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ReproのCSが直面した組織課題、困難。エンプロイーオンボーディングに取り組むまで

SaaSスタートアップのイシューは組織

Reproは2018年11月で150人規模の会社になりました。またカスタマーサクセスチームも間もなく20名規模に到達する一大組織になります。

毎年倍々のスピードで急成長を遂げるSaaSスタートアップでは成長痛(それも、組織崩壊を幾度となく耐え忍ぶ痛み)に耐え、組織を変革し続けなければなりません。SaaSというビジネスモデル上、各チームがシームレスに連携し「全社で」顧客の成功を目指す状態を作り上げる必要があります。そのため、実はSaaSスタートアップでは組織作りこそが中長期的イシューになると確信しています。

全部で4回。組織をテーマに連載

ReproのCSチームも決して順風満帆に来たわけではありません。無数の困難に見舞われました。今回はReproのCSチームがどのような困難に直面し、いかにして解決を図ってきたのかを振り返りたいと思います。

また全部で4回に分けて、「組織」をテーマに数週間に渡り投稿していきます。初回はエンプロイーオンボーディングをテーマに書きました。

マネージャー不在の組織

2016年秋冬、Reproはカスタマーサクセスチームを立ち上げ、サービス全体としてのPMFを達成しました。2017年から一気に顧客数を伸ばし、毎日のように新規契約頂けるようなスケール期に突入しました。しかし、当時のCSチームはCEOをはじめとした経営陣とインターン生で構成されたマネージャー不在のチーム。

深夜に会食から帰社した経営陣と共に、会社に泊まり込みで徹底レビュー。クライアントの成功のため、価値を生む提案にする為に、全員で議論しあい、考え抜き、毎日が、生きるか死ぬかの戦い。

しかし、程なくして、臨界点を越えました。

Repro CEO 平田:
ついこの前まで、僕の下がインターンみたいな、マネージャーがいないような組織でした。僕がインターン10人分のレビューをAM2時くらいから始めて、朝までかかる状況になって、さすがにこれは死ぬなと自分でも思いました。
なぜかというと、その業界のスペシャリストしか雇いたくないと思っていて、そういうチームを作れば絶対成功すると思ったのが僕の間違いでした。ビジネスをスケールさせる組織を作ることと、スペシャリストがそれぞれの戦場で一騎打ちをして全勝するっていうのは、ぜんぜん違う。
プロフェッショナル人材の足し算しかやってこなかったのが反省点でした。そこで、1マネージャーに対して複数のスタッフをつけるとこんな感じでスケールできるんだっていうのをようやく気付くことができました。
仕事ができる人って、1人で4人分くらい抱えて回せちゃうんです。でもそのやり方に限界がきて、クライアント数がバーって増えてる中「1人で150クライアントを見るんですか」みたいな状態になった。

引用:「プロフェッショナル人材の足し算しかやってなかった」ベンチャー起業家が振り返る、組織づくりの過ち


メンバーの入れ替わり。そして失った「練度」

2017年春夏。CSチームに佐々木がジョインしマネージャーに。新しい社員やインターン生がジョインしました。

しかし、ここでまたしてもチーム崩壊の危機が訪れました。立ち上げに携わった1名の社員がPR部門立ち上げのためCSを離れ、熟練インターンの多くが、コンサルティングチームや、アプリ内マーケティングチームへ移ったのです。(当時、様々な事業の立ち上げを行っていた背景がありました。)

案件数が加速度的に増え、1人100社以上担当しなければならない状況下で、メンバーの大半が入れ替わりが起こりました。チーム内に蓄積されてきたナレッジやスキルが大きく失われた瞬間でした。

Reproの共同創業者で、VP of Engineeringの三木は、これを「チームの練度」と説明しています。熟練度の総量が組織の強さを決める。そして組織成長の為にはチームの練度を維持し、失ってはならないと。

CSチームはこれに陥りました。練度が急激に低下し、ついには案件が回せなくなりました。

まさに緊急事態。

CS立ち上げに携わり、営業組織を統括していた役員の中濱が「俺に任せろ」と営業業務に加えて、CS業務の数十案件を一気に巻き取った。彼が現場まで下り、最前線で戦ったことで、CSチームはギリギリのところで何とか生き長らえました。感謝しかない。

しかし状況は深刻。「新メンバーの立ち上がり速度」の課題に直面しました。立ち上がりに3~4ヵ月もの時間を要してしまうのです。練度を失った状態で、CSで必要となるスキルセット(営業力、分析コンサルティング力、マーケティングスキル、アプリグロースハックスキル、プロジェクトマネジメント力、プロダクト仕様理解力、SDK技術理解)を埋め、顧客にプロダクトの価値を届ける為には、時間が必要でした。

