中高年でもできる、山に登るための体力トレーニング
山に登るには体力が要る。体力があれば長い時間行動できたり、コースタイムより早く登れたりと良いこと尽くめだ。体力があればより重い荷物を背負って縦走することだってできるし、通常なら1泊以上必要なロングコースを日帰りだってできるかもしれない。
私は本格的に山に登り始めて10年以上経つが、4~5年前までは日帰りならコースタイムとなんとか同じくらいのペース。テント泊装備ならコースタイムより70%~80%程度の遅いペースでしか歩けないような平均以下の体力しか持ち合わせていなかった。
アラフォーおじさんが大幅な体力アップに成功
そんな貧脚ハイカーだった私が現在ではフルマラソンをサブ3で走れるようになり、会津駒ヶ岳から尾瀬の御池までぐるっと日帰り(30km)したり、裏岩手縦走路(50km)を一泊二日で歩いてから車回収のため下山後に21kmロードを歩くまでになった。大幅な体力アップである。
数年前は体力が無くて諦めていたようなルートを今は歩けるようになった。テント泊装備でもコースタイムと同じかそれよりも早く歩けるようになり、行動できる時間も範囲も一気に広がった。数年前と比べたら大幅に体力がアップしたのを自分でも実感している。
この記事では私がどうやって体力強化できたのか、どんなトレーニングをやってきたのかをお伝えしようと思う。
低山トレーニングのすすめ
…という話をどこかで耳にしたことは無いだろうか?これは正しい。実際に自分の2019年〜2022年の山登りを比較すると以下のような変化がある。
山登りの頻度をとにかく多くすれば体力も付くし筋力も強化される。私はさらにプラスして定期的に低山トレーニングを行うようにした。筑波連山を定期的に歩くようにしたのである。
低山トレーニングで体力測定
私は茨城に住んでいるので筑波山が家から近い。低山トレーニングをやる時はいつも筑波山で行っている。丹沢が近い人は丹沢で、六甲山が行きやすい人は六甲山でいいと思う。ある程度の距離と累積標高があるコースなら地元にある山で良い。
ポイントは1日である程度の距離と累積標高を歩くことだ。自分の場合は、筑波山から北に連なる『筑波連山』を歩いている。距離にすると約28km、累積標高は2200m程度になる。これを定期的に行っている。夏場は暑すぎるので避けているが、毎年気温の低い冬をメインに春先にかけて定期的に歩くようにしている。
初めて筑波連山を歩いたのは約4年前で、その時は疲労困憊で全く余裕がなかった。時間も10時間以上かかり下山した時は足が痛くて翌日は酷い筋肉痛になった。その後、3~4ヶ月に1回くらいの頻度で同じコースを歩くようにした。2回目に歩いた時は10時間を切ることができた。それから4ヶ月後に3回目を歩いた時は9時間になり、現在は片道5時間程で歩けるまでになった。タイムが縮むのは自分の成長がわかるので嬉しいし、モチベーションが上がる。
低山トレーニングのいい所は「現在の自分の体力を数値化できる」ことである。毎回同じコースを歩き、前回のタイムからどれだけ短縮できたかを記録する。心拍数を測れるランニングウォッチやApple Watchなどがあれば心拍数を計測して記録しても良いだろう。タイムや心拍数といったデータを記録し前回と比較することで客観的に「どれくらい体力がついたか」を見ることが出来る。
低山トレーニングは登山で使う筋力の強化はもちろん、持久力の強化にも繋がる。自宅から行きやすい山で、ある程度の距離と標高差があるコースを選んで定期的に是非行ってみてほしい。
日々のトレーニングを習慣化する
私はランニングと筋トレが習慣化している。登山においては下半身の筋トレ全般(スクワット、ランジなど)、インナーマッスルのトレーニング、ランニングなどは効果が実感しやすいだろう。どんなトレーニングをやるにしても重要なのは「続けられるか否か」だ。
続けられなければどんなトレーニングも効果は薄い。筋トレやランニングをやると決めたらそれを「習慣化」することが一番大切なことである。習慣とは、「それをやらないでいると気持ちが悪い」レベルにまですることである。誰もが毎日決まって「歯磨き」をするように、トレーニングも「やらないと落ち着かない」「やらないと気持ち悪い」と思うレベルにまで習慣化することが大切だ。
では習慣化するにはどうすれば良いのか?
