障害と人と目的と手段
Aさん「田辺くん、その方は本当に歩く必要があるのかい?」
先輩理学療法士のAさんは症例発表会中のようちゃんにむかってそういった。
症例発表会とは、月に一度、当番のスタッフが困っていることなどを症例としてみんなの前で発表し、みんなで色々検討するものである。
発表は緊張するが他のみんなの意見を聞く貴重な機会である。
そしてそのときにAさんから言われてようちゃんは混乱した。
どうしても若手の理学療法士の方は歩かせたいという気持ちが強く、また、患者さん自身もそれを望んでいることが多いのだ。ようちゃんも、この方はぜひ歩かせたいという気持ちが強かった。
Aさんは続けてこういった。
Aさん「その方のやりたいことは何だい?歩くことが最終目的かい?それとも歩いてなにかしたいのかな。」
もっともな意見である。今まで歩けていた方が歩けなくなった場合、ようちゃんは頑張って歩かせようとしていた。もちろんそれが必要な場合があるのだが、それに固執してしまうと前に進めなくなってしまうのだ。
Aさん「田辺君はその患者さん本人を見ているかい?その人がどんな性格で、どんなことをしたいか、どうなりたいかを知っているかな。それを参考にしてリハビリを組み立ててみればいいんじゃないかな。」
Aさんはにこやかに言いながら、前に出てきた。
Aさん「今からたとえ話をしよう。
全盲の田辺くん
田辺くんは全盲です
これらの二つの意味。ちがいはわかるかな?
揚げ足をとるようで悪いけど、この言葉は同じ意味のようで全く違う意味を持つんだ。もちろん、もとからそのような考え方をしている方は別だけどね。
どういうことかというと、
当たり前だけどまずは田辺くんという人がいる。
そこから初めて田辺くんは全盲だ。という言葉が来るよね。そうなんだよ。当たり前の話だけど「全盲」という人はいないはずなのに、どうしても多くの人は「全盲」の方を見たがる。
そりゃそうだ。見えている人から見ると見えていないことはすごく大きなことであると思っちゃうよね。そのため、
田辺くんは全盲で困っていないとは考えない(笑)
どうだい、少し考え方が変わったかな?」
ようちゃんは少し納得がいかないような、なんか丸め込まれたような感じになったのを覚えています(笑)
しかし、視覚障害のことをしゃべる講師もどきになってからAさんの言葉を思い出すことが多くなりました。
リハビリでも、支援でもそうなのですが、
「やりたいことと意識合わせ。目的を持って行動をする」
「その方を見てから、障害の方を見る」
「Aのやり方がダメならBのやり方を試せばいい」
など、しっかりと利用者さんのお話を聞いて希望を聞き出したうえで、一緒に検討していくというやり方の基礎をAさんから習いました。
このようなことを常に意識しながらようちゃんはリハビリなどを頑張っていきたいと考えております。