投資歴20年の会社員が、この春、投資の世界の入り口に立っている若者に薦めたい3冊を厳選してみました
株式投資を始めてもうすぐ20年です。ここまで山あり谷ありでしたがおかげさまで順調に資産形成が進みました。
この20年の間に、投資の実践内容は変わってきた、変えてきたと自認しています。その変化のきっかけの多くが読書、本でした。振り返ると出会ってきた本が投資の実践内容を変えてきた面がとても大きかったと感じています。
読書の順番、その本と出会ったタイミングが違っていれば、今現在の僕の資産内容は劇的に変わっていた、そんな確信を抱いています。
先日、大きめの書店の「株式投資・資産運用」コーナーに足を運んでみました。非常にたくさんの本が並んでいました。
どの本を手に取るか、出会うか、は、投資をこれから始めようという人にとっては、その後を大きく左右する分かれ道です。
そこで、です。ちょうど今まさに株式投資を始めようとしている若い人に推薦したい3冊の本を厳選してみました。少しでもご参考になれば嬉しく思います。
先日訪れた書店では、今から推薦する3冊、「株式投資・資産運用」のコーナーで見つけることは出来ませんでした。3冊のうち1冊は「株式投資・資産運用」のコーナーに並んでいても全く不思議の無い本ですが出版されてから少し時間が経っているからでしょう。残り2冊は書店の「株式投資・資産運用」のコーナーに並んでいることはまず無い、そんな本です。
3冊を選んだ基準
今回ご紹介する3冊を選んだ基準をご説明します。
株式投資を旅に例えると「コンパス」になるか否か、です。「コンパス」は正しい方角を示す方位磁針、羅針盤です。
書店に並ぶ本には「1億円」「3億円」とか「億り人」とか、旅に例えると、目的地を強調していることがかなり多いと感じます。それらの本では、その目的地に向かうにはどんな手段を取れば良いかその手段をどう選べば良いか、を詳しく説明しています。
「目的地」とそこに向かうための「手段」について書かれているのですが、「目的地」に向かう途中での苦労や試練を乗り越えるための構え方、姿勢を説明しているものは少ないものと感じます。
旅の「目的地」から大きく離れてしまっているかもしれない、先の見通しが立ちづらい、まるで「暗闇」、そんな状況に陥ることがあります。そんな状況でも旅を諦めずに続ける、目的地をしっかりと見据えるためには「コンパス」が必要です。
実際の例を挙げてみます。僕自身の投資の記録です。
2006年4月末がスタート地点、2012年12月末までの経過を示したグラフです。
青いグラフが僕が実際に投資したお金の累計額になります。オレンジのグラフが僕が買っていた商品(複数の投資信託)の時価(評価額)になります。グレーの棒グラフが(時価、評価額)➗(投資累計額)を示しています。赤い太線が「1」になります。グレーのグラフが赤い太線の下にあるタイミングは(時価、評価額)が(投資累計額)を下回っている「評価損」ということになります。
グラフが示している通り、2008年7月末から2012年11月末まで53ヶ月連続で「評価損」が続きました。青いグラフは時間とともに増えている通り、この期間も新しく投資を追加し続けました。投資を続けていても、時価が投資してきた金額を超えない、それが4年以上続きました。暗闇の中を走り続ける、そんな感じでした。
なぜ走り続けることが出来たのか。今振り返ってみると、たまたま運が良かったという面が大きかった、と感じます。
「いつか暗闇は終わる、朝は来る」こんな認識でした。あの時、もっとしっかりとした「コンパス」を持っていれば、より強い確信を持って投資を続けられただろう、と。毎月、毎月、評価損というのは結構しんどい、という人も多かったようです。朝が来るのを待てずに止めてしまうのです。自分の向かっている方向、方角に自信が持てなくなったことがその理由の一つではないか、と推測しています。
実は、僕の経験から考えるべき重要な点がもう一つあります。4年以上も「評価損」が出ていると、それがプラスに転じたらそこで「やれやれ」ということで止めたくなる、そこでもうお仕舞いにしたくなるってことです。
やっとこさプラスになった時、こう思うのです。またしばらくすると「評価損」に戻るかもしれない。そう考えてそこで投資をやめてしまった人、実際にかなり多かったと金融機関から聞いたことがあります。
僕自身は、その後も追加で投資を続けました。僕が当時「やれやれ」と思わなかったのも、幸運によるところが大きいです。
先ほどのグラフを現在まで伸ばしてみました。2012年12月末以降、オレンジのグラフはずっと青のグラフより上に位置しています。「評価損」になったタイミングはゼロです。このグラフでいくと2013年の前半くらいに「また減ったらイヤ」だと考えてやめてしまうのが「やれやれ」です。
僕自身は「やれやれ」と考えて止めようと思ったことはありません。しかし「このまま続けていって大丈夫」と非常に強い信念を持っていたか、というと、正直そこまでのものは無かったと思います。幸運だったのだと思います。
今思えば、しっかりとした「コンパス」が欲しかったと思います。「やれやれ、もういいや」で止めてしまった人も、自分の向かっている方向、方角がわからなくなっていたことがその理由だったと推測しています。
「株式投資を長く続ける、このままずっと続けても大丈夫だ」と認識させてくれる「コンパス」の重要性、ご理解いただけたでしょうか。
これからオススメする3冊は、いずれも、長い投資の旅の「コンパス」となってくれること間違い無い、という基準で選びました。
藤野英人 『投資家が「お金」よりも大切にしていること』
最初の一冊は、藤野英人さん著「投資家が「お金」よりも大切にしていること」です。藤野英人さんは著名なファンドマネジャー、投資家です。
