早期リタイア前に訪れる不安の正体。
金融資産の多寡では不安は消えない。
昨今のFIREムーブメントに伴い、経済的な独立を目指す人をSNS界隈で見かけるようになった。明確なターニングポイントは憶測の域を出ないものの、疫病によって人生を見つめ直す時間を強制的に捻出できた人が多かったことや、会社員FIREの先駆者とも言える、穂高 唯希さんのブログ「三菱サラリーマンが株式投資でセミリタイア目指してみた」の内容が書籍化された辺りから大衆に認知され、ムーブメントが加速した気はする。
私は2017年頃に経済的独立(FIRE)の概念を知り衝撃を受け、穂高さんのブログなども見ながら資産運用を初めるに至った。経済的に独立して、働かない自由を得る日を夢見て、質素倹約な生活に慎み、資産形成に励んでいる方も多いと思う。
資産形成期はそれで良いが、いざ目標額に達すると、安心するためにもう少し貯めるべきか悩みだすのはほとんどの方が通る道だと推察している。理論上は大丈夫でも、やってみないと分からないことから湧き出る不安が付き纏うからだ。
以前にも、お金に対する不安は無知から来るものであると記しているが、周囲に早期リタイアした先人も居なければ、自身にリタイアした経験があるわけでもない。不安になるのは当然である。
しかし、金融資産を余分に蓄えたところで、その不安は解消されない。そうして、いつまでも安心できずに余分に蓄え続けるうちに、多くの人は寿命を迎える。これでは、何のために質素倹約な生活をしていたのか、考えただけでも虚しくなる。
知ることで不安が解消する。
だからこそ、貪欲に学び続けることによって、自分に適切なポートフォリオ、リスク管理、運用手法などを、正確に把握・実行できるように成長すればそれが自信に繋がり、早期リタイアに踏み出す勇気が湧いてくることだろう。
2017年にFIREを知ってから足掛け6年。運用しながら独学で身につけた金融や経済の知識では限界を感じ、疫病を機に大学通信で体系的に学び始め、工業学科出身者が日商簿記2級を取得。現在はFP2級を受験するためのAFP認定研修を受講している最中である。
学び続けていれば、徐々にではあるが価値観が変わり、自分にとって大事なものは何かが可視化され、迷いなく早期リタイアに踏み切れることだろう。
不安の根底は選択肢がない閉塞感。
実際に経済的独立が現実味を帯びてきた時の私も、隠れたリスクを見落としていないだろうかと疑心暗鬼になる自分と、理論上は大丈夫なんだから、実証してみないことには始まらないと、好奇心旺盛な自分がせめぎ合っていた。
しかし、これまで1日でも早く経済的に独立するために、ストイックなほど質素倹約な生活に努めていた矢先に大病を患い、入院と手術を経験したことがきっかけで、例え若くても人生があっけなく終わる可能性が潜んでいることを痛感し、価値観が今に焦点を当てるように変わった。
都内在住の生活水準で経済的に独立するには数十万円、目標資産額までは数百万円単位で不足している。これくらい、本業である電車の運転を嫌々行っていれば経済的独立には1年、目標資産額には30歳で到達する。
人生100年時代と言われ、定年退職が65歳では済まない将来が目に見えているZ世代の30歳であれば十分、早期リタイアと言えるだろう。
それでも、現職の不規則な生活で寿命を縮めて自由の身になったところで、身体が不自由なら喜びは半減している。現に内蔵を摘出して、イエローカードが1枚切られた状態に等しい。あと数年我慢したことにより、2枚目のカードが切られ、人生のレッドカードが切られて、長い闘病生活なんて結末を迎えては、何のためにストイックに蓄財していたのか分からない。
入院中、ベットの上で不安の正体は、他に選択肢がないことによる閉塞感から来るものだと確信した。
ブラック企業に勤める社畜は、他に働くアテがないから不安になり、心身を壊すまで言われるがまま働いてしまう。雇ってくれる企業なんて、仕事を選ばなければいくらでもあるだろうし、仮になければ生活保護を受給すれば良い。
早期リタイアを行えば、キャリアに空白が生じる。それは社会の枠組みから外されるに等しく、正規雇用で雇ってくれる真っ当な企業がなくなることを連想し、もし資産が枯渇した時に生活資金を稼ぐ手段がなくなるから不安になる。賃金が得られなくなるのなら、金融資産以外でインカムを確保すれば良いし、最悪は今までの資産を使い切って、生活保護を受給すれば餓死することはない。
以前の私は早期リタイア後に、余裕資金が少なくて選択肢が狭まることが嫌(不安)で、30歳までは我慢して蓄財しようと覚悟を決めていた。
しかし、入院手術によって、身を削ってストイックに賃金を得ることよりも、これ以上替えのきかない身体を壊して、物理的に不自由な身になることに感じる不安の方が、比重が大きくなっており、地方移住によって住居費などの固定費を削減することを条件に、経済的に独立することで、社畜デットラインを30歳から来春と前倒した。
今は移住候補地選定の物件探しから、引っ越しのための不用品の整理に始まり、東京に居るうちに巡っておくべき場所やイベントに積極的に足を運び、今を楽しんで生きるようにしている。