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【#読物語:マンガ】「天地明察」(原作:冲方丁、画:槇えびし)

「冬の夜にしみる『天地明察』」(2024-01-11 山形新聞)


 テレビの時代劇と同じように、昔の時代を舞台にした物語のマンガ版は、当時の光景や人物をありありと映し出してくれる。
 時代小説の名作「天地明察」も、巧みな画力でマンガ化されている。江戸時代前期に生きた天文学者《渋川春海(はるみ)》の生涯を描いた物語だ。

 主人公は初め、改名前の《安井算哲》として登場する。彼は、若き囲碁の英才として幕府の高い地位を得るが、碁を打つだけの日々に疑問を深める。そんな折、副業として究めていた天文学・算術(数学)の資質を幕府重臣に見出され、全国測量隊入りを命じられる。

 囲碁の戦友とも、算術が縁となった乙女とも別れて歩んだ、長い長い測量の旅。初め自らの算術の至らなさに打ちひしがれていた彼は、同僚の天文学者との旅の過程で自信を取り戻し、真の志を見出す。それは、天文学と算術によって月日の巡りを明察し、時代遅れとなった暦を最新鋭に改めて、百姓をはじめ国中の人々の公益に資することだった。

 各場面ごと、若々しく時に感情が揺れ動く算哲をはじめとする登場人物が表情豊かに描かれる。厳格でいかめしい幕臣たちと、自らの学問にロマンを抱く悠々とした学者たちとの対比も鮮やか。当時の最先端の算術問題や天体観測のレベルにも目を奪われる。

 その後、彼の志、そして友情、愛は、なかなか叶えられるものではなかった。算哲改め渋川春海が生涯かけてたどり着いた境地とは――。冬の夜にしみる人生ドラマだ。


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