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【連載小説】#08 売上げが高まる効果的な広告「レスポンス広告」は、どのように誕生したか。

「大久保部長、この仕事にコピーライターとして、阪尾君を入れたいのですが」

部長室から、営業の山崎さんの声が聞こえて来る。

「だめだ。阪尾は今たくさんの仕事を抱えている。その仕事なら、外部の制作会社を使った方がいい」

「いえ、今回のクライアントは外資の有名企業ですが、通販をやりたいそうなんです」

「通販かー」。

そう言うと、大久保部長は少しの間、考えているようだった。

「まあ、それなら一度、阪尾君を打ち合わせに連れて行ってもいいだろう」

大久保部長は部長室に私を呼ぶと、冷静に言った。

「阪尾君、もし、ウチの広告では効果が出ないと思ったら、すぐに伝えろ。いいね?」

「分かりました」

数日後、私は、山崎さんと横浜にある外資系メーカーに赴いた。

名刺交換の後、担当の方がすぐにオリエンを始めた。

「今回私どもが販売したいのは、ハンドブレンダーというものです。特長は、簡単に肉や野菜を刻んだり、混ぜたり、泡立てたりすることができます」

山崎さんが質問した。

「他社ででも同じような商品は販売されているのでしょうか?」

「いえ、ハンドブレンダーは日本初上陸となります。全くの新製品ですので、インパクトは大きいと思いますよ」

「それは期待できますね。媒体もターゲットにマッチしたものがあります。来週にでも、売れそうな雑誌をいくつかお持ちしますね」

会社への帰り道、山崎さんは嬉しそうにしていた。

「山崎さん、何だか嬉しそうですね」

「そりゃそうだよ。あんな有名な会社の新製品だよ。きっと売れるよ」

この会社に入って、一つ気づいていたことがあった。
それは、通販広告に詳しくない人もいることだ。
この広告代理店のせっかくの特長の一つなのだから学べばいいのになとペーペーの立場から思っていたが、先輩たちの気持ちも分かる。
やはり、泥臭い広告ばかりの仕事をしたくはないんだろう。以前の私のような気持ちなのだ。

山崎さんの楽観的な言葉に、私は答えなかった。
有名企業だと商品は売れるのだろうか?
新製品だと売りやすいのだろうか?
経験の少ない私には、売れる道筋が見えなかった。

会社に帰ると、大久保部長のいる部長室に報告へ行った。

「只今戻りました」

「どうだった? ウチの広告で効果は出そうか?」

「はい、正直全くわかりません」

「どんな商品だ?」

「ハンドブレンダーと言って、まあ手に持つミキサーというような商品です」

「手に持つミキサー?」

「ピントとこないな」

「はい、日本初上陸の商品とのことでした」

「そうか。阪尾君、今回は提案が難しいぞ。大手有名企業は、泥臭い広告は嫌がるからな」

「はい。悩みますね」

1週間後、山崎さんが、制作部に来た。

「阪尾君、どう? いい案で出てるかな?」

「はい、まずウチが得意とする泥臭いレスポンス広告を作りました」

「そうか。でも、これだとクライアントが納得するかな…」

「ですよね。なので、対策として、イメージ広告も作りました」

「おおっ! これならクライアントも喜ぶんじゃないかな」

「でも、これでは恐らく売れないと思います。キレイなイメージ広告では、通販だと売れないんですよね」

「あっ、そうなの⁉︎ でも、クライアントは絶対こっちを選ぶと思うよ」

「なので、どういう方向に話を持って行くか、悩んでいます」

「そうか。それならクライアントに決めてもらおう」

「いや、それはまずいと思いますよ。結局はどれだけ売れたかが問題になると思いますので…」

数日後、山崎さんと私は横浜にいた。

「いいじゃないですか! この広告なら、うちの企業イメージにもぴったりだし、上司も納得すると思います」

「そうですか! そう言ってもらえて嬉しいです」

山崎さんは甲高い声で喜んだ。

「あれ、阪尾さんはあまり嬉しそうじゃないですね」

担当の方が私を見て、つぶやいた。

「はい…。少し説明させてください。通販広告で重要なのは何と言っても情報量なんです。ですので、今回の広告ももっと文字量を増やした方がいいのではないかと思っているんです」

「こっちの泥臭い広告かな?」

「はい、そうです」

「うーん、これだと上司のOKをもらいにくいな。いや、たぶんもらえないな」

「情報量が多くないと、よっぽど知られている商品じゃない限り、消費者は購入していいかの判断がつきません。このことについて、上司の方と話し合ってもらえないでしょうか?」

私は生意気にもしつこくお願いして、横浜を後にした。

3日後、クライアントから山崎さんへ連絡が来た。

イメージ広告が採用されることとなった。



その日は朝から小雨が降っていた。
山崎さんと私は、午前中に横浜へ向かっていた。

山崎さんも私もドキドキしていた。

何個売れただろうか?

山崎さんと私の頭の中を支配していたのは、それだけだった。

「朝からお越し頂き、すみません。掲載から、1週間が経ちました」

「はい」ー。

私たちは固唾を飲んだ。

「レスポンスですが、

まだ、一件も受注していません」

えっ⁉︎ 一件も?

ウソだろう?

そんなことがあるのだろうかー

山崎さんは、何とか声を絞り出した。

「問い合わせは何件くらい来ましたか?」

「3件です」

明らかに担当者の声も沈んでいた。

0件ー。

初めて経験する衝撃の数字。

山崎さんは、鞄に隠していた新たな媒体提案資料を出すことができなかった。

重苦しい時間だけが過ぎ、レスポンス結果の会議が終わった。

つづく

< 7話 | 

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