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三秋縋「君の話」の話

こんにちは、恵です。
最近コーヒーが飲めるようになってきて、味覚が大人になったのかなと嬉しさ半分、老いなのではと悲しい半分でなんとも言えなくなっていました。
今回は、先日読み終えた三秋縋さんの「君の話」について書いていこうと思います。

あらすじ

医学が発展し、脳に直接作用する薬(のようなもの)が普及している世界。
記憶を消したり、経験のない記憶を植え付けたりすることができるというものです。
人々はつらい記憶を消し、楽しい記憶「義憶」を買うことで幸福感を得ていました。
主人公の『千尋』の両親も同様に都合のいい記憶を購入しており、千尋は居ないものとして少年時代を過ごしていました。
彼は大人になり、少年時代の記憶を消すことにしました。ですが、病院側の手違いで記憶を消す薬ではなく、記憶を植え付ける薬を飲んでしまうのでした。
誤って義憶を手に入れてしまった千尋、街を歩くだけで義憶の中の幼馴染を思い出してしまい生活に支障をきたすため、いち早く義憶を消そうとしました。
しかし、そんなとき、義憶の中にしかいないはずの幼馴染の姿を町の中で見つけてしまうのでした。
~といった感じで物語が進んでいきます。これ以降ではネタバレに関することも書くので、読みたい方は、ここでブラウザバックをお願いします。

義憶と記憶

千尋が義憶の中の幼馴染である夏凪灯花と出会うシーンがとても強烈に印象に残りました。
義憶には、実在する人物を登場させてはいけないという法律があるため、完全再現された義憶の中の人物が出てくるということは、驚きを超えて恐怖にすら近い感覚を得るのではないかと思いました。
物語が進むにつれ、千尋と灯花は何度も出会いすれ違います。
一度目はお祭りの中で
二度目は千尋の家で
そして二人は夏休みを経て
三度目は千尋が探し出すことで
千尋の直前にあった周りの事件とも相まってすれ違っていく二人を見て何度も切ない気持ちになりました。

前半の感想

千尋が灯花を信じられずに過ごす数日間は読んでいて心が痛くなりました。しかし、義憶と割り切っているにもかかわらず気圧が下がりトラウマがよぎったことで、必死になって助けに行くシーンは涙が抑えられませんでした。
素直になれない、後悔しながらも灯花を突き放していた、そんな千尋がやっと行動をうつしたという点で、思わずガッツポーズしてしまいました。
灯花を受け入れてからは、幼馴染である彼らになんの壁もなく美しい二人だけの世界が見れて、幸せでした。
そんな矢先、「灯花が姿を消した」と一文で絶望したのも、強く印象づいています。

後半の感想

千尋視点から、灯花視点へと変わり、少しの共感と、悲しみであふれて、同か幸せに、「彼」が早く抱きしめて助けてほしいと思いました。
灯花が記憶を失い始めてからは早く、義憶技師としての人生を全うしていくことも容易に想像がつきました。
また、千尋に視点が変わり灯花に会いに行き、病室の窓越しに目が合うシーンは義憶の中の初対面を再現していて、彼らは嘘を真実に変えたのだとうれしくなりました。
また、千尋が灯花を受け入れなかったのと同じで、千尋を受け入れない灯花の構図もとても良くできているなと思いました。
記憶を失う灯花のために思い出話をするシーンは、読み終えて余韻に浸った後は、このシーンを一番に読み直しました。
見開き一杯に綴られた二人の思い出には嘘と優しさでできていて、千尋の灯花への愛を感じました。
灯花の最後の嘘と、はじめは違った意図で仕掛けた千尋の罠、二人が互いが互いを信じた結果にはうれしくてたまりませんでした。

最後に

千尋が義憶技師になったことも、灯花が「馬鹿だなぁ」と嬉しそうに言ったことも、すべてが美しく素敵な物語であったなと思いました。
何度でも読み直したいなと思いました。
一つの本の感想を書くものは楽しく思えたので、また別の本の感想も書こうかなと思います。                                                                                                                                                                                                               


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