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そのSDGsは本当なのかな?
トレンドセミナーでは「SDGS・エコ」が何回も繰り返され、展示会ではエコレザーやヴィーガンレザーと名付けられた合成皮革製品がたくさん目につく。
そんなこの頃。
20年来、皮革産業に携わってきた私としてはちょっと肩身が狭い…
でも一方で街にはからあげ店がどんどんオープンしたり、有名焼き肉店は相変わらず予約がとれないし、我が家の今夜の夕飯も豚の冷しゃぶだし。
皮革への風当たりは強くなってきているのに、みんなお肉は美味しく頂いている。
そんなモヤモヤした気持ちを抱えていた時に頂いた皮革工場見学のお話。
その中のひとつはムートン毛皮工場。
ファッション業界では動物の毛皮を使用しないことをSDGsへの取り組みと掲げているブランドも多い。
そんな動物の毛皮であるムートンはどこから仕入れてどんな風に作られているのか?
そんな気持ちを胸に工場に行ってきました。
奈良県宇陀市毛皮皮革地域
伺ったのは奈良県宇陀市の皮革工場。
奈良県宇陀市は国内鹿革の95%を製造されている鹿革産地であり、同時にムートンなどの毛皮産業も盛んな地域。
豊かな自然や趣のある家屋や寺社・史跡も豊富な観光地でもある宇陀市。
車窓から眺める深い緑に覆われた中に瓦屋根の民家が点在している景色は、なんだか郷愁を誘う。
私の生まれ故郷の景色とは全く違うのにね。
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今回は鹿革工場と毛皮縫製場とムートン工場を見学させて頂きました。
このnoteでは訪れた工場のひとつ、ムートンの工場について綴っていきます。
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ムートンのマスダさん
ムートン工場は株式会社マスダさん。
ムートンシーツやムートンの医療具を製造されている工場です。
毛皮仕入れはオーストラリアのスーパーマーケット
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ムートンは羊の毛皮。
冬になると足元を温めてくれるムートンブーツを持っている人も多いのでは?
あのふかふか毛皮がムートンです。
マスダさんで扱っている毛皮はオーストラリアのスーパーマーケットと契約して仕入れされているとのこと。
オーストラリアではラム肉は日常的に食卓にのる食肉で、その毛皮であるムートンも牛革や豚革のように食用の副産物。
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毛がついているのでどうしても豚革や牛革とは違った目線で見てしまいがちなムートン。
そんなムートンレザーも食肉副産物であることに驚きました。
話を聞くと「そうだな」と腹落ちすることも、感覚や流れる情報に惑わされていると見えなくなってしまう。
伝えるって大事ですね。
たくさんの工程をこなす加工場
靴学校在籍時に墨田区の皮革工場に見学に行ったことはあるのですが、ムートンはまた種類の違う工程がたくさんあり、興味深く見学しました。
皮脂や汚れを取り除く為に数日間洗ったり、毛並みを揃えたり…
ものづくりをしていると製造現場に興味が湧くのでひとつひとつの工程を面白く拝見しました。
いろいろな工程をこなす機械があるのも機械好きとしては楽しい。
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残毛は肥料に
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ふと目に入った袋に入った毛。
これはいったい??
「これは堆肥になります」
と案内して下さった営業部の升田さん。
製造過程で出てしまう残毛をまとめて牛糞と混ぜ合わせることで良好な有機質肥料になるとのこと。
使える部分は余すことなく使い切っていきたいという姿勢を感じました。
他の工場訪問時でも、工場ででる残革をどうにか利用できないかな?と
頂いた命を無駄なく使い切ろう、という姿勢はどこの工場でも共通して試行錯誤されている様子でした。
SDGsな毛皮
SDGsの目標12「つくる責任・つかう責任」
外務省のSDGsのPDFを覗くとこんな風に記載してある。
SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)は、「誰一 人取り残さない(leave no one behind)」持続可能でよりよい社会の実現を目 指す世界共通の目標です。
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ものづくり作家として重要視したいのは、この12番目のつくる責任・つかう責任の「持続可能な消費と生産」。
食肉の副産物である革
命を頂いているということに感謝しつつ、肉や革、毛に至るまで余すことなく使い切っているということは立派な持続的な消費形態ではないだろうか?
この先、加工肉が進化してそれがスタンダードな世界になった時には、この形態も再考する必要があるかもしれない。
でもお肉を食べる現在の世界であれば、頂いた命に感謝して活かし切ることが、わたしはSDGsだと感じる。
もちろん毛皮だけを目的とした動物殺傷も否定できないので、その部分は今後の課題でもある。
わたしもお話を伺うまでは毛皮であるムートンに対してためらう気持ちがあったのも事実。
思い込みや感情のSDGsの前に、ちゃんと知ること、調べることを意識して、正しい情報を元に取捨選択をすることの大事さを改めて感じた。
どうしても情報や思い込みが先走ってしまうので、気をつけよう。
ものづくり作家としての「つくる責任 つかう責任」、そして伝える責任
今回、工場には関西在住のバッグ作家さん2人と案内して頂いた企画会社の方と4名で訪ねました。
「以前は接客時にお客様と話す会話はデザインや使い心地など商品についてが主だったけど、最近はその素材が誰がどこでどんな風に作っているのか関心持つ人が増えたよね」
同行作家たちで共感した話。
自分の企画している商品の素材がどこでどんな風に作られているか、作り手が工場まで訪れる機会は少なく、知る機会がないのがほとんど。
「エコ」や「SDGs」が世の中流れだから、なんとなくそれっぽいからそうしよう、みたいなきれいに情報ラッピングされた商品だってたくさんある。
そんな情報ラッピングされたステキなエコ商品が溢れる中で、現場からの情報をもとに自分の作る商品に対して自信を持って、お客様に伝えられるようになること。
それはさまざまな情報が錯綜している現代にとても重要なことだと感じる。
調べて知って、自分なりの正解をもつ
革製品の仕事に携わって約20年のわたし。
技術的なことは経験を積みたくさん知識を積んできたけれど、生きた動物から頂いた革という存在について向き合って考える機会は少なかった。
環境問題、SDGsやヴィーガンなどの流れがどんどん大きくなる今、食肉や皮革についてこれという正解は私自身も持ち合わせていない。
正解はなくても、調べて知って納得して、自分なりの正解を構築して、購入くださるお客様にも伝えていくことがますます重要になっていくと思う。
「ステキだから、デザインがいいから」
それだけでは溢れる低価格商品と同列になってしまう。
『この人・会社がこんな素材でこんな風に作られた商品だからお金を払いたいし、長く使い続けたい』
流れる情報や感覚に惑わされるのではなく、知り調べ、伝えて共感してもらう。
それがこれからもものづくりを続けていく自分たちの責任かもしれない。