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若年層への資産移転強化は本質的でない。

将来不安の払拭が先では?

 2024年の税制改正案でNISA拡充が盛り上がる中、相続税の精算課税制度についても見直す方針で、期間が3年から7年になることで、若年層への資産移転を早期化させたい狙いがある。

 精算課税制度に関して、弁護士などの士業を目指すような高学歴エリートでもなければ、FPで学ばない限り触れることはない論点と思われる。実際に私がそうだった。

 ざっくり言えば、相続人が過去3年間に渡って行っていた贈与に関しては、相続時に相続税の計算対象となる仕組みで、死に際に焦って贈与しても意味がないから、贈与したいなら前もってやって、若年層に資産移転してくれ的な制度で、この期間が3年から7年に拡大する。

 当たり前だが、人は必ず死ぬが、いつ死ぬかは直前まで分からないか、本人が知らぬまま亡くなる可能性すらあり得るため、資産ゼロで死ぬことが最もコスパの良い生き方とされているが、基本的にはそんな生き方は不可能である。

 現実的には心配性な人であれば多大な資産を遺すし、宵越しの銭を持たない精神の人は老後破産して借金まみれで最期を迎える。

 国の年金制度が疑問視され、老後2,000万円不足問題が物議を醸した経過からも、自力でどうにかしなければならないと思えば思うほど、資産家でもない限り将来不安から、子や孫に贈与しようと思わなくなる可能性すらある。

 だからこそ、税制改正で死に際の贈与を相続扱いとする範囲を拡大して、若年層への資産移転を促すのではなく、将来不安を払拭させるだけの社会保障制度に作り直すことの方が重要に思えて仕方がない。

授人以魚 不如授人以漁。

 それに、資産移転を強化したところで、日本経済が活性化するとは思えない。普段はシルバーデモクラシーなどと嫌老振り遺憾無く発揮している私だが、これに関しても高齢者擁護のつもりはなく、資産移転で若年層が本当に助かるとは思っていないからこそ、日本経済にとってマイナス面が大きいと判断している。

 確かに現代の若年層はお金がないから経済消費に結びつかない。早い段階で贈与によって資産移転を行えば、短期的に見れば家電エコポイント政策のように、一時的に需要が喚起されて日本経済が良くなったかのように見える現象は起きるかもしれない。

 しかし、エコポイントの愚策によって、日本のエレキメーカーが胡座をかいているうちに、海外メーカーは世界を相手に切磋琢磨していたことから、日本のエレキは国際競争力を失い没落。

 東芝は粉飾。シャープは経営危機から鴻海傘下に。ソニーの主力事業はエンタメや金融で、ウォークマンなどで一世を風靡したエレキの面影は殆ど残っていない。

 特にソニーはiTunesを構築できるだけの経営資源(情報端末・音楽事業・ネットワークシステム)を、Appleが参入するよりも前から揃っていた筈なのに、iTunesのようなプラットフォームは作れず、反対に音楽事業に縁のないAppleが新規参入してプラットフォーマーとしての地位を確立したのだから、宝の持ち腐れ感が半端ない。

 要するに、お腹が減っている人に、魚を与えたら食べてしまえばそれで終わりだが、魚の釣り方を教えてあげれば、その人はお腹が減ったらいつでも魚を釣ってお腹を満たすことができる。「授人以魚 不如授人以漁」老子の格言である。

行き着く先は金融リテラシー。

 つまり、現代日本の若年層は貧乏であるが、資産移転を強化したところで、一時的な短期目線では助かる側面はあるかもしれないが、若年層が貧乏になる構図が根本的に解決している訳ではないため、移転した資産がなくなればそれまでとなる。

 恒常的な長期目線では、若年層が子供を2人以上産んで、独り立ちするまでの20年前後、育て続けることができるだけの経済力を持たせることが重要であり、金融リテラシーの向上はその一角となるだろう。

 仮に資産移転で1,000万円の贈与を受けたら、その場では子どもを作るかも知れないが、子ども一人を養育するには20年前後の時間と、2,000万円以上の金銭が必要とされている。

 金融リテラシーのない宝くじの高額当選者の多くが不幸な結末を迎えるように、お金があるからと無計画に子作りを行えば、子供が成長途中の段階で資産が底をつき、極貧状態で育てざるを得ない状況に陥るかも知れない。

 ネグレクトや家庭崩壊の可能性が上がるのは元より、大学に行くなら貸与型奨学金を借りる必要に迫られ、進学を諦めて不安定なブルーカラーに従事するか、ホワイトカラー目指して借金を背負ってでも社会に出て、返済が終わり家庭を持つことを考える頃には、女性なら出産のタイムリミットが迫る時期となる。

 高学歴エリートほど晩婚化で子供に恵まれず、本能に赴くまま後先考えずできちゃった原生人類ほど、子沢山だが十分な教育は受けられず貧困が連鎖して、日本経済が時間経過とともにシュリンクしていく。

 お金や時間がある状態と、そうでない状態とでは、状況判断を見誤る可能性が変わってくるのは当然のことで、今の若年層の多くが後者だから、ブラック企業に使い潰されていても、借金があるため辞められず心身を壊したり、パートナー選びを妥協して3組に1組が離婚している。

 これらの問題を根本的に解決するには、資産移転なんて付け焼き刃的手法ではなく、金融を含めた質の高い教育費用全般の低廉化や、雇用が不安定にならざるを得ないなら、低賃金や失業のリスクを一手に背負い、社会を支えているエッセンシャルワーカーには、そのリスクに見合うだけの賃金を与えて割りを食わないようにして、低賃金と雇用不安を両立させない他、行政側でベーシックインカムのようなセーフティーネットを完備する代わりに、現法では雇用契約が切れないぶら下がり社員を、法改正で一掃するなりして雇用の流動性を活性化させるような、ドラスティックな改革が必要だろう。

 所得を得る手法も、何も賃金労働だけでなく、個人事業や独立・起業、資産運用なども視野に入れた金融や経済の教育を学校が行うことで、「働かざる者食うべからず」「無職=無収入」的な価値観や、自分の代わりに働いて貰ってお金を得ることが卑しいという先入観を、いかに取り除いてどのような個々人でも、独立した経済活動が営める仕組みを構築することが、魚の釣り方を教えるのではないだろうか。


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