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ニュースはラジオで聴くべし
この2025年に日本でラジオ放送が始まってから100周年を迎える。かつてラジオは高級品であり、テレビが普及するまではお茶の間の主役であった。また、インターネットが登場するまでは、ラジオが最も早くニュースを伝える媒体であった。インターネット経由でラジオが聴ける現代だからこそ、ニュースはラジオで聴きたいものである。その活用法と効能を述べる。
ソーシャルメディアだけではニュースを網羅的にチェックするのは難しい
新聞・テレビ・ラジオ・雑誌のマス4媒体が、オールドメディアと呼ばれるようになって久しい。それも致し方ないことである。
第一に、オールドメディアのうち紙媒体はインターネットを活用したソーシャルメディア(SNS、動画共有サイトなど)の、圧倒的な速報性と拡散性には太刀打ちできない。
第二に、オールドメディアは大手マスコミが牛耳っており、しかも編集段階での取捨選択が避けられないために、偏向していると指弾されたり、マスゴミと呼ばれて敬遠されている。
第三に、年を追うごとに活字離れが進んでおり、長いコンテンツは好まれなくなっている。
主な理由を三つ挙げるならこんなところであろう。しかし、ネットを全く活用しないのは論外として、ソーシャルメディアがあるからとオールドメディアを無視するのも早計と言える。
なぜなら、ソーシャルメディアのニュース配信者は独自の取材網を持たないからである。そして、追跡システムの設計によって、カスタマイズされた好みの情報を優先的に受け取るようになるからである。
つまり、ソーシャルメディアにしか接していないと、自分の関心があるニュースが、世間ではどの程度の重要度で受け止められているかを推測できないのである。当該のサイトや記事には似たような属性の者が集まるために、閲覧数の多寡が世相を反映しているとは言えない。
さらに言えば、真偽不明の情報には価値がないどころか、社会に混乱を齎しかねず悪影響が大きい。査読を経ずに責任の所在がわからないソーシャルメディアの情報の多くは、信頼性が担保されていないのである。
あなたは新聞を購読しているか
小学校での出来事を思い出す。担任教師が新聞コラムの切り抜き(朝日新聞・天声人語、毎日新聞・余録など)を持ってくるように命じた。ある女子が泣きそうな顔で「うちは新聞を取っていないがどうすればいいのか」と担任に質問したのである。担任は「先生が○○さんの分も持ってきてあげるから心配いらない」と答えたが、この日からクラスの男子達は「○○ん家は新聞も取っていない」と小バカにしたのである。なぜなら昭和から平成の中頃までは、新聞を取っていないと恥ずかしいという社会通念が醸成されていたからであった。
しかし、ネットが繋ぎ放題になってネットニュースが多く配信されると、新聞を購読する世帯は徐々に減っていった。
あらゆるニュースを深く理解するには、やはり新聞を読むのが一番であるが、新聞をじっくり開く時間を割ける人はそう多くはないであろう。
テレビでニュースを見ることの問題点
テレビは大手メディアの取材編集によって、しかも映像つきでニュースを報じるので、一度に大勢がイメージを共有することができる。映像と音声が合わさると強烈な先入観を伴うために、ニュースの重要度まで歪めかねない。しかも視聴率が優先されるために目を惹くトピックばかりが採り上げられる。
先だってはNHKニュースまでもが、大谷翔平の妻が妊娠したと報じたのには呆れた。いくら稀代のスーパースターといえども、せめて出産してから話題にしてほしいものである。明るい話題を探すよりは大谷の活躍を報じておけと言わんばかりの、横一線の報道に鼻白む人も多いように見える。テレビ局は報道番組でも視聴率を稼がんがために、どうしてもお定まりの話題を選ぶ傾向があり、バランス良くニュースを把握するには適さないメディアと言えよう。
雑誌でニュースを振り返る
時事問題や政治を論じる月刊誌はいくつか存在するが、雑誌離れが進む昨今では発行部数は多くない。論調ごとに代表的な雑誌を挙げよう。
保守系
産経グループの扶桑社が発行する「正論」
左右包括型
中央公論新社が発行する最古参の「中央公論」
革新系
教養系の名門出版社岩波書店が発行する「世界」
