外国人が教えてくれた日本語
海外営業所のスタッフ(現地人)からメールが届いた。
納期を早めて欲しい、回答が至急欲しい旨の内容。
とりあえずSkypeのチャットでやり取りすることになった。
翻訳ソフトも使いつつ一応英語で用件を確認しようとしたところ、日本語で返事が返ってきた。
最初に送られてきたメールの文面も日本語であったが、あまりにもよくできた文面だったので、てっきり翻訳ソフトでも使っているのかと思っていたのだが、どうやらそうではなさそうだ。
日本語でコミュニケーションできるのなら話は早い。きっとその営業所スタッフは優秀な人ばかりなのだろう。
すぐに材料在庫等の状況を確認して折り返し連絡する旨を伝えたのだが、この後、事態は風雲急を告げる。
営業所スタッフから返事が返ってくる。
「ごめんください、泥縄式でお願いした」
何なん?!
泥縄式てなんなん?!
さっきまでの流暢な日本語はどこへ行ってもうてん!
ほんでまたごめんくださいのタイミングもおかしいやろ!
内心ツッコミまくりながらひとまず翻訳ソフトに「泥縄式」と入力し、エンターキーを砕けんばかりの勢いで弾いた。
「泥縄[type]」
翻訳せえやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!
この非常時にぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!
そんなタイプいらんねぇぇぇぇん!!!!!!
私は生涯で初めてPCにバカにされたと感じた。きっとこの時の私の表情たるや鬼の形相であったに違いない。しかし事は一刻を争う為、いちいち「泥縄式」とやらに時間を割くわけにもいかない。
一旦そこはスルーし、相手に明日出荷できる目処がついたことを伝えた。
スタッフはその後も怪しくたどたどしい日本語で一生懸命に感謝の言葉を私に伝えてくれた。
ここまでくるとむしろ健気さすら感じられるから不思議なものである。お互い顔は見えずとも、結局最後は海を越えた絆のようなもので結ばれたような気がした、というのは言い過ぎだが、ひとつ役に立てたのが嬉しかった。
しかし「泥縄式」とは一体何であったのか。
隣のデスクの同僚に訊いても、「さぁ…何すかねえ…」とニヤニヤするばかり。謎は深まる一方であったのだが、どうしても気になって帰宅後に調べてみた。
「泥棒を捕らえた後で縄を準備するような、行き当たりばったりの対応をするさま」
何故こんな言葉をシンガポール人が知っていたのか、それが一番の謎である。
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部署異動してすぐの頃の話。
今にして思えば何故すぐグーグル先生に訊かなかったのか、それが一番不思議でならない。