First kiss
本当の初めては小学校の3,4年だったか、女の子の友達に。遊んでじゃれ合っていたついでに。彼女は少し寂しい子だったから。クラスでお父さんがいないのは彼女だけだった。彼女のお父さんはもう会えないところに行ってしまっていた。若くて背が高いカッコいいお父さんは、彼女の自慢だった。雪に覆われた1月、雪は遊び場。滑ったり、寝そべったり、おままごとのお家だったり、白一面は空想の世界を共有する。日が陰る時間。刺すような寒さが動き回る体温を奪った刻だった。私は、ただただ不快だった。周りにはあと数名、少し遠くで走り回っていた。2度目が起こらなくてホッとした。
中学ではクラスに好きな人がいて、本当に毎日大好きだったけど、関係は動かず。両想いだと、周りは教えてくれた。だけど、おはよう、すら言えなかった私達に物語の動かし方はわからなかった。彼はモテる人だったけど誰とも付き合わず、卒業を迎えた。あれだけ、クラスで存在感があってムードメーカーで野球のユニフォームもカッコ良かったのにね。
高校に入ってからのファーストキスの場所は、茶色の煉瓦にエメラルドグリーンやアイボリーの、僅かな縁取りや装飾の効いた大きなお城だった。それはバブル期の賜物で、海外から輸入された材料で建てられた、本格的なお城。割とそういったお城がアミューズメントパークや遊園地として、地域に存在していた時代だった。
彼は家の方向が真逆であるのに、よく家まで送ってくれたし、寒くない?って聞いてマフラーやコートを貸してくれる優しい人だった。彼の家と私の家は車で45分かかる距離にある。
幸いなことに、このお城が廃れて買い手待ちの状態だった。勝手に入れたのだ。綺麗な状態で、パーティ会場やら会議室、庭園を展望できる屋上、自由に探索できた。
ソファがあって、横には大きな窓が立ち並び、木々の濃淡と鯉の泳ぐ水場と橋が綺麗で、気分のいい場所だった。ソファに座ったら、目を瞑って、と言われてその通りにした。彼はそっと口付けた。でも、何かよくわからなくて、背景にお花は咲いていなくて。だから、彼の顔のすぐ側で、もう一回して、と言った。一回ではなかったけれど。
無理に関係を進めようとしない、私をよく見て寄り添ってくれる、愛のある相手だった。雪の日も、寒さも、不安定で未来の見えない時も、あの日を振り返ると、確かに満たされていた大切な刻だった。
雪の舞う少し白く灰色の日の窓辺では、ふと顔を出す緑去りゆく秋の夕暮れと君の掌。