見出し画像

広島帰省だより②ジムの難しさ

先週、広島に帰省していたので、その忘備録を書いております。
day2となる今回は、いよいよカープの試合。

その前に……ジムへ行くことに。

というのも下の弟2人が筋トレにハマっていて、この日も地元のスポーツセンターで汗を流してから向かうという。ちょうど私もごくごく簡単な、家でできる筋トレを始めたところだった。朝からダラダラと汗をかく快感をなんとなく感じ始めた今、このやる気をブーストさせるには良いタイミングだと思った。
とはいえこれまでの20数年間、筋トレおろか、小学生の頃から運動さえままならない身だ。単身でジムに乗り込むのは色々怖すぎる。ここは慣れている人について行って、「本当の筋トレ」なるものを体験してみようと思ったのだ。

地元とはいえ、このスポーツセンターにあるジムへ行くのは初めてのこと。食券のように、券売機で利用券を買うことすら知らなかった。慣れた手つきで券を買い、ズカズカとジムへ入っていく弟たちを、やや焦りながら追いかける。途中で弟を見失い、受付の人に聞くと更衣室だと思う、とのこと。女子更衣室の場所がわからず、オロオロしながらそれらしき暖簾をくぐり抜けて荷物を置いた。

まだ平日ということもあり、地元のスポーツセンターは意識の高いお年寄りしかいなかった。筋トレというより、健康のための運動をしているようだ。だから筋トレをしにきている私と弟たちの3人だけが浮いて見える。3人とも身長が高く、年齢もぐんと若いので余計にそうさせる。

ダンベルやベンチプレスといった「ザ・筋トレ」に用いる器具のエリアには鏡が張られていて、自分のフォームや育成中の筋肉を眺めながらトレーニングができるらしい。中年の、胸板が厚い男性が力強い唸り声を上げながら重そうな棒をあげていた。
マットが敷かれたストレッチのエリアでは女性たちが股関節や背中やらをゆっくり伸ばしている。ランニングマシーンはもはやランニングではなく、ウォーキングに勤しむ高齢の方たちでほぼ満席だった。みんな見た目の割にシャキシャキ歩いている。私よりもよっぽど健康かもしれない。ジムコミュニティなるものがあるらしく、すれ違いざまの世間話もよく聞こえた。

「今週は5日間連続できているんですよ!」
「おおすごいですね、でもこの年になると昨日のことなんて誰も覚えてませんよ。私もね」
「ワハハハハ」
「ワハハハハ」

思えばジムにくること自体、これが初めてだった。
まず何から始めればいいかわからず、早くも自分のメニューに取り組む弟たちの横で、小声で「何すればいいん?」と聞き回る。まるで金魚のふんだ。物珍しそうにこちらを見つめてくる利用客の視線が痛い。

すでにストレッチで薄い汗をかいている弟から、適当に「まずはウォーキングで体をあたためたら?」と言われたので、空いているランニングマシーンにおろおろと近づき、隣のおじさんたちと同じスピードで歩きはじめることにした。顔を上げると、ここにもまた鏡が張られている。嫌だなぁ、見たくないなぁ、顔をあげて他の利用客に話しかけられたくないなぁ、と思っていると、何やら隣のおじさんがこちらを向いて話している。なんのことかと思って横をみると、「時間!時間!あそこに書いて!!!」と叫んでいた。
みると柱の部分に利用時間を書き込め、というルールと、時刻の書かれたホワイトボードがかけられている。人気メニューなのか、ランニングマシーンはひとりにつき最大20分しか利用できず、自分の終了予定時間を書くシステムになっているらしい。全く気づかなかった。

もう、すでに痛い。筋肉じゃなくて、心が。

ただでさえ怯えているのに、自分の預かり知らぬところにルールがあり、新参者でありながら知らぬ間に自分がそのルールをやぶっていたという事実。しかもそれを隣のおじいさんからまぁまぁ大きな声で注意されるという。先ほどから筋肉ではなく心ばかり動かしてしまっている。ジムにおいて、「正しく使う」ということは筋肉でも器具でも、疑うまでもない正義なのだ。この場では間違えてはいけない、というプレッシャーが、筋肉ではなくただでさえデカい自我をさらに誇大させ、空回りさせる。

20分歩くメンタルがなかったので、弱々しく10分後の終了時間を書き込み、ただただうつむいて歩いた。10分間で20分間の効果を得てやろうと、早歩きのスピードまであげた。ベルトコンベアーのように回り続ける床を見ながら、幼いころに食べた、ぐるぐる巻きのグミを思い出した。

それでも下半身がほかほかしてくる。筋肉の微熱、という感じ。この感覚ははじめてだった。すごいなぁと思いながらも終了時間の2分前にそそくさとマシーンを停止。苦しい声をあげながら鉄棒のようなもので懸垂をしている弟の横へいき、また小声で「次なにすればいいん?」と言った。どこを鍛えたいん、と聞かれたので、腹筋と背筋だと話すと、別の器具のところへ案内された。椅子の背もたれのほうを向いて座り、そのまま手をぐんと伸ばすとようやく届くような位置に置かれた鉄棒を、カヌーを漕ぐような姿勢で胸元にひっぱるというものらしい。広背筋という部位にきくらしい。

自らのメニューを中断して親切丁寧に教えてくれた弟だが、なかなか背中に効いている感じがしない。腕の方が痛くなる。これでいいのかと聞くと、「最初はそんなもんよ」と言ってまたどこかへ行ってしまった。この間も周りの突き刺すような視線を感じる。私が数回もできなかった腹筋用の台で祖母くらいの年齢の女性が軽々と上体をあげていた。

結局、30分ほどで離脱してしまった。
筋トレよりも、自分を守ることで精一杯になってしまった。ジムほど人の視線が痛い場所はない。知人といるならまだしも、それをひとりで浴びなければいけないのだから。私のような人間には、まだまだ早かった。

この後、球場へ向かうのだが……ここでとある事件が発生。またまた字数がかさんできたので、球場でのことはまた今度。





いいなと思ったら応援しよう!

差詰レオニー
最後まで読んでくださりありがとうございます。 いいね、とってもとっても嬉しいです!