これらの月刊誌は、特定のテーマを深掘りすることに特化しており、社会問題の理解を深めるに役立つが、多くのニュースをカバーすることは不可能である。したがって、各誌によって採り上げるテーマや論調に激しいバラつきが見られる。また、月刊という発行形態が、ニュースをアップデートするのに長すぎるのは言うまでもない。私は若い頃に「正論」を2年間ほど定期購読していたが、購読を止めてからは思想的にほとんど影響されていないつもりである。
ラジオにいたっては映像も画像もない
映像も画像も文字もない音声のみのメディアがラジオである。ラジオが最先端のメディアであった70年以上前はともかく、手軽にニュースを知りたいと思う人は、テレビかスマホでニュースを見るであろう。
しかし、私はラジオには映像が出ないからこそ、ニュースをチェックするのに適したメディアであると考えている。なぜなら起きた出来事を先入観に囚われず、単にニュース項目を頭に入れるには、音声のみという特性がプラスに働くからである。映像が簡単に見られる現代では、敢えてラジオを選択するのが賢明である。第一報はラジオで各ニュースのアウトラインを何となく把握することが効率的なのである。
受け手こそメディアミックスを心がけたい
幅広い周知を図るべく、認知される機会を増やすために、企業はあらゆる媒体に広告を出す。情報を受け取る側の我々も、無意識にあらゆる媒体を参考にして商品の購入を決めているはずである。ネットでしか買い物をしない消費者はまずいない。実店舗で買うほうが良い商品は数多くあるからである。
翻ってニュースを探る場合には、なぜかネットを閲覧するだけで済ませようと考える層が一定数以上存在し、その数は年々増加の一途を辿っている。ネットではニュースの重要度に応じて配信量を調整することは一切していない。また、報道に重要な裏取りも一切なされていない。
われわれはあらゆる媒体の中から、目的に適った手段で複合的にニュースを吟味する必要がある。
なぜラジオ聴取を勧めるのか
私はニュースを知る手段として、新聞やテレビよりもまず最初にラジオを聴くことをお勧めする。以下に理由を掲げる。ラジオさえ聴いていれば事足りるとまでは言わないが、表面的には社会の動きを満遍なく把握できるのである。
原則として無料
民放は企業のCM、NHKはテレビ受信料で成り立っているために、多くのラジオ放送の聴取は無料でできる。
ながら聴きができてタイパが抜群
そもそもが画面に映像が表示されないので、他の事をやりながら聴取できる。音源によっては倍速聴取もできる。ネットを閲覧しながらラジオを聴くのは非常に効率が良い。皆さんはnoteを読みながらラジオを聴いてみてほしい。動画で時間を潰すのが馬鹿馬鹿しくなる。
映像がないために情報過多とならない
ラジオは音声によって伝えるために、時間あたりの情報量に限界がある。ニュースを深掘りするには聴取に時間がかかりすぎて不向きでも、情報の伝え方がフラットなために多くの項目を頭に入れるには適した媒体と言える。
先入観に支配されづらい
映像がないラジオはセンセーショナルな編集が難しいために、かえって先入観に支配されづらいのは、ソーシャルメディアの影響が増す昨今ではプラス要因にすらなる。
音声で読み上げるために広く浅く網羅される
全方位的に必要最低限のニュースを、いつでもどこでも仕入れるにはラジオが最適である。音声は読み上げ速度がほぼ一定なために多くの情報は発信しづらく、ラジオニュースの編集は広く浅くならざるを得ない。逆にこれが情報過多の時代にはメリットにもなる。
ラジオで採り上げるニュース項目は信憑性が高い
ラジオニュースの多くは通信社のニュースソースを使用しており、勇み足の取材にはなりがたく、信憑性が高いニュースばかりが選ばれる。
詳しく知りたいニュースは媒体を変えてさらにリサーチ
短時間のニュース番組では、ニュース用語の解説をするに十分な時間がない。また、ラジオは映像がないのでビジュアルを掴むのは難しい欠点がある。さらに、アナウンスやお喋りを聴き落とすことが珍しくない点はマイナスである。しかし、第一報のチェックと割り切れば、耳に残ったものが必要な情報と言えなくもない。
気になるニュースは、媒体を変えて改めてチェックすることをお勧めする。
おすすめラジオニュース番組
NHKラジオニュース
NHKラジオ第1放送の定時ニュースである。
午前・午後のそれぞれ7時と正午のニュースは、FMでも放送される。
TOKYOFM(JFN)ヘッドラインニュース
平日朝のワイド帯番組であるが、ヘッドラインニュースのコーナーがある。民放ラジオのヘッドラインニュースが最も手軽にニュースを仕入れられる。
