私の四川風麻婆豆腐論
シンヤナオです、こんにちは。
突然だが、私は麻婆豆腐に対して猛き情熱を滾らせていて、その炎はもう10年以上も燃え続けている。
それはどういった方向性のものかと言えば『自分にとって最高の麻婆豆腐を自分自身で作ること』である。
中華から日本へ伝わった麻婆豆腐だが、食品会社が販売しているレトルトパウチに入った市販品では、大衆受けを狙ってか日本風にデフォルメされたものが多く見られる。
もちろんそれらの市販品が売れているというのだから、料理として美味しくまとまっていることは言うまでもなく、この“日本風麻婆豆腐”が好きな方も多くいるだろう。
しかしながらド素人の私がこれから語ろうとしているのはそういったデフォルメされた麻婆豆腐ではなく、本格的な四川風麻婆豆腐に、日本に居ながらどれだけ近づけるかということを主軸にしたものだ。
嗚呼、やはり自分が好きなものを語る時は筆の走りが違う。
【四川風麻婆豆腐とは】
先程から四川風四川風と言っているが、私が基準に考えるのは四川省の有名店である『陳麻婆豆腐』である。
香味野菜と唐辛子の香りが乗った油をふんだんに使用し、バチバチに効いた花椒によって舌が痺れる“麻”と、赤唐辛子由来の辛味である“辣”、さらにコクのある甜麺醤と豆鼓が渾然一体となった味わいの麻婆豆腐のことだ。
端的に言えば、美味いがかなり辛くて油くどい麻婆豆腐であり、麻婆豆腐専門店では必ずこれがメインに据えられているほどだ。
【欠かせない要素】
『三葉が無ければ親子丼は作るなと言いたい』
これは某有名料理漫画の一説を引用したものであるが、陳麻婆豆腐にも親子丼における三葉のように、欠いてしまえば不完全体になってしまう材料が存在している。
豆鼓
ピーシェン豆板醤
花椒
私はそれがこの3つだと思っている。ひとつずつ解説していこう。
『豆鼓』
“トウチ”と読む。
大豆を塩漬けにし、発酵させたものである。
微塵切りにした豆鼓を加えることで麻婆豆腐に強い旨味が加わる。1度これを加えた麻婆豆腐を食べたら、入れねば物足りなくなるほどだ。
『ピーシェン豆板醤』
これは長期熟成した豆板醤で、普通の豆板醤よりも味に深みがあり、辛味も強い。私はこれを普通の豆板醤と1:1でブレンドして使用している。
『花椒』
“ホアジャオ”と読む。花山椒とも呼ばれる。
舌が痺れる“麻”の部分を担う花椒は陳麻婆豆腐には欠かすことは出来ないスパイスだ。
パウダータイプでもよいが、こだわるならホールタイプを潰して振りかけるとより強い痺れが味わえる。
【材料】2~3人前
にんにく1片
生姜(にんにくと同量)
ピーシェン豆板醤 大さじ1/2
豆板醤 大さじ 1/2
ガラスープ 少々
油 大さじ1
醤油 小さじ 少々
葉にんにく(ない場合は芽にんにくの斜め切り)
長ネギ(にんにくと同量)
赤唐辛子(欲しいだけ)
豆鼓
豆腐 300g(木綿でも絹でもよい)
甜麺醤 大さじ1/2
片栗粉
酒
ひき肉 100g(牛か豚か合い挽き)
辣油
正直なところ、私は分量を細かく測って作ったことがない。これらは正確なものではないので実際に作る場合は各自調整して欲しい。
重要なポイントは豆板醤+ピーシェン豆板醤の味を前に出したいので、必ず甜麺醤よりも多く入れること。
にんにく・生姜・長ネギ・豆鼓はチューブ製品を使わずに微塵切りにすること。
“豆鼓醤”という商品も存在しているがあれは罠だ、微塵切り豆鼓に比べて仕上がりが全然違う。
【作り方】
1.合わせ調味料を作っておく
中華料理は調理中の速やかさが大事だ。調味料をひとつずつちんたら入れていると、一瞬で焦げ付いてしまうため、全てを同時に鍋に入れられるように合わせておくことが重要だ。
甜麺醤
ピーシェン豆板醤
豆板醤
豆鼓
赤唐辛子
これらを全て同じ器に入れ、さらさらになるまで酒でのばしておくことで合わせ調味料は完成だ。本来はもっと段階を細分化すべきだが、家庭でつくるのだからこの程度でいい。
2.ひき肉を炒める
油を敷かずにフライパンにひき肉を入れて中火で炒める。
