映画「月」をみた
久しぶりに時間を割いて手を動かしてまでして 感想を書きたくなる骨太の映画を観た
「月」は以前 鑑賞前から雑記を書していたくらい ずっと気にはなっていたのだが、なかなかネトフリやアマプラで無料配信されず つい辛抱切らして有料で鑑賞してしまった
できることなら目を背けたい観たくない映画であったが 障害福祉に携わる人間として観ておかねばと 興味半分義務半分のような複雑な気持ちで観届けた
一般の人は どういう感想をもつのだろう
隠蔽されている現実を暴こうとして制作されたこの映画だが、あまり話題にのぼらないということは、この映画も隠蔽されるほどウケが悪いのかもしれない
重たい題材だ。ストレス回避のため 見たくない現実から目を背けようと思えばカンタンに背けられる。悲しい哉 そういう社会である
この映画のなかで 犯罪に手を染めるサトくん役の磯村勇斗がこんなセリフを吐く
ネットを介して 人気集めで人当たりの良い文章を書き流している人間には 癪なセリフだろう
おそらく意図してのことだと思うが この映画にはそういう社会批判的なセリフが端々にある
それもあって映画の内容としては素晴らしかったが、作り手の意図が全面押し出るあまり 少し押し付けがましくも感じた
残念な点は他にもある
導入からトーンが重すぎる。 演出なのだろうが施設内の照明が暗すぎ。月を象徴的に描きたい演出もバレバレだったし 気合いが入りすぎるあまり 過剰な演出が目立った気がする
またこれはあくまで個人的なタイミングの都合なのだが つい先日までクドカンのドラマ「ふてほど」を観ていたので このサトくん役の磯村勇斗がムッチとダブって仕方がなかった。自分のなかで ギャグからシリアスへの振り幅が大き過ぎたのだ
などの理由から中盤までは正直 観るのがしんどかった
しかし中盤に差しかかり そもそもこの映画は現実にあった事件を題材にしているものの 所詮《寓話》なのだということに気づき、冷静に観られるようになり しだいに物語に入り込めた
後に磯村勇斗を起用した理由もわかってきた
とにかく普通すぎる どこにでもいそうな青年だけに その彼が淡々と狂気に染まってゆく姿は 余計に怖かった
サイドストーリーも魅力的だった
宮沢りえとオダギリジョーのカップルが 自身の過去と向き合い、幼くして亡くした息子のことで 苦しみつづける姿は、身につまされるものがあった
実のところ われわれ夫婦も不妊治療の末、 稽留流産で子を亡くした時期があり 彼らの迫真の演技を観ながら 涙ぐみ 非常にシンパシーを感じた
迫真の演技といえば 高畑淳子も忘れてはならない。ノーメイクだからかはじめ彼女とわからないくらい リアルに演じておられた
事件現場での彼女の悲鳴は、植松聖に子どもを殺された親の思いを 見事に昇華していたように思う
まとめると
「月」はフィクションとノンフィクションの狭間にある作家の怒りと情熱がつくりだした《寓話》
それを解して見届けると 演出の過剰さに目を奪われることなく強いメッセージが胸打つ問題作品
勇気と興味ある方は ぜひ一度 鑑賞していただきたい