ヘッドラインニュースこそラジオの特性を活かした報じ方なのかもしれない。車を運転する方にはお薦めだ。
ニュース特集番組
Nらじは様々なトピックスをバランスよく採り上げて解説している。
最もジャーナリスティックなラジオ番組が荻上チキ・Sessionである。
ニュースを深掘りしたい方には、SessionかOK!Cozy up!をお薦めする。
エンタメとしてニュースを聴きたい方は、田村淳のNewsCLUBが理屈っぽくなくていいだろう。
若者向けニュース解説
男性アイドルグループINIのメンバーが出演し、ニュースの疑問にNHKラジオセンター長が答える形式である。若い女性には特にお薦めである。
おすすめアプリ
世界中のラジオ局が聴けるTuneIn
米CNN,FOX、英BBCなどの有力局をはじめ、世界各国約10万チャンネルのラジオが聴ける。
現地語を聴けるのはもちろんのこと、音楽放送も多岐にわたるので、BGMにも最適である。TuneInでお気に入りのチャンネルを登録すれば、有線放送は不要となろう。
民放を聴くならradiko
NHK らじる★らじる
FMプラプラは多くのコミュニティFMが聴けるアプリだ。お住いの地域情報もラジオで仕入れたい。
ポッドキャスト
ポッドキャストでもニュースはチェックできる。
NHKの定時ニュースもポッドキャストで聴ける。また、多くのラジオ番組が主要コーナーをポッドキャストで配信している。
新聞記者が語るポッドキャストは百花繚乱
全国紙・ブロック紙は、競うように新聞記者がMCを務めるポッドキャスト番組を制作しており、大手新聞社の全てが手がけている。
地方紙(県紙)も続々と記者が出演するポッドキャスト配信を始めている。お読みの新聞名で検索すると良いだろう。
話のタネになるポッドキャスト
政治や選挙を語り尽くすセイジドウラク
自然科学と防災を学べるしぜんのかがく
今年の元旦にも取り上げたが、御丹珍をフォローしてくださる農学博士の玲子先生が出演中で、自然科学の観点から防災を学ぶことができる。災害時にはラジオが心強い味方となる。
ちなみに、「しぜんのかがく」の最新回(ep.70)は、私のリクエストにお応えいただいたテーマで、防災グッズ5選をピックアップしたものである。プロのラジオパーソナリティと制作会社による番組なので、とても聴きやすい仕上がりになっている。
noteだけでなく、ポッドキャストもフォローをお願いしたい。
日本におけるラジオに対する偏見
ラジオをオワコン媒体と考えているのは日本くらいなものである。アメリカではラジオによる広告収入の市場規模が日本の約50倍にものぼり、テレビ視聴よりもラジオ聴取の行為者率が高いのである。
私はこうしてスマホで記事を書いている現在も、同じ端末からラジオを聴いている。ネットでニュースを漁るのもいいが、そんな無駄なことをするよりは、ラジオを聴きながら筋トレに励んだほうがよほど実りがある。
ニュースリテラシー
時間に余裕があれば、書籍でニュースの読み解き方を学んでおきたい。入門編から読むことをお勧めする。
ニュースリテラシーを上げるには、事実と意見を明確に区別することである。
一房のぶどうに30粒の実があることは事実である。30粒が多いか少ないかは意見である。よく「吉永小百合が美人なのは事実」などと言う人がいるが、吉永を美人だと思う老若男女が何百万人と集まって満場一致しても、これは多数意見なのであり、それがどんなに妥当と思われても、事実と言い張るなら強弁である。美人か否かは事実ではなく評価なのである。
ラジオニュースの良い点は、一房のぶどうが30粒の実をつけている事実が、強く印象に残る点である。
YouTubeやXに入り浸る者は、この区別がつかない場合が多い。自分が支持するものを事実と誤認してしまうのである。しかも似たようなソースを繰り返し見てしまうので、当人に偏っている自覚は極めて薄い。
外出先で聴くのにお薦めするアクセサリー
外出先でラジオニュースやトーク番組を聴くには、通話もできるBluetooth対応のワイヤレス片耳ヘッドセット(イヤホン・マイク付き)をお薦めする。
ヘッドセット本体で再生や音量調節ができるタイプがいい。片耳が空いていたほうが安心で、左右の耳で交互に聴くと疲れない。人の声だけを聴くと割り切れば、使いやすく廉価なものが見つかるであろう。
ラジオでのニュース聴取は、必要最低限の情報をバランス良く知るには最適であり、ラジオの聴取習慣がない方は、これを機にラジオやポッドキャストのアプリをインストールすることをお勧めする。