クレイジー・ファンキー・じじい「ベケット氏の最期の時間」マイリス・ベスリー
パリの老人施設で生活する、老いたノーベル賞作家サミュエル・ベケットが語るのは、よくある介護生活。
そう、サミュエル・ベケット。「ゴトーを待ちながら」の。
ごめんなさい、名前だけしか知らないけれど……。
体が不自由なので風呂に入る動作すべてが全力。
自分の行く先は杖に決めてもらう。
いまだに性の妄想もする。
一番の友達だったジェームス・ジョイスも添い遂げた妻も亡くなってしまった。
隣の部屋で生活する老婆の声が気になる。
ええ、普通なんです。
でも、頭の中に吹き荒れる言葉はクレイジーでファンキーで、深くて、やっぱりノーベル賞なの。
それが最高にかっこよくて、かわいい。
ただ、ベケットは恥ずかしがり屋で喋らない。
介護職員は彼の言葉の豊かさに気づかない。
架空の老人Aでもいいストーリーだけど、主人公はベケット。実際に彼はその老人施設で晩年を過ごしたし、彼の過去についてはそのまま生かされている。
作者は1982年生まれ、マイリス・ベスリーさん。30代でこの文体はすごい。老人への愛あるまなざしと観察眼がめちゃくちゃいい。
やっぱ老人って賢いのかもしれない。しょーもないことばっかりやってお荷物だ、って思うのは、こちらの賢さが足りてなくて理解ができないだけなのかも。きっと彼らの中の世界って豊潤で素晴らしいんだよ。
と母に言ってみたら、
ふん、
と返ってきた。
年寄り扱いするな、という意味にも
そんなことも気づかなかったのか、という意味にも聞こえた。
かわいい。