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【連載小説】#04 売上げが高まる効果的な広告「レスポンス広告」は、どのように誕生したか。

しばらく私の実力を見極めていた大久保部長が、私を部長室に呼んだ。

「阪尾君、今のままじゃダメだ。もう一度、一から広告作りを学ばないといけない。根性だけはあるようだから、俺が鍛えてやる」

その日から、私の修行が始まった。
この修行はこの後約3年間続くことになる。

「部長、キャッチコピーを書いてみました。どうでしょうか?」

「阪尾君、キャッチコピーだけ書いてどうするの? あのね、商品はさ、キャッチコピーだけで売れるんじゃないんだよ。まずはサムネイルを書きなさい」

サムネイルとは、広告の縮小版のことだ。まずは本物の広告を作る前に、手書きでこのサムネイルを作るのが、この会社のやり方だ。

「部長、できました」

「阪尾君ね、もっと具体的に書けないかな? 例えばこの部分には何が入るの? サムネイルとは言ってもね、頭の中ではほぼ完全形を描かないといけないよ」

「完全形か…。そうだな、このユーザーが入る部分にはどんなユーザーを入れようか」

具体的に考えて行くと、ユーザーボイスも同じような内容の話ではいけないことに気付く。
1人目の方は特長Aについて話しているのだから、2人目の方は特長BやCを話している方でないといけない。

こんな風に考えて行くと、小見出しにはどんなコピーが最適かが分かってくる。そして、全体像が見えて来るようになるのだ。

「阪尾君、なかなか良くなってきたな。この間の雑誌広告の結果はどうだった?」

「はい。30個売れました」

「30個か…。いったいどんなキャッチコピーを書いたんだ?」

「はい。
あなたのダイエットサプリには、◯◯が入っていますか?
というキャッチにしました」

「阪尾君ね、何度も言っただろう。キャッチにはベネフィットがないとダメなんだよ。そんなんで売れるわけないだろう」

私が苦しんで来た広告作りのポイントに、キャッチコピーの質の問題がある。通販広告のキャッチがどうしても受け入れられないのだ。
それは、コピーライターの学校で教わっていたものとは遠くかけ離れたものだったからでもある。

「部長、キャッチはもう少しおしゃれにしないといけないんじゃないですかね」

「おしゃれ?」

「そうです。何というか、もっと賞が取れるようなカッコイイものというか…」

「阪尾君、おしゃれなキャッチコピーにしたら、商品が売れるのか?」

「いえ、それはわかりませんが」

「馬鹿もん! クライアントあっての広告なんだぞ! 商品が売れなければ売れないほど、クライアントはダメージを負うんだ。おしゃれとか、制作者のエゴでクライアントに迷惑をかけるんじゃない‼︎」

大久保部長は烈火の如く怒った。

広告はクライアントのものー。
そんな当たり前のことを私はおざなりにしていた。

おしゃれなキャッチコピーを書いて賞を取る。
いつか雑誌や新聞などに取り上げられて、先生なんて言われる存在になりたい。
そんなことを考えていた。

しかし、自分のやっていることがいかにクライアントを無視したものなのか。
私はとんでもないことをやっていたのだ。

「日村さん、このキャッチ、どう思いますか?」

「そうだな、ストレートでわかりやすいんじゃない」

トウガラシ成分で痩せるというサプリメントのキャッチコピーを書いていた。

トウガラシダイエットなら、2カ月で7kgダウン!

「なかなか良くなったな。よし、これで行こう」

いつもは褒めない大久保部長がほめた。

2ページの雑誌広告。
結果は500個を売り上げた。
ほんの少しだが、クライアントに貢献した。

「やはり、広告はキャッチコピーで決まるんすかね?」

忙しそうにしている日村さんのデスクの横に行って聞いてみた。

「まあなぁ。重要であることは間違いないよね。ただ、キャッチだけではないんだよなぁ」

日村さんは続けた。

「レスポンス広告にとって大事なのは、目立つことなのよ。雑誌広告でも新聞広告でも、たくさんの広告が入っているだろ。埋没して、見てもらえなかったら意味ないんだよね。だからこそ、まずキャッチコピーは目立たなくてはいけないし、読んですぐ理解できるものが望ましいのよ」

目立つこと。
レスポンス広告が泥臭くなるのは、そうしなければならない理由があってのことなのだ。
確かにそうだ。見てもらえない広告など、何の意味があるだろうか。何の働きもない、単なる絵じゃないか。

私は徐々にだがレスポンス広告のことがわかるようになって来ていた。

目の前のモヤが少しずつ消えて行くような気がした。

「ぼちぼちだな」

「ただ、君の広告はまだまだ薄いんだなぁ。コンテンツ不足というか」

「コンテンツが不足していますか?」

「まずは、広告に入れるべきコンテンツを全部洗い出してみなよ。そのコンテンツをどのように入れるかを考えないとダメだよ」

今日も大久保部長からのダメ出しは続く。

コンテンツか…
そうだな、ダイエットサプリなら、まずは医学博士だな。看護婦さんも必要か。
ユーザーボイスも必要だ。他には…グラフもあるといいな。作っている工場の写真もあったな。
あとは、特長を表す3大ポイント。それに、こんな方にオススメ。成分表や成分特長を表現するマークとかも入れるといいかな。
あまり有名じゃないけど、契約しているタレントの写真も使えたな。
他には…

こんな風にさまざまコンテンツを出してみた。
そして、コンテンツぎっしりの広告を作ってみた。

部長からのGOサインが出た。

1カ月後、結果が出た。

800個売れた。


つづく

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