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頑固なオジキが作る質実剛健な北インド料理(赤羽バーワルチー )


はじめに

こんにちは!
 昨今は、都内を中心に色々なインド料理が食べられるようになりましたよね。特に南インド料理はここ10年くらいで、(あくまでもグルメな人にですが)結構話題になっています。ミールスが食べられるお店やティファン(南インドの軽食。ドーサやイドゥリなど)なんかも食べられるお店が増えてきました。
 その一方で、北インド料理は未だに認知されていません。元々インド料理が外食産業として日本に入ってきた際に中心だったのは、バターチキンやタンドール料理を中心としたパンジャーブ料理(インドの北西部、パキスタンも含む)やムガル朝時代に栄えた宮廷料理でした。しかし時代が進むに連れて、不景気になり、豪華絢爛なインド料理店は次第に衰退していきます。これらの料理はかなりの技や手間暇がかかるので、本格的に作るのはとても大変。しかも、華やかな色彩の南インド料理に比べて、どちらかと言うとずっしりしているので、映えの時代にはなかなか話題になりにくい…
そんな昨今の「日本のインド料理シーン」の中で改めて再評価するべきお店が、今回紹介するバーワルチー なのです。

せんべろの街にひっそり佇むインド料理店

赤羽と言ったら、1000円でベロベロになれるほど呑める、通称「せんべろ」の街。
まだ微妙に明るい頃から、たくさんの呑兵衛さんで賑わっています。彼らの顔が赤いのは赤提灯の灯のせいかなぁ?

どこもかしこも飲み屋

 そんな商店街や路地の近くにひっそりと佇むインド料理店。
 宮廷料理やコンチネンタルなインド料理店のように豪華絢爛なわけでもないし、かと言って巷に溢れるでっかいナンをおかわりできるようなお店とも違います。なんと言うか、古き良き定食屋のインド料理版みたいな風貌です。

うまく言い表せないけど、ただものじゃ無い感じがするでしょう?

店内は料理の写真以外はNGなので、写真はあららませんが、けっしてひろい店ではありません。カウンター四席、テーブル席四席くらいかな。
ワンオペで厨房に立つ強面(そしてイケメン)のオジキか、店主のアーナンドさん。何十年も北インド料理を作り続けている大ベテランです。彼のお話(というより説法?)を聞くのも毎回楽しみなんですが、そのお話はまた後ほど…

※お店の座席数が限られているので複数名で来たい場合はお店に一度問い合わせてみましょう!

セットメニュー

初めてバーワルチー に行く方はセットがおすすめです!!(また、ランチはセットメニューのみ)
カレーは、チキン、マトン、キーマ、ほうれん草、豆の中から2種類、もしくは3種類。また、カレー2種類にタンドリーチキンとシークカバブがのったタンドリーセットもあります。セットメニューは基本、この3パターンです。
主食は、ナン又はライスのどちらかを選べます。

タンドリーセット(ほうれん草+マトン)

2022年3月16日、初めてバーワルチーに行った際に食べたもの

みてくださいこの深い色味!質実剛健とタイトルに入れた意味がお分かりいただけますでしょうか。シンプルなようで奥深く重厚な料理なんですよね。

ほうれん草

こんなに深緑なものをあなたは口に運んだことありますか?

バーワルチーに来たらまず頼んで欲しいのが「ほうれん草」。いわゆるパラクですが、見た目からもわかる通りそんじょそこらのパラクやサーグとは違います。一口食べただけで、ほうれん草のふんわりとした甘みを口いっぱいに広がります。複雑な香りを演出するようなスパイス使いはないし、コクを出すためのクリーム、そして塩すらギリギリに抑えてただただほうれん草の繊細な味を楽しめる料理なのです。更にすごいのは、「茹でたほうれん草をそのまま食べているような」味なわけではなく、土臭さや青臭さなどの雑味が抑えられているところ。あまりにもシンプルな味わい故見過ごしそうになるのですが、かなりすごいことだと思います。(ほうれん草の料理を作った人ならわかるはず)

