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【連載小説】#06 売上げが高まる効果的な広告「レスポンス広告」は、どのように誕生したか。

脚スリムの広告出稿は初めてとなるため、池川社長はリスクを回避した。
どういうことかと言うと、本来ならしっかりと撮影を行うべきだが、撮影料は高額だ。カメラマン、スタジオ、モデル、ヘアメイクなど、多額の費用を要する。
そのため、メーカーから支給されている写真を使って、初回の広告は作ることになった。

「日村さん、こんな感じでどうでしょう?」

私はすぐにサムネイルを提出した。

「うん、いいね。できれば、あと2種類くらい出せるかな?」

「わかりました。ではもう少し時間をください」

「オッケー。今週中くらいでいいからね」

オリエンから2週間後、池川社長の会社へ出向き、プレゼンテーションを行なった。

「本日はお時間を頂きましてありがとうございます。今回は3種類の原稿を考えて来ました。コンセプトを一通り説明させて頂ければと思います」

日村さんは、どんな意味合いがあり3種類の原稿ができたかを説明した。
その後、詳しい説明は私がすることとなった。

「まずA案のキャッチコピーですが…」

池川社長とスタッフの方々からは、上々の評価を得た。あとは少しの手直しをして完成させるだけだ。
掲載は、来月中旬。
どうなるか。
レスポンスが取れるといいけれど…
いつもの不安が私を覆っていた。

「阪尾ちゃん、池川社長からさっき電話が来た! おい、爆発だよ!って言うから、すげぇ怒ってるのかと思ったら、初日からめっちゃレスポンスが来たらしい」

「マジっすか⁉︎ やりましたね‼︎」

数日後、池川社長に呼ばれて、日村さんと私はホテルのロビーに居た。

長い廊下の奥から池川社長とスタッフの方が向かってくるのが見える。
社長は私たちを見つけるなり、手を振って笑顔になった。

「日村君、阪尾君、よくやってくれた! すごい売れてるよ。これも2人のおかげだ、ありがとう」

「いえ、商品が素晴らしいんです。私たちの広告なんて大したことありません。池川社長、本当に良い商品ができましたね! おめでとうございます」

日村さんが商品を褒めると、社長は嬉しそうに言った。

「今日は私の行きつけの日本料理店に行こう。新しく掲載する媒体の話も聞きたいからね。宜しく頼むよ」

その夜、私たちはいくつもの広告媒体を提案し、新たな売上げを獲得することができた。



「阪尾君、君は何をやったんだ!」

会社へ帰って来るなり、大久保部長は私を怒鳴りつけた。
理由はクライアントにこっ酷く怒られたからだった。

「レスポンスがずっと落ち続けているらしいじゃないか!」

「はい…」

「どうして落ち続けているんだ⁉︎ あんなにレスポンスが取れていたのに!」

「はい…」

「はいじゃない! 理由を説明しろと言ってるんだ‼︎」

部長の剣幕は収まらない。
私も何とかしようと原稿の微修正を行なっていたのだが、レスポンスの落ち込みは防げなかった。

毎月3千箱以上、約2年間も売れていた美容サプリが、私が担当になって半年ほどで1千箱にまで落ち込んでいた。

私が担当になった時から下降状態だったが、ここに来て落ち込みはさらに酷くなっていた。

実証パーツには、体重が落ちて行くグラフを追加した。
信頼パーツの医学博士の写真とコメントも変えた。
もちろんユーザーボイスは、消費者に飽きられないように、いつも変えている。

ただ、キャッチコピーだけは変えていなかった。
それはここまで当たって来たキャッチコピーは変えるなという大久保部長からの指示があったからだ。

広告のキャッチコピーというものは、お店にとっての看板や入口、つまり店構えということになる。

仮に新しいラーメン店を作ったとしよう。
ラーメンの味は美味しいのに、おしゃれなお店にしようと思い立ち、ラーメン店かどうか分からないような店構えにしてしまったら、ラーメンを食べたい人をたくさん獲得することはできない。

大久保部長も過去にキャッチコピーを変えてしまい、大変なことになったことがあると話していた。

私は追い詰められていた。
どうしていいのか、全くわからなかった。

後日、その美容サプリの会社に私と営業の先輩で伺った。
そして、あの事件が起こった。

「君の言っていることはよく分からないな」

「はい、ですから、やれるだけの修正は加えておりまして。やはりここはもう一度撮影をした方がいいのではないかと思っています」

「レスポンスが落ちて来たらすぐに撮影するのか? 費用もかかるし、何より時間がないんだよ。モデルの選別、ユーザーモデルへのお願い。どれだけ手間がかかると思っているんだ!」

私の説明はクライアントの怒りにさらに火をつけてしまった。

「全部、君のせいなんだぞ‼︎」

いや、そんなことはないだろう…という思いをグッと腹に収めた。

「どう責任を取るんだ‼︎」

「はい…。すみませんでした…」

私は場の空気を読んだ。

そして、土下座した。

「そこまでしなくてもいいんだよ」

とは、クライアントは言わなかった。

当たり前だ、という視線で私を見ていた。

不思議だが、土下座をしながらも、私にはなぜか怒りの気持ちなどは湧いてこなかった。

それよりも、商品がなぜ売れないのか、なぜ売れるのかを説明できないレベルの自分が情けなかった。 

つづく

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