「認知症パンデミック(飯塚 友道 著)」を読んで~もう1つのパンデミックが残した課題とは?
今回は「認知症パンデミック(飯塚 友道 著)」の感想になります。
2019年末から中国・武漢において発生し、世界中に多大な影響を与えた新型コロナウイルスの蔓延。本書は、そんなパンデミックによる自粛などの社会的影響により発生した、「認知症パンデミック」について記したものです。

わが国では高齢化が進行すると共に、以前から認知症患者の増大についての問題が指摘されておりました。特に「団塊の世代」800万人全員が後期高齢者(75歳以上)となる2025年について「2025年問題」とも言われており、この年には700万人以上もの認知症患者が生じると推測されておりました。これについて、厚生労働省は2012年から認知症施策として「オレンジプラン」を策定しました。オレンジプランの中では、地域の認知症患者およびその家族が本来の生活を営めるよう、地域における専門家等の連携を目指していました。
そんなオレンジプランに続いて2015年1月に策定されたのが、新オレンジプランです。こちらでは、「『認知症を含む高齢者にやさしい地域づくり』の第一歩は高齢者を社会から孤立させないこと」を柱とし、より高齢者および認知症患者と社会との繋がりを密にしようとの目的に主眼が置かれていました。
新オレンジプランについて、詳細はこちらの厚生労働省のHPから→mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/nop_1.html
新オレンジプランに基づいた各地域等での取り組みが盛り上がりを見せ、認知症問題も解決に向かっていくかと思われた時、新型コロナウイルスによるパンデミックが発生し、人々と地域の繋がりは突如として絶たれました。

対面による活動が感染予防のために原則禁止となり、全国民に自粛が求められたことで、世界中の人々は自宅で引きこもる生活を余儀なく強いられることとなりました。これはもちろん、高齢者も例外ではありません。彼らは引きこもりがちになり、また外部との交流が絶たれたことで、コロナ禍前は進行が抑えられていた患者でもBPSDが出現し、認知機能も低下するケースが増えたとのことです。
またわが国では、他国とは異なりロックダウンは行われなかったものの、日本人の真面目な国民性からか、「自発的ロックダウン」が行われていたことは、当時の状況から痛感する方も多いことと思います。例えば県外に移動する人を叩く風潮が生じたり、息抜きに遊びに行くことすらためらわれたりなど。この風潮は高齢者にも大きな影響を与え、彼らは感染への過剰な不安を感じるのみならず、元々閉じこもりがちな人がデイサービスに行かない口実ができるという現象も発生しました。
また本書では、南極観測隊の心理的な影響をみる実験結果についても記されておりました。閉塞的な環境に置かれることで若者を含めた隊員の半数以上に、睡眠障害やホルモン変化に伴う認知機能障害やうつ病などの気分の落ち込みが見られたとのこと。若者でさえも孤独からこれだけの影響を受けるのならば、高齢者に関してはどうなるかは、火を見るよりも明らかです。
だからといって自粛をしない方がいいのかと言われれば、もちろんそんなこともありません。本書では、コロナに感染することで、脳の神経が障害を受け、軽度の認知機能障害が長期間にわたり続く状態(「脳の霧」と呼ばれる)が生じることもあるそうです。
本書からは、感染症と上手く付き合いつつも、認知症のリスク因子である孤独や社会との分断をいかに防いでいくかという課題を得ることができました。本書における印象的な記述として、「心のディスタンスは広げない」というものがありました。月並みではありますが、地域の人々や友人同士での付き合いや絆を大切にし、これからの時代を乗り越えていきたいものですね。

今回も最後まで読んでくださってありがとうございました。