JEHが持つブランド力の高さから、ライフスタンスの重要性を考える
去年の秋、家族旅行で北陸に行きました。
ちょうど10月の三連休で、こんなイベントがやっていたんです。
“見て・知って・体験する”
作り手たちとつながる体感型マーケット
コンセプトはもちろんのこと、サイト自体がとても素敵。改めて鯖江市は「ものづくりの町」なのだなぁと実感しました。
そして、町全体がひとつになって、ものづくり文化を盛り上げようと取り組んでいる姿勢に好感が持てました。
…結局、旅行期間中にこのイベントには行けなかったのですが、いつか行ってみたいです。
思えば、私が愛用している名刺入れは福井県の越前和紙メーカーさんが作ったものでした。
お気に入りの一品です。
さて、福井県鯖江市と言えば「メガネの聖地」としても有名ですね。メガネフレームの生産は、国内シェアの96%を誇っています。
メガネに携わる会社が福井県内にこんなにもたくさん…!(嬉々)
というわけで、今回は鯖江市にあるメガネ会社の中でも、最近特に勢いがある「金子眼鏡」を基盤とするジャパン・アイウェア・ホールディングス(JEH)について、企業分析をしたいと思います。
ジャパン・アイウェア・ホールディングス(JEH)とは
JEHは、1958年に金子眼鏡商会として創業した金子眼鏡と1995年に999.9ブランドを創立したフォーナインズの2つのブランドを統合する持株会社として、2021年に誕生しました。
両ブランドともに、中・高価格帯の眼鏡を中心に販売しているアイウェアブランドです。金子眼鏡は国内外約80店舗の直営店を通じて、フォーナインズでは国内外約15店舗の直営店と多くの取扱店を通じて販売を行っています。
そんなJEHが2023年11月16日、東京証券取引所スタンダード市場へ新規上場しました。福井県鯖江市のメガネ業界では初めての上場企業となります。
お洒落すぎる…!ほしい!ほしい!!
SPA(製造小売業)のメリット
JEHは、アパレル企業のユニクロやZARAと同様のSPA(製造小売業)をビジネスモデルとして採用しています。
そのため、JEHが自社商品を製造・販売する上で、以下のようなメリットが挙げられます。
◾️卸業を経ず直接供給
自社ブランド商品を店舗に直送し、卸業を通さないため、中間流通のマージンが発生せず、利幅が大きくなる。
◾️価格競争における柔軟性
利幅の拡大により、価格競争においても柔軟な対応が可能であり、競争力を保てる
◾️サプライチェーンの自社管理
生産・販売計画を最適化することで、効率的な運営が可能
◾️製販一体の一貫した運営
リードタイムが短縮され、売れ行きに応じた柔軟な生産調整ができる
◾️直営店を通じた顧客インターフェース
販促やブランディングが容易であり、生の顧客情報を商品企画に直接活かすことができる
◾️サプライチェーンの高速化と即応性向上
顧客情報を活用し、新しいトレンドを素早く商品に組み込むことが容易
確立されたSPAモデルによって、JEHは収益性と効率性を担保する一方で、職人の技と高品質を維持することができるのです。
JEHの決算書
上場ホヤホヤの企業なので、有価証券報告書も少しだけ違った見た目をしています。
通常の有価証券報告書は、第一部に「企業情報」が掲載されるのですが、JEHの有価証券報告書は「証券情報」から始まっていました。
東京証券取引所では、新規上場に際して募集又は売出しを行う場合は、ブックビルディング方式又は入札方式のいずれかを義務付けています。JEHでは、ブックビルディング方式を採用していました。
ブックビルディング方式とは
初めて耳にするワードだったので、今回もAIさんに説明をお願いしました。
つまり、入札方式では、投資家が自分の購入価格を提示し、最も高い価格を提示した者が最終的な価格となる一方で、ブックビルディング方式では企業が価格範囲を提示し、最終価格は投資家の需要が多い範囲で設定されます。
JEHに、今後どれだけの資本金が集まるのでしょうか。目が離せません…!
