#257 『劇場総集編ぼっち・ざ・ろっく!Re:Re:』 感想(ネタバレなし)

 『劇場総集編ぼっち・ざ・ろっく!Re:Re:』を観ました。TVアニメを前後編の劇場用映画に再構成した、ヒットアニメによくあるパターンのやつですが、面白かったです。この手の映画化は尺が足りないことによる消化不良感がどうしても避けられないものですが、『ぼざろ』自体が割と余白のある作品であったことから、むしろテンポが良くなり観やすくなったのでは?という気さえします。

 本作はタイトル通り、主人公が「ぼっち」であったことから生じるコミュ障ネタを散々コスるコメディ&高校生バンドの成長を描く作品です。かつての「オタク」がもうネタとしてイジる価値のないほど一般化したというか、オタクカルチャーに通じていることにはある種の格好良ささえある現代で、「人との接触前に無用な妄想をしてしまい、コミュニュケーションから逃走し、いつも友達がいない陰キャ」を主人公にして、大ヒットしたわけですね。

 成功者が過去を語るとき、「実は陰キャで友達がいなかった」と言うのは、昭和であれば明かしてはいけない過去だと思いますが、現代ではそれほどでもありません。むしろ親近感が増したり、尊敬される可能性すらあります。「だから、その間ずっと音楽をやってYouTubeに投稿していた」という風なエピソードがあれば尚更です。「ぼっち」や「陰キャ」という属性も、かつての「オタク」と同じく、使われるたびにそのインパクトが希釈されていくのでしょう。悪いイメージで使われていた言葉が、時代が下ると逆に格好良さを纏うという、面白い現象だと思います。

 さて、「ぼっち」つまり孤独について、今読んでいる本『ストレス脳』によると、孤独はそれ自体が喫煙や運動不足に劣らない健康にとってのリスク要因であるとのことです。脳にとっては「誰にも助けてもらえない状況」と理解され、常に警戒状態でいなければならず、交感神経を活発にする。(リラックスする方の副交感神経ではない)私たちは集団を作り、協力して生き延びてきた祖先の遺伝子を持っているため、生存率を上げるための「社交欲求」がある。翻って、孤独はそれ自体が危険である。いつの時代も人間は寄り集まって生きてきた。故に私たちは孤独に対してストレスを受け続けることになる…というお話です。ご興味を持たれた方は書籍で詳細をお読みいただきたいのですが、なるほど『ぼざろ』で描かれているのは、「バンド活動を通して主人公が他者と繋がっていく」という有り体な物語ですが、大げさに言うと、社会的病からの回復の物語という時宜を得たものだからこそ、ここまでヒットしたのかもしれません。

 映画館で観るとライブシーンの臨場感が素晴らしいので、ご興味のある方は是非劇場で鑑賞されることをおすすめします。

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