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微睡む路上で深い声を拾う
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深夜の風は冷たく、
雑踏の隙間に漂う吐息は、
どこか遠くの水辺で溶けていく影のようだった。
曲がりくねった路地を歩きながら、
君の名を何度も口にしてみる。
その声は、どこかで振り向く誰かを探しているのか、
あるいは失われた欠片を求めているのか。
空は鈍色に染まり、
小さな光の屑が、
不意に微睡む瞼の裏で砕け散る。
行き先を示すものは何もないけれど、
立ち止まるたび、耳元で囁く声がある。
「休んでいい」
「抱えすぎないで」
「一人じゃない」
その言葉たちは、
重く閉ざされた扉の隙間から
柔らかな風を送り込むように、
胸の中に静かに息づいている。
踏み出すたびに崩れかけた心が、
微かな手がかりを探し求める夜が続く。
しかし、絶望の底にも微光は差し込む。
それは、切り裂かれた思い出の残響が、
青白い羽根となって揺らめく時、
希望と呼べるものへと変わる瞬間。
その瞬間に、
君を想う温度がわずかに上昇し、
落ちてゆく滴が頬を濡らす前に、
未来を紡ぐ種が土中で微かに目覚める。
行く宛のない夜道に立ち尽くしながら、
何も決められないまま、
ただ静かに呼吸を繰り返す。
君がそこにいないことに慣れようとする僕と、
君が手を伸ばそうとする僕が、
同時に存在する不思議な片隅で。
やがて、遠くで誰かが小さく笑う気配がする。
それは細い糸のように揺れ、
次第に心の裏側へ溶けていく。
また会えるかどうかもわからぬまま、
日々は続いていく。
けれど、足を止めてもいい。
ほら、君は一人じゃないと、
ふと、冷えた路上で拾った深い声が、
今日もかすかに響いている。
Ria