この本が「コンパス」になると判断した理由をご説明します。
上記の引用、本の第5章からです。5章のタイトルは
”あなたは、自分の人生をかけて社会に投資している、ひとりの「投資家」だ”
この5章で「投資とは何か、どんな行為、行動か」藤野さんの捉え方、認識が述べられています。
この第5章を20回、30回と、何度も繰り返し読んでみてほしいのです。
藤野さんが述べられた「投資」の捉え方、認識が、僕にとって、長い投資の旅の心強い「コンパス」になってくれました。
正直に言いますと、株式投資を始めようとしている人にとって「投資とはお金に限らない」という認識は、すぐには染み込まないかもしれません。株式投資を始めようとする人は、ほとんどの場合、株式投資とは「お金をふやすこと」「お金を出してお金を得ること」だ、と認識していることでしょう。それがごく普通だと思います。実際、投資を始めた頃の僕もそうでした。
株式投資を始めようという人に簡単には染み込まないだろう、そう想像するからこそ20回、30回と何度も繰り返し読んでみてほしいのです。今このタイミングでは自分の腹に落ちていなくとも、納得していなくとも、20回、30回と読めば記憶の片隅に刻まれるかもしれない。時間が経って、経験を積んで、ある時、その記憶がパッと頭に浮かぶ、蘇ることがあるかもしれない。それは投資なんてやめてしまおう、そう感じる時かもしれない。
そんな時「そうか!」と納得できた時、この本で示された藤野さんの考え方、捉え方が心強い「コンパス」となってくれることでしょう。
心強い「コンパス」、2冊目に選んだのは、田内学さん著「お金のむこうに人がいる」です。
田内学 『お金のむこうに人がいる』
「株式投資・資産運用」コーナーにこの本を並べている書店は無いだろう、と想像しています。
本に書かれたこの一文。コロナウィルスをめぐって起きたたくさんの事象を見ていて僕が気付かされたことです。
「投資」という文脈においてもこの認識はとても大切だと感じたのです。資産の大きさを表す数字、金額を大きく増やすことが出来たとしても、金額やお金が自分の困りごとを何でも解決してくれるわけではないと気付かされました。
お金ばかりを見ていてはダメ、働いている「人」に関心を向けなさい、と。
この本でも『投資家が「お金」よりも大切にしていること』に相通じる認識が示されています。
「投資=お金の話」ではない。
投資とは未来を、社会を、考えて判断、行動すること。
お金のむこうには必ず人がいる。その存在を意識しよう。
この認識も長い投資の旅の心強い「コンパス」になってくれると感じました。
最後の3冊目に選んだのが、影山知明さん著「ゆっくり、いそげ」です。
影山知明 『ゆっくり、いそげ』
西国分寺のクルミドコーヒー店主、影山さんの著書。カフェの経営について書かれた本です。
この本は、大きな書店でもなかなか見つからないかもしれません。仮に見つかったとしても、おそらく「飲食店」「カフェ」の経営のコーナーに並んでいることでしょう。
あらゆる仕事の正体は「時間」である。
投資の成果がどのように生み出されるのか、それを自分で考えてみる。このプロセスが、長い投資の旅の心強い「コンパス」になります。
そのプロセスを経験するのに最適の一冊がこの本です。
投資には時間が必要で、時間を掛けることでリターンが大きくなる可能性が高いだろう。僕が株式投資を始めたころ漠然とそう考えていました。
でも、なぜそうなのか、をイメージするのに使ったのは、株価のグラフでした。何十年もの期間で株価がどう変化したかを見るばかりで、そこから先を考えなかった。株価はなぜ、どうやって上昇してきたのか、を深く考えることは無かった。
何十年もの期間で株価がなぜ上昇を続けてきたのか。この本を読んでそれを自分で考えるきっかけを得ました。
たくさんの人たちが手間ひまのかかった仕事をちゃんと続けてきたから、だから株価は長期で見れば上昇を続けてきた。この本を読んでそんな結論に至りました。
時間をかけた、手間ひまをかけた仕事に想いを馳せる、注意を向ける、関心を寄せる。この姿勢が、僕にとって、長い投資の旅の心強い「コンパス」になりました。「ゆっくり、いそげ」を読んで、ぜひご自身で考えてみてください。株価は長期で見ればなぜ上昇を続けてきたのか、を。
この本にはもう一つ、重要な考え方が示されています。
「利用し合う関係」と「支援し合う関係」です。
「利用し合う関係」と「支援し合う関係」
相手に利用価値を求めるということは、自分も利用価値を求められるということ。
これが「利用し合う関係」です。株式投資関連でSNSに酷い言葉を投げつける場面を見ることがありますが、これって「利用し合う関係」そのものだと感じます。
一方の「支援し合う関係」。
「支援する」ことは「支援されること」なのだ。
これが「支援し合う関係」です。投資とは「支援する」ことであると同時に「支援される」こと。
株式投資も同じです。投資を通じて事業に参加することは「支援する」ことですが、その事業が価値を実現して社会が便利で楽しいものになって、さらに経済的なリターンが得られる。こうして「支援される」ことになる。
この認識は長い投資の旅の心強い「コンパス」になります。
いかがでしたか。
僕自身、20年、株式投資を継続することができましたが幸運に助けられてきました。ちょっと何かが違っていたら現在は全く別のものになっていたかもしれません。これまでの過程でもっと早く心強い「コンパス」を手に入れることができていれば、と感じることは何度もあります。
長い投資の旅を続けるための心強い「コンパス」。
読書を通じて、皆さんが手に入れられることを願っています。
入り口を踏み越えた人たちに向けた続編をつくりました。ご興味をお持ちくださったら覗いてみてください。