マトン

 お肉だとマトンがイチオシ。タンドールセットの場合は、タンドリーチキンとチキンシークカバブがついてくるので鶏肉はそちらで楽しむ代わりに、カレーはマトンを味わう。これが自分の定石です。
 グレイビーはしっかり辛め。しかし舌が燃えるような刺激ではなく、食べ進めるうちに身体がじわっと汗が出てくるようなタイプ。クローブやシナモン、カルダモンなどが演出する清涼感がありつつややスモーキーな香りマトンのワイルドな風味とよく合います!

ナン+タンドール料理

カレー以外も玄人好みな美味さのバーワルチー。特に、クラシカルな宮廷風料理・パンジャービ料理の花形であるタンドール料理が抜群に美味い。

ナンは重曹や膨らまし粉不使用なので、不自然な膨らみや大きさになっていない(山岡士郎風に言うと)「本物のナン」です。モチモチではなく、ミチッとしており、小麦の良い香りと仄かな甘さが口に広がります。そして後味に発酵由来の円やかな酸味がきます。これがとても美味しいのです。自然な味だからこそ、誤魔化しのないカレーをしっかり受け止める。熟練の技によって生み出されるかっこいいコンビネーションがあります。

タンドール料理はマニア泣かせの味です。油が溢れるシズル感とは真逆の焼き方。それは裏を返すと、旨みを全て閉じ込めているということ!噛み締めるほどに旨くなる肉料理なのです!!

バターチキンセット

2022年4月13日に撮影。昔は裏メニューだったとか

「せっかく本格的な北インド料理が楽しめるのにバタチキなんて頼むの勿体なくない?」というマニアの方にこそ食べていただきたい一品です!
ひたすらクリームの味しかしないグレイビーに、申し訳程度に入るパサパサのチキン…そんな残念なバタチキとは完全に別物!
 トマトの甘酸っぱさと濃厚なバターとそれを包むスパイス。特にメティの甘い香りが効いてます。チキンティッカの力強い旨味と塩味がグレイビーにすごく合う。濃厚なんだけど、スッキリするような味わいで、最後まで夢中になって食べてしまいます!
日本で食べられるバターチキンで1番好きかも

夜のアラカルト(ここからが凄い)

ランチのセットメニューを堪能したら、次は絶対夜のアラカルトを食べてください。先程のセットメニューだって、都内の北インド料理のトップクラスですが、あくまで序章…ここからアーナンドさん劇場の始まりです。

シークカバブ

2024年10月5日。この艶の無さこそ美味さの秘訣

タンドール料理の時にも紹介させていただいたシークカバブ。またかよ!と思った方もいらっしゃると思いますが、いいですか…セットで一口食べるだけではこのシークカバブの魅力は理解できないんです!
シークカバブというのは、挽肉を金属の串(シーク)に刺した料理。串に刺さったハンバーグだと思っていただければ良いです。肉の種類は色々ですが、バーワルチーではチキンが使われています。
昨今は「飲めるハンバーグ」というような肉汁や柔らかさを重視したものが人気ですが、このカバブはそれらの逆!肉汁なんて一滴も出ないし、歯で噛もうとすると、押し返してくる弾力もあります。一口で旨みが溢れるのでなく、噛み締める毎に鶏の旨みが濃くなっていくようなカバブ、そしてその肉の旨みが口腔内でスパイスの香りと交わった時が本当に美味いのです!!! 
横に添えられた玉葱アチャールもまた美味い。

