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【連載小説】#07 売上げが高まる効果的な広告「レスポンス広告」は、どのように誕生したか。

商品には、なぜ、売れる物と売れない物があるのか?

ふつうに考えれば、商品の良し悪しで決まるのだろう。

しかし、他の広告会社では売れなかった商品を大久保部長たちはたくさん売ってきた。

どうしてなのか?

次に考えられるのは、どの媒体(雑誌、新聞など)に掲載するかだろう。 
同じ商品力なら、販売部数10万部の雑誌より、30万部の雑誌に掲載した方が売れるに決まっている。発行部数が3倍違えば、読者も3倍多くなるのだ。

そして、我々の仕事である広告クリエイティブ。
私はこの会社に入って、広告クリエイティブでどれだけ売上げが変わってしまうのかを、まざまざと見せつけられて来た。

そうだ。
この3点が重要なのは間違いない。
しかし、他にも重要な要素はあるだろうか?
私はある日、大久保部長に質問した。

「部長、商品が売れるためには、商品力と広告クリエイティブと媒体力が重要ですよね?」

「うん、そうだ」

「もし、この3つに順位をつけるとしたら、第一に商品力、第二に広告クリエイティブ力、第三に媒体力、ということでよろしいでしょうか?」

「それは少し違うな」

「と言いますと…」

「我々は広告クリエイターだ。これまでにいくつもの商品を売って来たんだから、自信もある。しかし、我々がどんなにがんばっても、媒体力が弱い時は大きな効果を生み出すことはできないんだ」

大久保部長は続けた。

「効果の高い広告クリエイティブを10万部の雑誌に掲載した場合と、あまり高くない広告クリエイティブを50万部の雑誌に掲載した場合では、前者が後者に勝つということはない。それだけ、媒体力というものは販売に大きな影響を与えものなんだよ」

「なるほど! そうしますと、売れない原因はまず媒体を考えるべきですね?」

「もちろんそうだが、君が担当している美容サプリは、レスポンスのいい媒体は全て掲載してしまっているぞ」

確かにそうだった。
美容サプリのレスポンスが高いと言われている雑誌はほぼ掲載している。

では、どうすればいいのかー。

いや、待てよ。
キャッチコピーがお店の入口だとすると、その前を通っている人たちをどれだけ多く取り込めるかで、売上げは変わる。このポイントはまさに広告クリエイティブの中の媒体力の話じゃないか!

そうだ!
キャッチコピーには、もっとメリットを追加するべきだ!
ここを修正できれば何か変わるかもしれない‼︎

『ミラクル美肌』なら、
小ジワの悩みを2カ月で解消‼︎

このキャッチをこう変えた。
いや、新たなコピーを付け加えた。

『ミラクル美肌』なら、
小ジワの悩みを2カ月で解消。
さらに、シミ、そばかすにも効果が‼︎

そして、まさか、が起こった。

掲載して数日後、1千箱にまで落ち込んでいたレスポンスが、いきなり2千箱に復活したのだ。

こんなことがあるのかー。
わずか、これだけの修正で⁉︎

この時、新たな発見もあった。


消費者は広告など、よくは見ないのだ。
見てもらえるのは、メインの写真やキャッチコピーくらいだ。
そう、キャッチコピーは何とか見てもらえるのだから、この部分にもっと力を入れるべきなのだ。

つまり、キャッチコピーはキャッチコピーだけという考えではなく、キャッチコピーとその周りのサブキャッチを1セットとして考えるべきなのだ。

そうすることで、特長Aが欲しい人だけじゃなく、特長Bが欲しい人も、Cが欲しい人も取り込むことができる。レスポンス広告には、この考え方がとても重要なことがわかった。


ミラクル小ジワは、相変わらず売れ続けていた。
月に3千箱を突破することも多くなった。
クライアントも見事なV字回復に機嫌を直したようだった。


しばらく平穏な日が続いていた。
私は家に帰った。

家に帰ると、彼女の千里が料理を作って待っていてくれた。

「おかえりなさーい!」

甲高い声で迎えてくれた。

「仕事はどう? 相変わらず大変なの?」

「うん。でも、この仕事にもようやく慣れて来たよ」

「そうか、それなら夏休みも取れるかな?」

「そうだね。修行の身だから、たくさんは取れないと思うけど、部長に言ってみるよ」

「私、海に行きたい。 せっかくの夏だし、近頃どこにも行ってないしね」

「うん、わかった。海に行こう!」

先輩たちが夏休みを取り終えた8月の末に、伊豆へ旅行に行った。千里と初めての旅行だった。

海はきれいで、この時期でもクラゲは出ていなかった。

私が先頭で泳げばかっこいいのだが、子供の頃から水泳を習っていた千里の後を平泳ぎで追った。

アジだろうか。魚群も見える。
千里は時折後ろを振り返り、笑顔で泳いでいた。

夕食は部屋食だった。
安い宿なのに、木の船に乗ってたくさんの刺身が出て来た。

「美味しいね」

千里は微笑んだ。

「そうだね。すごい量だね」

と私。

その晩、千里は何かを言いたそうだった。

私には、もちろん察しがついた。

結婚ー。

お互いもう28歳になる。

女性はもう完全な結婚適齢期だ。

しかし、修行の身であり、貯金もない私には、結婚はまだ遠いことのように思えていた。

それを感じ取っていた千里は、そのことを口にすることはなかった。

翌日の帰り道は夜になった。
千里の小さなクルマで峠を下っていると、偶然にも少し先のビーチに上がった花火が見えた。

僕たちはクルマを止めて、小さくは見えるが、とても美しく華やかな夜空を見つめていた。

暑い夜が続き、なかなか秋が来ない、そんな年の夏だった。

つづく

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