わらない。すべてのビジネスは、本質的には「顧客を満足させること」を目的としているのだ。
私もいろいろな場面で違和感を抱く言葉に出会います。中でも「お痛み」や「ご議論」のようにやたらに「お」や「ご」をつけるのはどうかと思います。工事現場に「お安全にお通りください」という表示があったと聞きました。メールなどでもあまりにも丁寧な言い回しに戸惑いを覚えることがあります。
これを書きながらジョークが思い浮かびました。コンビニのレジでの会話です。
店員「お袋は必要ですか」
客の男性「いや、要らない。お袋なら家にるから」