花江ちゃんの「ウフフ」とナンパされるおばあちゃんの思い出 #虎に翼 第13週 第61話
今日のエピソードでは、戦争孤児で、寿司屋で住み込みで働くことになった道男が、なぜか猪爪家に帰ってきて、食卓を囲んでいた。寅子は呼び捨て、花江は「花江ちゃん」呼びで、「俺みたいな色男が来たら花江ちゃんもうれしいよな」とちょっと不穏なことを言う。これに花江は「ウフフ」なのだ。え、なんか気持ち悪ーい。何これ。
ちょっとSNSでみんなの感想を読んでると、既にできてるだの、道男が受け入れられていて冗談で流せるようになっててよかったねだの、なんとなくどれもしっくりこない。「ウフフ」ってなんだ、気持ち悪いな。
女学校を出てすぐに結婚、出産、戦争未亡人になった「良妻賢母」の花江さん。お姑さんっだったはるさんが亡くなって、家事負担が増えますよ、というフェーズでちょっとエピソード増えるのかな? の今週。
彼女、私の祖母(故人)をたまに思い出させるキャラなのだ。柔らかい顔つきで、高い声、くにゃくにゃした話し方。ピンクの着物。私の祖母は、少女趣味の持ち物が多く、私にもそういう土産物を買ってよこすので母が嫌がっていた。今日の優未のブリブリの衣装……少女趣味?
祖母は、女学校を出たことが自慢だった。女学校時代の友達と同窓会旅行に行ったという話を自慢げにしていた。女学校に行くということが、戦前生まれの女性のステータスシンボルなんだな? となんとなく理解はしていたが、ふと、繋がった。
祖母が60歳を過ぎたあとだったと思うのだが、一人暮らしの祖母を訪ねていった博多の街中を2人で歩いて、喫茶店でお茶をしていると、おじいさんがフラフラと近づいてきて、何やら祖母に話しかけている。「娘さんですか」と聞かれたので「ウフフ…孫ですよ」と祖母が答えてニコニコしていたのを眺めていた。
このおじいさん、祖母の知り合いではなかったのだ。つまり、祖母はナンパされていた。(ちなみに、喫茶店だけでなく、別の場所でも複数回このくだりを経験した。絶世の美女というわけでもないのに、おばあさんにはおばあさんの「おじいさんモテ」みたいのがあるらしい。確かに明るい色の服を着て、なんとなくブリブリしている祖母は「ゆるふわモテなんとか」っぽかった)
祖母と街中でお茶をしていて、祖母がナンパされる(複数回)… のに遭遇するというだけでも、周りに話すと割と引かれる経験だが、私が不思議だったのは、彼女が「ウフフ」と終始にこやかにしていたことだった。(だから話しかけてきたのが、見ず知らずのおじいさんだったことに気づかなかった)
私だったら、知らない女に声をかけてくるような男に遭遇したら、無視するか、そっと視線を外して「すみません」といいながら足早に去る。でも、祖母は「ウフフ」だったのだ。
虎に翼では、一段低い民として扱われる女たちが「スンッ」ってなるのだ、と寅子が憤っているというのが描かれ、この「スン」は発明品だと賞賛されている。よく知っているのにことばを与えられていなかったものを表現する語ができた。
今週のメインヒロイン梅子さんは、帝大卒のやり手弁護士(大学の講義に呼ばれたりするくらい)の妻で、夫の前では完璧なスン顔の持ち主。梅子さんも良いとこの娘さんだろうから高等女学校出てるよね。
そういえば、私も、手話関係者になって、突如マイノリティになってしまい、手話通訳をつけてもらう交渉などをしてから(つまりもの申すマイノリティになって)、学会会場に行くと、ずっとニコニコペコペコしている。ろう者をはじめとする障害者やマイノリティは「人様に好かれる人になれ」と言われて人前でご機嫌でいなさいと、小学校とかから教わってきたというエピソードが語られる。私もその「ニコニコ」を体得しているらしい。
祖母は、離婚・再婚・死別からの未亡人という人生を送ってきて、昭和の女が1人で生きていく、を体現してきた人であった。旅館の仲居さんや小料理屋のおかみなど、客商売をしていた。だから、「スンッ」でもなく、ニコニコペコペコでもなく、「ウフフ」が彼女の処世術であり、あれは「スンッ」の一形態だったのだ……。ああ、朝ドラ、ありがとう。もう亡くなっているけども、祖母が喜んでニコニコウフフだったわけではなかったことにようやく気づけた。
花江が「スン」ではなく、黙ってニコニコだけでなんとかなってたのは、家庭が割と平和だったから。突然の異分子である道男に「ウフフ」になるのは、スンの一形態だと考えると「あ、気持ち悪く見えるのは現代っ子からおばあちゃんが気持ち悪かったあれか」となんか突如納得が行ったのだ。
花江ちゃんの「ウフフ」は「スン」ではないのかな…。考えすぎかな…さて答え合わせできるかな?