![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/150957376/rectangle_large_type_2_edc32f684ea677e5e4c4121e1a6a4177.png?width=1200)
空と君とのあいだに
″君が涙のときには僕はポプラの枝になる
孤独な人につけこむようなことは言えなくて″
…僕は大学2年生の時、好きな人がいた…
…名前はしおりだった…
…しおりはいつも教室で一人きりだった…
…ただ、夜遊びばかりしていた僕の目には、そんな彼女は何故かとても魅力的に映っていた…
″君を泣かせたあいつの正体を僕は知ってた
ひきとめた僕を君は振りはらった遠い夜″
…モテたいが為に入った軽音学部の練習の帰り…
僕はある夜、泣きながらクラリネットをケースにしまう彼女に出くわす。
「どうした?何かあった?」
それが彼女に掛けた最初の言葉だった。
…首を横に振る彼女…
「とりあえず乗れよ」
…気付いたら僕は自転車に跨り、
彼女を誘っていた。
自転車の右側に両脚を投げ出してのニケツ。
世の男がこの時に絶対に期待する
背中への柔らかな感覚は
…この時は伝わってこなかった。
…ただ、僕の体に回された彼女の左腕…
握られた僕の上着の裾は
彼女の悲しみの大きさを理解していた。
反芻する
「俺に守らせてくれないか?…しおりを…」
の言葉。
そんな僕の気持ちを分かっているのか
彼女は何も言葉を発しない。
錆びたチェーンが軋む音のみ世に漏らしながら
ゆらゆらする自転車は
街灯が少ない田舎道を…
ただ駅に向けて進んでいた。
途中にある長い上り坂、
僕は少し立ち漕ぎをして漕ぎを進める。
徐に背中に感じた柔らかい感触…
彼女との距離は近づいていた。
もしかして、このまま行けるのか…?
ラブホテル
″ここにいるよ愛はまだ
ここにいるよいつまでも″
横切った赤い点滅するライト、
頬の赤みを隠すように僕らを赤く染める。
長い上り坂、
ゆらゆらはグラグラになっていたが
僕は登りきった。
…彼女の為に…
「はーい、そこのお二人さん。止まって」
「…?」
「頑張った所、悪いんだけどさぁ。
…自転車の二人乗りダメだから…。」
「とりあえず…
これに名前と住所、連絡先を書いてくれる」
…確かにここにいるよ…
…警察官が…
僕のペンを持つ手は震えていた…
…酸欠で…
「工藤くん、何その字!」
今まで何も話さなかったしおりの笑い声が夜道に響いていた。
″空と君とのあいだには
今日も冷たい雨が降る
君が笑ってくれるなら
僕は悪にでもなる″
薄れゆく意識の中で書いた僕のサインは
誰にも読めない位に揺れていた。
「何にも読めないんだもん!マジウケる!」
彼女は確かに笑ってくれていた。
そして、その笑い声によって
僕も…警察官も…笑みが溢れていた。
″空と君とのあいだには
今日も冷たい雨が降る
君が笑ってくれるなら
僕は悪にでもなる″
ただ、僕には一つ疑問があった…。
上で止めるなら、
途中でも止められたろ!
そら〜と君との間には〜…
今日も冷たい雨が振る…
きみ〜が笑ってくれるなら〜
…悪になりたかった
そして、その一件は
「笑ったらすっきりした、
ありがとう。帰るね!」…と
ホテルハイビスカスを蜃気楼の中に葬り去り、翌日イケメン先輩の元へしおりを誘ってしまった事を生み出す…。
″空と君とのあいだには
今日も冷たい雨が降る
君が笑ってくれるなら
僕は悪にでもなる″