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蛇口から過去


人の思い出話を聞くのが好きです。私の過去にはないものだから。

1980年代、心理学者のエンデル・タルヴィングは、人間には過去を追体験する能力と未来を先行体験する能力があり、両者には同じ記憶メカニズムが用いられていると説いた。この説を裏づけたのが記憶喪失患者のケーススタディだ。ある男性「K・C」は脳障害の影響で、彼の家族が湖畔にもつ別荘に行った経験といった個人的な記憶を保持する能力に問題があった。そしてまた、彼は家族がその別荘を所有していることを知っていながら、将来そこに行くということも想像できなかったのだ。

『〈心のタイムトラベル〉が、わたしたちの集合的な未来に影響を与える』WIRED 2023.03.02

思い出すという行為と、未来を想像するという行為は全く別のものに見えて、実は同じ記憶メカニズムが用いられている。それはもしかしたら、思い出せるから未来を考えることができる、とも言えるかもしれません。

濱ちゃんが先週の交換日記で、

私たちが過去を振り返る時のように、
印象的な未来は現在からの距離に関わらず鮮明に見えたり、
逆に印象に残らないような些細な未来は見えづらかったり、
自分が死ぬまでの未来しか見えなかったり。

アンビバレントな衛生観念

と言っていてとても印象的だったのですが、これはあながち空想の話ではない気がします。本当は、印象的な未来は鮮明に見えているのかもしれないし、些細な未来は見えづらいのかもしれない。でも、人は忘れてしまう生き物だから、もしくは、忘れないといけないことが多すぎて、見えるはずの未来も見えなくなっているのかもしれない。忘れちゃうから、未来を想像できないのかもしれない。

この理論で言えば、コンピュータの方が未来を的確に想像できるのかもしれません。忘れるなんてことがないから。あ、でも、忘れないということは、思い出すこともないのか。思い出せるから未来を想像できる、とするならば、コンピュータには未来を想像できないのかもしれない。忘れるから思い出せる、思い出せるから未来を想像できる。ん? だとすると、未来を想像するためには、忘れるということが必要になる。こじれてきましたね。人間は、忘れちゃうから未来を想像できないかもしれないし、忘れちゃうから、未来を想像できるのかもしれません。

一体、どちらが正なのでしょう。答え合わせはいつかできるのでしょうか。

今週の質問:いいクリエイターとは何か

ん〜!難しい質問ですね。色々な答えは浮かぶけど、綺麗事に聞こえて腹落ちしない。悪いクリエイターの逆がいいクリエイターかというとそうとも言い切れない。澤さんが「生きてる限り、生み出してない瞬間などない」と言ったように、クリエイターって、いわゆる「クリエイティブ業界」にいる人を指すだけの言葉でもないし。

うーん、難しい。かなり悩みました。が、小難しく考え込まず、散歩しながらなんとなーく考えていたら、私なりの答えは意外と近くにありました。なんだ、好きなクリエイターを頭に浮かべればいいだけだったのか。


廣瀬さんが、この質問への回答の中で「いいクリエイターの"状態"」という言葉を使っていましたね(今日は引用が多いな)。

この"状態"という言葉に近いかもしれませんが、
私は、つくり"続ける"人が、いいクリエイターだと思います。

それは別に、続けた時間の長さとかではありません。ただ、昨日も今日も明日も、つくり続けられる人。いや、つくらない日々が続いたとしても、いつかまた、つくるという選択肢を選ぶ人。そういう人がいいクリエイターな気がします。なぜなら、続けるということは、つくったものを責任を持って生かすということだと思うからです。






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