この時、あまりひき肉を細かくし過ぎないように気をつけ、少し大きめの塊のまま両面焼いたあと、好みの大きさにする。程よく焼き目をつければメイラード反応によって香ばしくて旨味のあるひき肉になる。
染み出てきた液体が透明になったら、ひき肉の臭みが飛んだ証拠であるため、ひき肉をフライパンから皿に引き上げておく。
3.油に香りをつける
油大さじ1と微塵切りにしたにんにく・生姜・長ネギをフライパンに入れ、フライパンを傾けて油だまりを作り、じっくり弱火で炒めていく。イタリア料理のアーリオオーリオを作る時と同じ要領だ。
にんにくがきつね色に色付いてきたら、合わせ調味料と共にひき肉をフライパンへ戻し、弱火のまま水分が飛ぶまで少しだけ炒め合わせれば肉味噌の完成だ。
4.豆腐を煮る
肉味噌をフライパンに残したまま、賽の目状に切った豆腐と水200~300ml程度を投入。この時の水の量は適当でいい。多ければそれだけ煮立てて水分を飛ばす時間が長くなるというだけだ。
本来は豆腐が含有する水分を飛ばしておくために、先に塩ゆでしておく工程があるのだが、やってみても正直あまり変化を感じなかった。そもそもフライパンの中には既に塩分を含んだ液体があるので煮ていけば勝手に水は豆腐の外へ出ていくし、豆腐由来の旨味も出る。
この段階で醤油とガラスープを投入して、三分くらい煮る。
5.とろみをつける
煮詰まってきたら一度火を止めて味見をし、塩味を確かめる。
これによって水溶き片栗粉の水の量を決めることで塩辛すぎる麻婆豆腐が出来ることをある程度防げる。
水溶き片栗粉は数回に分けて投入し、好みのとろみになるまで毎回火を入れて確かめる。
とろみが決まったらここで葉にんにく(芽にんにく)を投入。
とろみがついてもまだすぐには盛り付けない。焦げ付かぬようたまにフライパンを円運動させながら1分ほど中火で片栗粉にしっかり火を入れて焼き付けておく。フライパンの縁の部分で油が『ビチビチ』と音を立てて跳ねるので覚悟しておいた方がいい。
これをしておかないと盛り付けた後にとろみが水に戻ってシャバシャバした麻婆豆腐になってしまうのだ。
6.盛り付け
フライパンから平たい皿へ流し入れ、最後に辣油と花椒を適量振りかけて完成だ。
麻婆豆腐は熱いうちが最も美味い。汗だくになりながらどんどん蓮華を口に運ぶのだ。真冬でもない限り冷房を入れておくことをおすすめする。
【番外編】
アレンジ① 黒胡椒
黒胡椒の香りを前面に引き立たせた麻婆豆腐というのも存在する。味に飽きたら後から振りかけてみるのもいいだろう。
アレンジ② カレー粉
各種調味料の分量を減らし、煮立てる段階でカレー粉を入れてしまうのもアリだ。麻婆豆腐を作っている最中に魔が差して入れてみたことがあるが、驚く程に美味いので是非試して欲しい。
まったく、S&B食品とユウキ食品には足を向けて眠れない。
【まとめ】
以上が私にとっての最高の麻婆豆腐であるが、どうだっただろうか。
いい加減な中華料理屋で食べるよりもこの麻婆豆腐は美味しい。当然だ。私だけのために私自身が何十回と作り、落とし所を探ったのだから。
これが最高の麻婆豆腐だということについて、異論は大いに認める。なぜなら一人一人にとって別の最高があることを私は知っている。私だけにとって最高に美味い麻婆豆腐であればよいのだ。
それと、この記事はどこかで見たようなやり方や知識ばかりだとは思わなかったであろうか。
それもそのはずで、私は日々、料理本やYouTubeチャンネル等で収集した情報を精査し、適合しそうなものを自分自身の麻婆豆腐に取り入れていったという背景がある。
中華料理屋に修行に行かなくてもプロフェッショナルが自ら技術的情報を発信してくれているのだから有難いとしか言いようがない。亡くなられた陳建一 氏もそうだった。
私のための麻婆豆腐はこれからも貪欲にアップデートを続けていく。有力な情報があったら是非教示を。
最後に、2023年3月に亡くなられた陳建一 氏のご冥福をお祈りして、この記事を結びとすることにしよう。
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