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#048 9回裏、最後の夏。

キャッチャーが示した場所にボールを投げればいいだけなのに、毎度のことだがめんどくさい。
あれはたぶんフォークを投げろと言いたいらしく、股の間でしきりにパーを出している。

一塁の走者が走るぞ、走るぞ、とやっているのが視界に入るのもストレスだ。
もう、2回も牽制しているし、正直関わりたくない。
走ればいいじゃんとしか思えない。

様子がおかしいのに気がついたか、バッターがこちらに向かって何かを言っているから、読唇術で読み取ると「大丈夫?疲れてない?」と言っているようなので、「ううん、大丈夫」と返してみた。

「大丈夫じゃなくない?」と言うから結構いい人なんだなと思って、「ちょっとしんどい」と漏らしたら「あとでご飯行く?話聞くよ?」って言ってくれた。

「ありがと。ゲームセットしたらすぐ帰んなきゃだし、また今度ね」

「そっか。あとで電話番号教えて」

「ありがとう。電話するね」

あのときのフォークボールはキャッチャーミットに収まった後にも回転し続けたほどで、1塁走者もポカンとしていた。

審判は一瞬「え?」みたいな顔をしたけど、ストライクって言ってくれたから嬉しかった。

9回裏、最後の夏。

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