Salesforceの驚異的なエンプロイーオンボーディング

ある時、Salesforceが出版している「SaaSスタートアップ創業者向けガイド」を読み衝撃を受けました。Salesforceの営業は入社からたったの30日で立ち上がるというのです。

信じられません。

・営業組織の立ち上がり速度は、売上に大きな影響を及ぼす
・Salesforceではエンプロイーオンボーディングの仕組み構築に大量予算を投じた
・CEOを筆頭に全ての役員が仕組みづくりと、ベストプラクティスを共有する文化づくりにコミットした
・その結果月に100名採用しても耐えられる組織になった
Salesforceの急成長はこのようなエンプロイーオンボーディングの仕組みなしには実現できなかった

更に、SaaS投資家の中でも「営業組織の立ち上がり速度」が重要な投資指標になっていると言います。

もう一つ、VCがB2B SaaSのシリーズBラウンドで出資を検討する際に着目するポイントとして、「営業チームをスケールさせられているか」がある。ただ単に営業メンバーを増やすだけではなく、営業メンバーのオンボーディングや、トレーニングがきちんとできているのかが重要だ。
70億円調達したB2B SaaSスタートアップのピッチ資料を解説

Salesforceにできて、スタートアップのReproにできないはずがない!!

ReproのCSチームも入社30日の立ち上がりをKPIに据え、エンプロイーオンボーディングの仕組みづくりを目指しました。3~4ヵ月かかっていた期間を3分の1にする。2018年に訪れる更なるスケール期に備え、2017年の、今この瞬間から仕組みを作る。そう決めました。

まず取り組んだのは業務標準化とテンプレート化です。Repro導入の設計書資料の標準化、テンプレート化に取り組みました。時同じくしてRepro活用のオンボーディングプロセスを作りました。これにより、誰もが均一なアウトプットを作成しやすくなり、スケール化の下地が整いました。

Salesforceの秀逸な学習順序

さらにSalesforceが素晴らしいのは、その学習順序とその手法。あまりにも秀逸。

・まず1週目はSalesの文化から学び、ベストプラクティスを学習する。
・その後2週目にして初めて製品を学び、プレゼンできる状態にする。
・3週目にパイプライン戦略を考えアウトプットさせる。
・4週目に様々な戦略・案件実行をアウトプットさせる。

SaaSプロダクトは複雑がゆえに、そのプロダクト仕様のインプットから始めてしまいがちですが、Salesforceではそれを行いません。まずベストプラクティスから学ぶこと。その重要性を教えてくれます。さらにそのインプット方法は、営業メンバーがインプットしやすいビデオ視聴コンテンツを使用する。

さらに徹底的なアウトプットファースト。座学だけでは意味がない。アウトプットしなければ成長しない。それがSalesforceのやり方。

Jim Steel氏はベストプラクティスの共有を推奨する文化づくりを行った。CEOを筆頭にすべての役員陣がエレベーターピッチを録画し、すべての社員が動画を見れる環境を整備した。それにより新入社員全員が会社の文化、サービスの特徴などを学び、すぐに売り込みができる状態になった。 エレベーターピッチも複数のタイプのものを用意した。90秒のもの、10分バージョン、ヒアリングピッチ、反論対抗ピッチなど。 新たにジョインした営業メンバーはそのコンテンツを見て、自身のエレベーターピッチを録画することで改善をしていった。 すでに分かっているサービスの強み、競合との差別化要素、反論対処法を早期に学習し、自信をつけることが重要だった。
第一週目:文化、ベストプラクティス、ビジョンを学ぶ
CEOや役員メンバーの作成したビデオコンテンツを視聴し、ビジョンや目標を共有する。優秀な営業担当者が作成した案件獲得に関するビデオを視聴し、その体験談を学習する

第二週目:製品とサービス
プロダクトマネージャーが作成した製品のプレイブックビデオを視聴する。製品やサービスについて理解を深めつつ、2分間のエレベーターピッチを営業メンバーに実施してもらい、そのアウトプットを評価する。

第三週目:見込み客の獲得とテリトリの計画
見込み客をどのように開拓するのか、そのパイプライン戦略を考えてもらい、その内容を動画としてアウトプットを出してもらった。

第四週目:取引先戦略と案件実行
最終週では様々な戦略に焦点を当てた。効果的なイベント戦略、クロージングに関する戦略。その戦略計画をアウトプットとして録画してもらった。

