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あの日の短歌の話がしたい。展示会「まなざし」で発表した短歌の話をする。

こんばんは。
少し肌寒い日が増えてきましたね。みなさま体調いかがでしょうか。

藤村玲乃は先週まで胃腸炎になっていました。現在は元気です。
健康ってすごい。

展示会「まなざし」

3月に大学を卒業したのですが、その際に卒業展示として「まなざし」という展示会をさせていただきました。この先、社会人としての旅路を歩く私達と私に向けて、暖かいまなざしを送りたいという思いで、この展示会を行いました。

当時のポスター

ここにあるのは、これから別の旅路を歩むみなさまへ僕からのまなざし。
そして、大学を卒業し、暗闇へ向かう僕自身に向けて、
藤村玲乃からのまなざし。

展示会「まなざし」ごあいさつより

普段から書いているエッセイに加えて、この展示会では始めて短歌を発表させていただきました。展示会内でも紹したのですが、榊原紘さんの「推し短歌入門」を読んでから、自分でも短歌を作ってみたい!と思うようになりました。

実は、展示会のために作ってから今までずっと、このために作った短歌の解説をしたい!この話したい!と思っていたのですが、展示会の後すぐに解説というか、作品のことをべらべら話すのって無粋かな、という考えがよぎり今の今まで黙っていました。そろそろいいかな?


「ももいろの鍵」

一つ目は、ももいろ鍵です。いよわさんの楽曲「ももいろの鍵」からインスピレーションを受けて、展示会のテーマであった「まなざし」をテーマに制作しました。

暖かい空気を吸って発芽する窓の内からそれに震える

新社会人になる4月を目前にして、不安がなかったわけではありません。春になり、暖かくなって植物が例年通りに芽を出すことを、守られた窓の中から見て、不安になっている状況を短歌にしました。

ステージ上 光に透かして並べてる似ても似つかぬあの日のあなた

私が卒業展示をやったように、他の友達たちも卒業のための論文であったり、制作をしていました。その中でも、卒業公演をやった演劇ゼミでの友達の姿が忘れられず、この短歌ができました。実は、展示会「まなざし」をやろうと思ったのも、演劇ゼミの卒業公演があったからです。私達は入学式から一緒で、なんなら卒業式まで一緒にいましたね。

みえないよピントを外してごまかしたもうやめましょう焦がれるだけは

卒業制作で「処方箋」という本を作ったときに、「どうせできないから」と思って諦めていたのは私だったと痛感しました。それほど私にとって「本を作る」という行為は憧れの遠いもので、それができたとき本当に心の底から嬉しかったのです。「どうせできない」と、憧れや夢を見ないように、現実のものだと理解しようとしていなかったのは私でした。新型コロナウイルスを経て、行動的になったと思っていましたが、思い込みから挑戦していないってこと私には結構あるんじゃないかと自分を見つめ直すきっかけになりました。

板ごしにグーパン飛び出し嗚咽する それをネガティブなんかと呼ぶな

最近、特に顕著になりましたが、SNSは争いごとの火種になっているような気がしています。男性と女性、若者と高齢者など、対立を生んで喜んでいる誰かがいるような気さえしてしまいます。私はその板を何度も撫でて、その火種を浴び、嗚咽しています。そして、自分の生活がままならなくなる。SNSも現実のもので、ここにある社会の一部であるはず。それをみて絶望することをネガティブなんかと呼んでくれるな、と本当に思っています。

会いたくて約束しても座席には「またね」はなくていつも「久しい」

とある人物を想造して書きました。その人物は卒業制作「処方箋」の写真とインタビューを受けてくださったお兄さんです。お兄さんはバイトの先輩で、3月になれば先輩後輩として会えなくなっていくことはわかっていました。だからこそ、会おうと思ってこれから先も誘うんだろうけれども、そこに、あの毎週必ずあった「またね」はなくなるんだろうなという思いからこの短歌ができました。お兄さんとは未だに連絡を取ってはいますが、簡単には会えなくなっています。

満ちている コサージュつけた私達ももいろの鍵抱きしめなおす

入学式、新型コロナウイルスの影響で私達の世代はありませんでした。そんな私達の卒業式は、卒業パーティはどんなものになるだろう。新型コロナウイルスが流行り始めてから、私はずっとどこか足りない気持ちを抱えていました。時間は無限にあるのに、なにもできない、することが許されていない。ずっと空っぽでした。私の場合、そこで始めたのが文章を書くことでした。きっとみんな何かしらの形でこの空っぽを埋める過程があったはず。希望を込めてこの短歌を書きました。


