![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/119709842/rectangle_large_type_2_242d92ada8dad5d54eddbac304dc08e0.png?width=1200)
#048 9回裏、最後の夏。
キャッチャーが示した場所にボールを投げればいいだけなのに、毎度のことだがめんどくさい。
あれはたぶんフォークを投げろと言いたいらしく、股の間でしきりにパーを出している。
一塁の走者が走るぞ、走るぞ、とやっているのが視界に入るのもストレスだ。
もう、2回も牽制しているし、正直関わりたくない。
走ればいいじゃんとしか思えない。
様子がおかしいのに気がついたか、バッターがこちらに向かって何かを言っているから、読唇術で読み取ると「大丈夫?疲れてない?」と言っているようなので、「ううん、大丈夫」と返してみた。
「大丈夫じゃなくない?」と言うから結構いい人なんだなと思って、「ちょっとしんどい」と漏らしたら「あとでご飯行く?話聞くよ?」って言ってくれた。
「ありがと。ゲームセットしたらすぐ帰んなきゃだし、また今度ね」
「そっか。あとで電話番号教えて」
「ありがとう。電話するね」
あのときのフォークボールはキャッチャーミットに収まった後にも回転し続けたほどで、1塁走者もポカンとしていた。
審判は一瞬「え?」みたいな顔をしたけど、ストライクって言ってくれたから嬉しかった。
9回裏、最後の夏。