アニメ「チ。ー地球の運動についてー」 主人公ラファウの自殺理由

・なぜ天動説を信じたか


計算結果が正しかったから。これが大きな理由です。コペルニクスやプトレマイオスらが考えた天動説を基にした計算式は、その時代において一番制度の高い計算方法だったのです。
ただその計算は離心円や周転円という複雑な要素を組み合わせて、無理やり計算が合うように整えられた理論だったのです。
それも当たり前で天動説ではないのだから。
食材が無茶苦茶でキッチンもすごく汚れてるけど味と見た目は良い料理を作るみたいな感じです。

・信じたいもののために理論がある


天動説はおそらく地球が中心であるべきという”信じたいもの”を基に創られたがために無理やりな計算方法になってしまったのだと思います。
そしてアニメの一話で主人公ラファウが異端者のフベルトを迎えに行った帰り、フベルトは「命をかける場所こそ直感を信じる」「神が作った世界は美しいはず」など理論が正しいから地動説を推すのではなく、地動説の方が正しい気がするから理論を組み立てるというようなことを言います。つまり地動説という”信じたいもの”のために天文学を研究しているのです。
ラファウは大学進学という素晴らしい未来を犠牲にして地動説に傾倒し審問官にばれ、地動説が絶たれるくらいならと自殺してしまいます。なぜそこまでして地動説を守りたかったのか。それは地動説に対する感動が”信じたいもの”だったからです。

・ラファウはなぜ自殺を選んだのか


これを紐解くにはまずラファウの性格からみていく必要があります。1話での教室で大学進学を発表するシーンや、捨て子だったところを拾われたというエピソードからもわかる通り、彼は非常に世渡りの上手い人間でトラブル回避や世間体を取り繕うための合理的な判断をして生きていたことがうかがえます。周りにいい顔したり、うそをついて合理的に生きることがラファウの生存戦略というわけです。
そんな彼はもともと天文学が好きで勉強していました。そして異端者のフベルトから地動説を知り、異端行為であると理解しながら地動説を研究してしまいます。これがラファウの非合理な判断の始まりだったのです。ではなぜ地動説を研究し続けたのか?
それはシンプルな理論に感動したからです。
感動とは自分の罪を許す行為です。ラファウは地動説を知る以前から天文学を勉強しています。しかし、彼にとって天文学を学ぶことは非合理で無意味であり彼の生き方にに反します。つまり、無意味な天文学をしてしまうことは彼の人生にとって罪なことだったのです。
地動説との出会いは自分が天文学をやり続けることは無駄じゃなかったと思わせてくれるものであり、天文学を学ぶ非合理な生き方という罪をを許してくれるものだったのです。
地動説に感動したラファウはその感動を正しいものであるとしたいわけです。そのためには地動説が正しい理論であることが証明されなければなりません。しかしラファウが拷問されれば地動説は絶たれてしまいます。つまりラファウが死ぬか地動説が死ぬかの二択だったわけです。そこで大学進学の書類を破るシーンです。ここで死ぬことを覚悟したのです
ここからは死ぬことを正当化するための理論を組み立てるシーンです。

・ラファウの死を正当化するための言葉


審問官ノヴァクとの会話で「敵は手ごわいですよ、あなた方が相手にしているのは知性だ。はやり病のように増殖し、宿主さえ制御不能だ(一部省略)」といいます。これはラファウ自身も死に追いやってしまうほど強いもので止めることができない、つまり死ぬことは運命であり仕方がないとして正当化しようとしています。
そしてノヴァクに「この選択は君の未来にとって正解だと思うのか」と聞かれ、「そりゃ不正解でしょ。でも不正解は無意味を意味しません」といいます。これもまた彼自身が死ぬことを肯定するための発言と取れます
またこの時代、天国に行くことが最大の幸せでありそのために教えに反しないことが生きる上で重要でした。自殺は自分で自分を殺すこととなり人殺しと同義とされ、教えを反したことになります。
ノヴァクは「その選択は教えに反している、死の先に恐ろしいことが待ってるぞ」と言います。
しかし、ラファウは「死の先なんかだれもしりませんよ」といいソクラテスらの言葉を引用して死を否定することを否定します。そのあとラファウはこのソクラテスらの言葉に「感動できる」と言います。
先ほども言った通り感動とは罪を許す行為である。つまりラファウは、これらの言葉を遣い自殺をという罪を許そうとしたのです。

・感動を信じるための理論


ノヴァクと最後の会話シーン、ラファウは「フベルトさんは死んで消えた。でもあの人のくれた感動は今も消えない」と言います。この発言からは感動は命よりも価値あるものであると、ラファウはそう言っています。だからラファウはその後、「この場は僕の命に代えてもこの感動を生き残らせる」と決意の言葉を言うのです。

チ。という話は天動説から登場人物の生き方まですべて、信じたいもののために理論があるというのがベースになっています。かっこいいっすね。

いいなと思ったら応援しよう!