SaaS スタートアップ 創業者向けガイド


エンプロイーオンボーディングのステップを設計する

ReproのCSチームはSalesforceをベンチマークし、ステップを設計しました。

1.Reproの文化を知る

まずはReproの文化を知ることが重要です。Reproメンバーのインタビュー記事を読んでもらい、価値観を知ってもらう取り組みからはじめました。理想を言えば全社集会を開催する事が必要かもしれませんが、有限なリソースの中でできる事から始めました。

ReproではWantedlyに社員インタビューをまとめています。

2.Reproをプレゼンできる

「Reproがどのようなプロダクトで、どんな機能があり、どのような顧客の、何の課題を解決できるのか」これをプレゼンできるレベルを目指します。またこれを実現する為には、数分程度のRepro紹介トークを1日中に何度も繰り返し説明する必要のある展示会イベントが最適でした。ReproのCSでは、ジョインして可能な限り早く展示会同行に行ってもらいます。

また入社早々に、様々なケース別のプレゼン課題を課します。オーソドックスなReproの説明だけでなく、アプリ事業者のカテゴリや課題に沿って、プレゼン内容を変えられる状態を目指します。

3.プロダクトの提供価値や成功事例を学ぶ

CSでは「顧客の成功を定義できる」状態を目指す必要があります。その為、Reproの事例を徹底的にインプットしてもらいます。これを通じてReproの提供価値、顧客理解、施策イメージを持つ事が目的です。

ただ、事例インタビュー記事では限界がありますし、当時は今ほど事例数が少なかった。そこでビデオコンテンツを準備する事にしました。「事例共有会」という社内イベントを開催し、その発表の様子をビデオで録画するのです。表向きは社内メンバーの顧客理解を促進するイベントでしたが、裏目的はエンプロイーオンボーディングコンテンツの拡充でした。

4.グロースハックの知識を身につける

Reproのクライアントは皆グロースハッカーでありマーケターです。グロースハックの知識や考え方がないと会話が成立しません。 可能な限り早くキャッチアップできなければスタートラインにすら立てないのです。
その為、ReproCSチームでは2つのコンテンツを用いてキャッチアップを図っています。

1つ目は「いちばんやさしいグロースハックの教本」グロースハックを学ぶ上でこれほどまで分かりやすい教科書はありません。(とは言え、基礎本ですので、それ以外の課題解決のために「Repro入社時の必読書50選」をまとめています。)

2つ目は当社が運営するオウンドメディア「Growth Hack Journal」です。海外事例が豊富にあり、非常に優秀なコンテンツです。

5.(業務を通じて)プロダクトの使い方や仕様を理解する

プロダクトへの理解はCSの必須要件です。しかし一方ですべてを理解するのは非常に難しい上に、アプリ開発をするための技術知識も必要になります。そのため日々の業務を通じてキャッチアップしていく方針を取っています。実際の顧客からの質問対応、提案づくりなどで、プロダクトへの理解を深めます。

6.場数を踏み、グロースハックのパートナーを目指す

CSは顧客のグロースハックのパートナーにならなければなりません。様々なナレッジを提供し顧客の成功をサポートするためには、場数を踏みことが重要です。研修・座学だけでは成しえない。Salesforceのアウトプットファーストを踏襲しています。

「生じた疑問を即解決できない」という課題

しかしReproはハイタッチCS。1日3~4アポは当たり前。常に外出しており、メンバーの相談に乗ることや質問に答える事ができません。Slackで質問してもMTG中は返信できない。このように「生じた疑問をすぐに解決できない。対面でコミュニケーションを取るのが難しい」という課題を解決しなければなりませんでした。

そこでベンチマークしたのがReproのエンジニアチームでした。エンジニアチームでは徹底的なドキュメント文化が根付いており、「ドキュメントを読むだけで、オンボーディングできる」という驚異的な状態を築き上げていました。

それもドキュメントはあり得ないほどの粒度。タイピングスピード基準、生産性を高める為のPCの環境設定方法、デバッグ方法、UIテスト、モバイルアプリの作成、SDK導入、Github作業導入。中には「生産性を高める椅子の座り方」まで笑

これらが全てドキュメントを読むだけで習得できます。大半がVP of Engineeringの三木が作り上げたものでした。

そして、CSチームはエンジニアチームをベンチマークし、生じた疑問をすぐに解決できるよう、ドキュメント化へ大きく舵を切りました。


次回へ続く…。

by kengo iwata

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