そのヒントになったのが、上記の本だった。この本は小さな習慣(腕立て伏せ1回だけ)でも毎日続けることが大切と説いており、習慣化する上での参考になった。私はこの本に書かれていることを踏まえて、少しずつ走ることを続けて行き、ランニングを習慣化することに成功した。ランニングの習慣化については以下の記事に詳しく書いてあるので、興味のある人は是非読んでみてほしい。
弱点を克服するトレーニング
登山には体力が必要なのは言うまでもない事だが、詳細に見ていくと複合的な能力からなっていることがわかる。例えば以下のような感じだ。
すぐに息があがる→心肺機能の強化が必要
脚や膝が痛くなる→下半身筋力の強化が必要
長距離でバテる→持久力、脂質代謝能力の強化が必要
体がふらつく(転んだり、尻餅をつきやすい)→体幹の強化が必要
これらは一言でまとめて「体力」と言われてしまう事が多いが、実際には異なる複数の能力が組み合わさっているのである。自分の弱点を把握してその弱い部分をトレーニングによって強化していけば効率良く山に登るための体力をつけることができる。
すぐ息が上がってしまうなら有酸素トレーニングを
よく登山では「息が上がらないペースで」と言われる。これは息が上がるくらいの早いペースで歩いてしまうとエネルギー消費量が多くなるのと同時に糖質の消費割合が増えてしまうからだ。体内の糖質(グリコーゲン)が枯渇してくるといわゆるシャリバテ状態になってしまうので、これを避けるために途中で補給をしたり、できるだけゆっくりペースで歩いたほうが良い。しかしこれは根本的な解決には繋がらず、あくまで「その登山時の対処療法」にしか過ぎない。基礎的な体力や心肺能力が不足している状態では少し動いただけで息が切れてしまう。エンジン排気量の小さい車で急坂を登っているのと同じだ。根本的に改善するにはエンジン(心肺能力)を強化するしかない。
登山でゆっくり歩いていても「すぐに息が切れてしまう」と感じるならば、それは心肺能力を強化すべきだ。心肺能力を強化するには、有酸素トレーニングを続けるのが良い。しかし、ここで注意して欲しいのは、「歩くこと」がトレーニングとなっていると勘違いしている人が大勢いることだ。ただ平地を歩いているだけでは、残念ながら「体力の維持」にはなっても「体力の強化」には繋がらない。負荷が弱すぎるのだ。
有酸素運動と言ってもある程度の負荷をかけなければ体力の強化にならない。具体的にはランニングや自転車、水泳などがいいだろう。膝が悪い人や体力に不安がある人はぜひ「インターバル速歩」を試してみてほしい。このインターバル速歩はゆっくり歩きと早歩きを交互にやるトレーニング方法である。
インターバル速歩はかつて「ためしてガッテン」などでも紹介され、科学的にも効果が実証されている。高血圧、高血糖、肥満の改善にもつながると実証されているので運動不足な中高年にピッタリのトレーニングである。
脚や膝がすぐに痛くなるなら下半身の筋力トレーニングを
山に登っていて脚や膝が痛くなりやすい人は筋力が不足している可能性がある。下半身の筋力トレーニングは普段から山登りを頻繁にやっている人であれば、それ自体が筋トレになっているのでそこまで意識していないかもしれない。一方であまり運動もせず山に行くのもごくたまにという人は下半身の筋力が衰えて登山の負荷に耐え切れず痛みが出やすくなっている可能性がある。
こういった人達はトレーニングとしてスクワットやランジ等の筋力トレーニングを取り入れると良い。前述したインターバル速歩と組み合わせてトレーニングすると尚良いだろう。
体幹を鍛えるトレーニング
重い荷物を背負った縦走をしたり、不安定な足場でもしっかりとした足取りで歩きたいのであれば体幹を鍛えるべきだ。人間の筋肉は連動して動くので、足を動かす時にも体幹の筋力が使われている。ここが弱いと段差でフラついたり、不整地でよろけやすくなったりする。
体幹を鍛えるにはプランクが良い。地味なトレーニングではあるが確実に効果がある。最近ではアメリカ陸軍の体力測定で新たに採用されたことでも話題になった。プランクは正しい姿勢で行うことが重要だ。YouTubeなどでも解説している動画があるので、それらを見ながら正しいプランクができるようにして欲しい。プランクのスマホアプリで記録するのもオススメだ。
忙しい人、メンドくさい人へのおすすめ
『こんなに沢山トレーニングをするのは難しい😓』と思っている人も多いだろう。そんな人には以下の2つをやってみてほしい。それは…
インターバル速歩(又はランニング)
スクワット
膝や脚に不安がある人はインターバル速歩から始めてみて欲しい。1日15分を週4日以上行うのが望ましい。インターバル速歩の負荷が軽すぎると感じている人はランニングやより強度の高いトレーニングでも良いだろう。
もう一つはスクワットである。スクワットは「キング・オブ・エクササイズ」と呼ばれるほど、多くの筋肉群を総合的に強化できるきわめて全身運動に近い運動である。そのため、どれか1つだけ筋トレを行うのであれば、スクワットが最も効率的かつ合理的である。
何歳になってからでもトレーニングをすれば確実に体力はつく。月並みな言葉ではあるが、「継続は力なり」である。わずかな変化でも続けていけば大きく変化することが実感できるだろう。これからの夏山シーズンに向けてトレーニングを続け、体力の不安なく登山を楽しんで欲しい。