パラクパニール

2024年10月5日。鮮やかな深緑が目を癒してくれます。

またほうれん草カレーかよ!これもランチのセットメニューで紹介したじゃん!と思った皆さん、これは、ランチの「ほうれん草」ではありません。ディナーの「パラクパニール」なんです!
パニールチーズがのっているだけではないんです。ランチのものと見比べてください…微妙に色が違うでしょ?そう、カレー自体の味が段違いで違うのです!
ランチの時には若干感じたほうれん草の土臭さや青臭さ(臭いというか、ほうれん草独特の風味ですね)などが一切取り除かれていて、ほうれん草のふくよかな甘さばかりが口に広がっていく。パニールの淡白でミルキーな味ともよく合います。こんな繊細でソフィスケイトなパラクパニールは初めてです。ほうれん草をミキサーで滑らかにした後牛乳で煮こんでいるらしい。なるほど、これは北インドのほうれん草のポタージュということか

マトン・ド・ピアザ

2024年6月17日。ちょこんとのったピーマンが可愛い

ドは2、ピアザは玉葱のこと。スライスしてグレイビーに一体化させるのと、ざく切りにして具材に使うのと2パターンの玉葱を使った宮廷料理。これが、先程のパラクパニールとは良い意味で両極端で。トマトのフルーティーな甘酸っぱさと玉葱のシャキシャキ感と甘み、そしてチリの辛さがグワっと口の中で広がるワイルドで鮮烈な味わい。激辛一歩手前のスリリングさで、滝の汗なんですが、それが気持ちよくて。それでいてジャンキーなのではなく、深い美味さがあるんですよね。微塵切り玉葱とナッツペーストのコクが唐辛子の華やかな香りを支えているんです。シークカバブ同様、噛みしめる度に美味くなるマトンも抜群です。

この時はタンドールロティと合わせました。この組み合わせ、最高!!

マトンベイガン

2024年10月5日。ピーマンだけでなくミニトマトものってますね

アーナンドさんのオリジナル料理で、このお店のスペシャリティの一つ。噛めば噛むほど濃厚な肉の味が出てくるマトンと油を吸って甘くなった茄子、その二つの個性をマサラがっぷり組み合わせています。マトンと茄子という組み合わせ、結構珍しいですよね。マサラがかなり独特で、かなりスパイシーでちょっとスモーキーで若干苦味があります。マサラだけで食べると複雑な風味で難しい味なんですが、具材と食べると抜群に美味い!

ロティ

映えとか一切意識しないビジュアル。そんなことに頼らなくても美味いから


ランチは基本的にナンかライスの二択になるのですが、ディナーでは、ロティやクルチャが登場します。特にロティはイチオシ!!
全粒粉の香りが濃い、ムンムンです。そして、みっしりした歯応え。ハード系のパンが好きな人は堪らないと思います。スパイシーなカレーと頬張ればお口はアーナンド・ワールド!

アーナンドさんの誇り

店主のアーナンドさんは強面ですが、とても気さくで色々なお話をしてくださいます。その中でも印象的なのが、インド料理が安売りされているという問題について。
インド料理が日本に浸透してきた昨今、グレイビーは変えずに具材だけを変えているカレーや膨らまし粉をたっぷり入れて極端に大きくしたナンなどが増えてきています。そんなナンを無料でおかわりできるお店も多いですよね。お客さんにとっては嬉しいですが、アーナンドは「あれがインド料理だと思われちゃ困る」と少し悲しそうに言います。実際にバーワルチーにも「ナン、タダでおかわりできないの?」なんて言うお客さんもいるそう。あんな凄いナンがただな訳ないだろ!と私がその場にいたら怒ってしまいそうですが、それは私がマニアだから。フラッと入った人の中にはその違いがわからない人もいます。アーナンドさんはそんなお客さんに媚びることも、凹むこともなく「ナン食べ放題したかったら、どうぞ他の店に行ってください」と言うそうです。自分の料理人としての誇り、それ以上にインド料理という文化への敬意を感じます。
この姿勢をいつまでも貫き、いつまでも質実剛健なインド料理を作ってください!

「いつまでも赤羽でアーナンドさんの料理が食べられますように」亀ケ池弁財天でお祈りして帰ろう

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