競合他社との比較
上場初年度ということで、過去の決算数値が載ってこないので、同じメガネ業界であるJINS、パリミキHDの決算書と比較してみました。
【ざっくり企業情報】
◾️JINS
研究開発から生産販売まで一貫して展開する(SPAモデル)メガネブランドで、ショッピングセンターや駅ビルを中心に店舗を運営しています。高いデザイン性と低価格を両立させ、「メガネ業界のユニクロ」とも言われています。ド近眼な私にとって「薄型レンズも無料で交換可能」というシステムは、とても魅力的ですね。
◾️パリミキHD
日本を含め世界中に約1200もの店舗を持つ国内最大級のメガネチェーン店です。ほぼすべての年代をカバーする豊富な品揃えと細かいサービスに優れています。(私の中では「メガネの三城」のほうが馴染みがあります。メルヘンなお城風の外観をした店舗ね。)
※メガネ業界での業績ランキング1位は、全国に「眼鏡市場」を展開しているメガネトップなのですが、非上場企業のため比較対象から外しました。
貸借対照表での比較
まずは、JEH、JINS、パリミキHDの貸借対照表を見てみましょう。
JEDの貸借対照表は、他の2社と比較して流動資産と流動負債の割合が低く、固定資産と固定負債の割合が高くなっています。
これは、JEDがまだ企業として成長段階であり、財務活動を活発に行っているためであると考えます。
実際にJEHの貸借対照表の内訳を見てみると、上場に先駆けて行われたM&Aによるのれんや商標権、長期借入金の金額が大きいことがわかります。つまり、今はたくさんのお金を集めて、設備や店舗拡大に投資するフェーズなのです。
今後、事業拡大と共に安定した利益が得られるようになると、徐々に固定資産科目が償却され、長期借入金の返済が進むことで、流動資産と流動負債の比率が高くなってくることが予想できますね。
【ざっくり用語説明】
◾️流動資産
短期間で資金を回収できる資産のこと
現金や買掛金、商品など
◾️固定資産
資金回収が長期に及ぶもの
建物や車両、備品、のれんなど
◾️流動負債
決算日から一年以内に返済する負債
売掛金や短期借入金など
◾️固定負債
決算日から一年を超えて返済する負債
長期借入金や社債など
貸借対照表の読み方について、より詳しく説明されているサイトはこちら↓
そして、前回に引き続き「のれんってナニ?居酒屋か?!」という方はコチラ↓
損益計算書での比較
次に、JEH、JINS、パリミキHDの損益計算書を見てみましょう。
JEHは他の2社と比較して、売上の金額に差はありますが、営業利益率は 28.8%と圧倒的に高いことがわかります。(営業利益は、上のボックス図で緑色の部分に当たります)
ちなみに、営業利益は以下の式で求められます。
売上総利益 = 売上高 − 売上原価
営業利益 = 売上総利益 − 販管費
損益計算書のボックス図より、3社とも売上原価の比率に差はありませんが、JEHの販管費が他の2社と比較して低く抑えられていることが読み取れます。
この販管費率の低さこそ、JEHの販売戦略であり、強みとなっているのです。
JEHの販売戦略
販売戦略とは、自社の商品やサービスをどのような顧客に、どのような価格で、どのチャネルを通じ、どのようなアプローチによって販売するかを考えて、戦略としてまとめるものです。
JINSを始めとする低価格帯ブランドが競合する中で、JEHは高い品質とファッションアイテムとしてのブランド力を訴求する「高価格帯ブランド」というポジショニング戦略を打ち出しています。
実際、金子眼鏡もフォーナインズもメガネ一式の購入単価は7万円台となっており、価格は高くてもデザイン性が高く、品質の良いものを求める顧客にターゲットを絞っていることが読み取れます。
(ちなみにJINSの平均購入単価は9,384円、パリミキHDは32,888円)
また、JEHは優良立地へ洗練された店舗デザインを通じて出店することで、高い集客力と高級感のあるブランドイメージを醸成しています。
つまり、店舗およびブランドイメージそのものが広告塔の役割を果たすことで、広告宣伝費を抑えることに成功しているのです。
結果、販管費が抑えられることで、JEHの高い営業利益率に繋がっているのです。
更にJEHは、今後の経営方針として、海外展開およびインバウンド需要の取り込みを強化するそうです。
特に中国における現地売上拡大を狙っているとのことですが、個人的には今後の中国にあまり期待はしていないかなぁという感じです。バブルコワイヨネー。
まとめ
メガネ業界において独自のブランドを確立し、競合他社との差別化を上手く図っているJEHの販売戦略は、とても魅力的です。今後も目が離せないなぁと感じました。
ポジショニングまじ大事。
そんなわけで今週は、JEHについて色々調べていたのですが、木下斉さんがこんな配信をされていました。とても良いタイミング!
まさに私もそうですが、過去から引きずっているデフレマインドによって、ついつい安いものに手を出してしまいがちです。
しかし、これからの時代は「良いものを見る目」をきちんと養って、適切に消費していくマインドに切り替えることがとても大切なのだと改めて実感しました。
とは言え、ファストファッションに代表される価値観を否定するつもりはありません。私は安くても良いものは存在すると信じています。
なぜなら物事の良し悪しは私自身が決めることだから。
値段だけで判断するのではなく、自分の軸を持って自分の収入に見合ったものを選ぶことが日々の生活を豊かにしてくれるのだと思います。
それこそがきっとライフスタンスなのですね。
この有料配信もめっちゃ良かった…!
私自身も、地方のものづくりに携わる人間の一人であるため、とても勉強になりました。
安いものをたくさん生産、販売する時代に変化が訪れようとしています。(うう、耳が痛い…)
今回の企業分析を通じて、JEHのようなターゲットとなる顧客を明確にした上で、高いブランド力と共に高い品質の商品を適切な価格で提供する企業がこれから増えていくのではないかと感じました。
鯖江市の企業に限らず、良いものはどんどん広がるべき。
そのためには、やはりデフレマインドの脱却が必須だなぁと思いました。
私達にも、企業にも、価値観の変化が求められているような気がします。
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