見出し画像

女の連帯の物語 #寅に翼 第13週 第62話

今日は、梅子さんとトラちゃんが”ちゃんと”再会。常に、包み込むように、年下の友人たちに大上段に構えるのではなく、むしろ「一緒に勉強してくれてありがとう」とおむすびをたくさん作ってくれ、「嫌な態度をとってしまってごめんなさい」と頭を下げてくれるいい人なんだった。良いとこのお嫁さんだけあって、人柄も良し。息子たちも器量よし…イケメン揃いじゃん。でも彼女の人柄の良さを引き継いだのは三男だけという悲劇。

猪爪家の寅子の兄弟、甥っ子たちと同じように、裕福な家で育ったろうに、お父さんの気性とお姑さんの育て方、なにより、家父長制にがんじがらめになった家柄。家の雰囲気で子どもの育ち方はこうも違う、という対照的なふたつの家を見せる。思えば寅子が恵まれているのだということを、そうでない人と一緒に登場させることによって描く手法は多い。今回は「家」の比較。心理学の実験で被験者群を「ほかのすべては一致しているが一個の変数だけ違う」を用意するように、3人の男児、同じような裕福さの家…。まあ女たちの立場は違うけど…。そもそも直言が亡くなったとき、猪爪家で遺産相続争いなんて全然なかった(あ、そういえば、花江ちゃんは家に居れるのかって確認だけはしてから亡くなったね、お父さん。そしてお金のやりくりについて、ちゃんと「一家として」ひとまとまりにされた情報が記されたはるさんノートを、寅子と花江は一緒に見ていた)。

家父長制に囚われて、民法改正を知っていても弟や母に相続放棄させて家を存続させれば問題ないと思っている長男。

長男は家父長制の化身、次男は母親を透明化する子ども。三男はなにをやらかしてくれるのか…。今週の相関図に、神保先生が載ってるので、彼が「ほら人の考えはそう変わらないでしょ」とかいうんだろか?

轟の事務所で寅子は、梅子さんてば、ちゃんと民法わかってるのね!うれしかったわ! と上から目線コメントしてたけど、寅子が民法改正のためにがんばったという情報は、多分「守秘義務」で言えない…まあ現在の職位から学友らは想像できるんだろうが。

さて、犬神家よろしく、家族会議のシーン。スンッと座って静かにしている梅子さんの代わりによねさんが怒りをあらわにする。

「民法が改正されたことくらい、弁護士なんですからご存じですよね」

説明するよねから梅子にカメラが移る。部外者はひっこんでろという長男に、よねが何か言いそうだ。それを静止する轟。母が相続放棄して、自分の取り分が少しでも増えればいいという次男。梅子さんはよねさんに目配せする。よねも視線でそれに答える。がんばれ梅子さん。そして言う。

「私は放棄しませんよ」

月曜日の家庭裁判所ではひと言も発しなかった梅子さんが、家族に向かって発した第一声だ。そこまで家族のシーンで彼女はひと言も発していない。一応轟とよねに耳打ちはしてたけど(なんなら、静子という長男の嫁のほうが先に発言した)。

最初、よねさん、客先なのにちょっと荒っぽい言葉遣いだな、大丈夫か? と思ったのだが、ある意味「弁護」なのだ。渦中の梅子さんの代わりに口を出し、怒る役目を引き受けている。よねさんが先に怒っていても、梅子さんの体も怒りで固まっている。そして、梅子さんも自分の意思をやっと表明できた。この役者の表現力よ。「弱者のために主張する」役割をちゃんとよねが担っているシーンでもある。ちょっと荒っぽい突破力が彼女にはある。みんなが蹴っ飛ばせなかった男子を蹴っ飛ばしたときのように。よねがアクセルを踏み、轟がブレーキをかける。コンビだなあ。

この物語がシスターフッドの物語で、女たちが助け合いながら法科を進んできた続きが、ようやく始まった、と思った。寅子がよねと轟のところに彼女を運び、翼を授けた。

寅子の物語は、1人で男社会をなんとか乗り切る物語になりがちだが、よねや梅子に用意されているのは「女たちが力を合わせて乗り越える」物語なのかもしれない。やーがんばれ、仲間たち。


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集