シチリアの蛇
~コバンザメのシチリア滞在記~
蛇と言っても野菜の話。
夏から秋にかけて、メルカートで薄緑色の長い杖のような野菜をあちこちで見ることができる。段ボールに手書きで“zucchina(ズッキーニ)”とか“zucchina lunga(長いズッキーニ)”などと書かれている。大きさにもよるが1本1€~2€。
ズッキーニは大好物だ。
日常的に食卓に上るようになったのはいつ頃からだろう。子供のころには食べた記憶がない。初めて食べたときは、このうすぼんやりした味の野菜のどこが美味しいのか分からなかった。それなのにいつのまにか、野菜売り場に並ぶ時期には頻繁に買うようになっていた。
イタリア料理にはかかせないズッキーニは、シチリアのメルカートでもあちこちの屋台で売られている。日本でもおなじみの太いキュウリのような緑のものは何本も盛られて1€。白っぽいzucchina biancaという種もときどき見かける。
この地で初めて見る長い野菜も、“ズッキーニ”と書かれているなら食べたことのあるズッキーニの味と近いにちがいない。一度は味わってみたいと一本買うことにした。
屋台のお兄さんが「切る?」と聞いてくれたけれど、せっかくなので断ってそのまま大事に縦に握りしめて持ち帰った。
メルカートではそんなに長くないものを買ったつもりだったが、どうしてどうしてなかなか立派な長さである。床に置いてみると、ちょっと蛇を連想してしまう。
あらためて野菜の名前を調べると「zucca lunga(長いかぼちゃ。ズッキーニはかぼちゃの仲間だから見てのとおりだ。)」「serpente di Sicilia(シチリアの蛇)」などとも言われているらしい。
さて、この“シチリアの蛇”をどうしよう。
友人によると、この野菜は皮をむいて調理するとのことなので、まずはピーラーで皮をむいて塩茹でに。
長く茹でても時間が経っても美しい緑色がそのまま残っており、思わず一人で歓声を上げてしまった。
オリーブオイルと岩塩をかけて食べてみる。食べなれているズッキーニよりもさらにくせがない。ズッキーニのようなしゃきっとした歯ごたえもなく、冬瓜に近い口あたり。
次はほかの野菜といっしょにスープに。スープの出汁をしっかり吸ってとても美味しい。
茹でてその茹で汁にトマトソースと折ったスパゲティをそのまま投入した。友人に教えてもらったレシピ。柔らかいけれど崩れることなく、トマトソースともよく絡んでこれも美味。
さいころ状に切ってお米とチーズを入れてリゾット的なものに。しっかり煮たのに鮮やかな黄緑色がそのまま残っていて楽しい。
毎日少しずつ切って堪能した「シチリアの蛇」。くせのないおだやかな味はもっといろいろ使えそうだ。シーズンはまだもう少し続くだろうか。気が向いたらまた買ってみることにしよう。