「ファミレスを享受せよ」

もう一つの作品群はゲーム「ファミレスを享受せよ」からインスピレーションを受けた短歌です。「ファミレスを享受せよ」月面湿地帯さんが制作したノベルゲームです。



※以下、「ファミレスを享受せよ」のネタバレを含みます




いただきます、笑顔でフォークを突き立てる君の選択すらも捨てたい

流刑の月にクラインを送ったあとのセロニカ①。罪を犯したあとのクラインがセロニカと対面する場面で、クラインが「全て自分の意志で行ったこと」だと証言しました。それを聞いてセロニカはクラインを情状酌量の余地なしとし、流刑の月送りました。作中で「ケーキ」と「刑期」をかけていたのに合わせて、自ら刑期を望んだクラインとそれを認めたくなかったセロニカの場面を想造し、制作しました。流刑の月に行く前には二人でケーキを食べることもあったんですかね。

ほほえんだあなたと共にテーブルを邪魔した僕の首をはねてよ

流刑の月にクラインを送ったあとのセロニカ②。流刑の月にクラインを送ったあと、セロニカはその事実に耐えられずあの薬を飲んでしまいました。ゲーム内ではあの薬を飲むまでの描写はされていませんでしたが、きっとセロニカは薬を飲むまでにもたくさん悩んだんだろうなと思って短歌を作りました。クラインを流刑にしたのも、薬を飲んだのも、全部セロニカが決めたこと。けれど、セロニカは「誰か決めてくれよ」と思っていたんじゃないかとと考えてしまいました。

夢に出たあなたとケーキ口にして 目覚めたら朝、顔がしょっぱい

ガラスパンに「ケーキはあるか」と聞いたとき、強めに「ないよ」と返されるシーンを見て、ラテラとケーキを探したりしたこともあるんだろうか、そしてそれを思い出していたりするんだろうかと思ったところからこの短歌ができました。地球に帰ったガラスパンはファミレスのケーキを見て、なにを思うんでしょう。

月を見るあなたをずっと捨てられない与えた罪に並んだ数字

これは流刑の月に送ったあとというよりかは、薬を飲んでムーンパレスから帰ってきたあとをイメージしています。ムーンパレスから帰ってきて、もう一度処刑人を始めたとき、自分の番号を見ても、月を見てもクラインのことを思い出す。もう薬を飲むことはできない。その状態でも、処刑人として過ごしていく、その先を考えながら制作しました。

「おしまい」の先がないのを気にしている僕の知らない月のあとがき

ここで言う「僕」は、セロニカやツェネズ、ガラスパンやラーゼたち、そしてそのすべてを覗いたプレイヤーのことを指しています。クラインとスパイクがフォースプーンで話していた「おしまいの先がないこと」について、彼らも物語の最後でそうなったのが印象深くて、この短歌を作りました。

流されて月に降り立つ君の元 言うに及ばぬエンドロール

こちらは完全にスパイク王目線の短歌に。一つ前の短歌はクラインとスパイクがどうなったかを考える私達のことでしたが、この短歌は二人だけの短歌です。スパイクとクラインがやっと長く落ち着いて、何も気にせずに話せる場所が流刑の月というのも辛いですね。

頬のよう月を眺めて決意するやっと共犯 報いを受ける

私はクラインの姿を見てからずっと月みたいな女性(?)だなと思っていました。それが、クラインのどの部分を見てそう思ったのかはわからないけれど、この短歌では、頬が月のように見えたところを切り取りました。それと、スパイクはクラインが流刑の月にいると知ってから、ずっとそこに行きたかったのではないかと思っていたのです。だから、「やっと共犯」にしたんです。


はじめて短歌を書いてみて

「ももいろの鍵」に関しては、学生の間に普段から不安に思っていることを小さく吐き出すように書いていました。エッセイを書くときも不安を吐き出すように書くことがありますが、エッセイのときは自分で考えを整理させたいときが多いように思います。一方で短歌を書くときは、短く誰かに届いてあばよくばこの私の不安が誰かの頭に残ればいいなと思っていました。新しい視点だと思ってもらってもいいし、「私もそう」だと共感してくれてもいい。とにかく短いからこその届き方を考えていました。
「ファミレスを享受せよ」では、いわゆる短歌で二次創作を行った形になりました。「推し短歌入門」で読んだような、「燻らせるような短歌」つまり、二次創作としても短歌としても良い作品にはほど遠い作品になりましたが、個人的には制作していてとても楽しかったです。また、クラインとセロニカ、クラインとスパイクについて書くことが多く、自分がどの部分について印象に残っているかがわかったり、ゲーム内で描かれなかった部分について空想したりするのが好きだと気づけてとても嬉しかったです。

これからは、エッセイに引き続き短歌の制作も頑張っていきたいなと思うことができた展示会でした。展示会に出したエッセイもいつかこのnoteで投稿したいと思っているので、楽しみにいていただければと思います。


文章に関するお仕事はX(旧Twitter)のDMでお待ちしております。また、問題などありましたらご連絡ください。

最後までお読みいただきありがとうございました。


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